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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十九章 兄弟と兄妹
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(8)

「それを知ってるなら、なんで僕が電話をかけたか理由は分かるよね?」


「まあね」

 と、セリカは冷笑を浮かべる。


「あのさ、本当は時間さえあれが清家さんにどうしても聞きたいことがあったんだ」

 僕は、そんなセリカをにらみつけた。

「魔女ヒルダ、というか保健の日向先生がなぜ僕たちに襲いかかってきたのかとか、リューゴ――つまり佐々木龍吾がどうしてこっちの世界でもリナの恋人になっているかとかね」


「あらら。ユウト君、あなたやっぱり現実世界と異世界のことをごちゃ混ぜにしていない? 今までさんざん言ったように、二つの世界はまったく別の次元にあるんだよ」


「それはどうなんだろうね?」

 と、僕はわざと意味ありげに言った。

「でも、今はそのことを追及している暇はないんだ。だからさ、ただ一つの質問に答えて欲しい。――リナは今、無事でいる?」


「へー」

 僕の問いに、セリカは白けた顔をする。

「やっぱりそんなに心配してるんだ、ヒロイン(リナさん)のこと」


「あ、当たり前じゃないか!」


「あのさユウト君、それって本心から言っている?」

 セリカはすべてを見透かすような目で、僕を見た。

「実は、本音はまったく違うんじゃない?」


「え?」


「だって、今はもう異世界のリナさんにもリューゴ君という立派な恋人がいるって分かってるんだよ? しかも目の前であんなにいちゃつかれてコケにされて……。

いい? ぶっちゃけて言えば、ユウト君は現実世界と同じように幼馴染をNTR(ねとら)れちゃったわけ。それでもまだ命を懸けてリナさんを取り戻したいって言うの?」


「それは……」


 セリカは相変わらず、人の心臓を刃物でえぐるようなことをズバズバ言ってくる。


「だいたいあのシャノンとかいう女剣士が現れた時、ユウト君ずいぶんあっさり薬で眠らせられちゃったよね。本当は魔法を使うとか、もうちょっと抵抗する手立てがあったんじゃないの?」


「…………」


「それをしなかったってことは、つまり、あなたは心のどこかでリューゴ君に抱かれたリナさんなんてどうなってもいい、勝手にさらわれていろ! って思っちゃってたんだよ」


「そ、そんなことはない!」


「そんなことあるよ!」

 と、セリカは断定的に言った。

「今、あなたがリナさんを助けに行こうとしているのも結局見栄による行動! もしもリナさんがこのまま戻ってこなかったら格好がつかないし、アリス王女にも顔向けできないでしょうしね!」


 何か言い返そうとしたがそれ以上言葉が出ず、僕はセリカをにらみながら、血のにじむくらい唇を噛んだ。


 清家セリカ――

 この美しい顔をした僕のクラスメイトは、人の心どんなに傷つけても平気だというのか?


 でも……。

 でも……。

 彼女が言うことは、少なからず当たっている部分もあるのだ。

 

 言葉に詰まった僕を見て、セリカはクスリと笑った。


「あ、図星突かれちゃってショックだった? その何ともいえない顔、ユウト君ってホント分かりやすいね」


 いや、そうじゃない!

 リナとリューゴが付き合っていようがいまいが関係ない。

 自分は本気でリナをことを――


「違う! 僕は心からリナのことを心配してるんだ。でなかったら清家さんにわざわざ電話して、リナが無事かどうかなんて確かめないよ!」


 心の中の迷いを打ち消すように、僕はセリカに向かって叫んだ。


 余計なことを考えてはいけない。

 今はただ、リナを救い出すことだけに自分の持つすべての力を注ぐのだ。

 そうやって少しずつ積み重ねていけば、そのうちリナの気持ちも変化してくるはず――


「ふーん、そこまで必死になるんなら、そーゆーことにしといてあげる」

 と、セリカは肩をすくめた。

「で、質問の答えだけど、リナさんはまだ無事みたい。あのお色気ムンムンの魔女のおばさんも手出してないし」


「そう……」

 僕はほっとして、続けて訊いた。

「あの、地図を見る限り、リナは一つ所に留まっているみたいだけど、どこかに移動する気配はない?」


 ヒルダとシャノンがリナを連れて本国ゴートに戻ってしまう――

 それが今、もっとも恐れるべき事態なのだ。


「あれ? 質問は一つじゃなかったっけ。――ま、いっか。魔女もリナさんも女剣士も、今のところはじっとしてるみたい。もちろんこの先どうなるかは私にも分からないけど」


 せっかくアリス(実はリナ)をさらったのにその場から動かないということは、ヒルダの魔力はまだ回復していないのだろうか?

 いや、あるいは、何かまた別のよからぬたくらみを企てているのだろうか?


 ……可能性としては、後者の方が大きい気がする。


 なにしろあのヒルダのことだ。

 魔力を吸い取って失禁までさせた僕に対する怒りは、ちょっとやそっとではないはず。

 そんな彼女が、復讐リベンジの機会をうかがわないわけがない。


「だけど――」

 と、セリカは思い悩む僕に向かって言った。 

「あのおばさん魔女はリナさんのことをまだアリス王女だと信じ込んでいるわけでしょう? でも、それが嘘だとバレちゃえばどうでしょうね?」


「あっ!」


 セリカに言われてはっと気がついた。

 これから先、リナの髪と目を金色に染めた魔法の薬の効果が切れたら、その時点で即、王女が実は偽物(リナ)だと露見してしまうではないか。

 もしそうなれば、たとえシャノンでも、ヒルダの魔の手からリナを庇えきれないに違いない。

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