(6)
「あらぁ、ユウト様って見た目によらず意外と大胆なお方なんですね」
と、リゼットがニヤッと笑って言う。
「ちょっとユウ兄ちゃん、それってどういこと!?」
一方、ミュゼットは怒ってむくれてしまった。
「す、すいません、みなさん、あれはそういうつもりではなく言葉のあやというか――」
僕は三人に向かってしどろもどろになりながら訂正した。
「一刻も早くみんなを助けに行かなきゃと言う焦りから、つい魔が差したというか――」
「魔が差したってなにさ? ロゼット姉さまを脱がせようとしたのは事実なんだよね!」
ミュゼットが僕にグッと詰め寄って問いただす。
「ユウ兄ちゃん、それって言い訳にもなってないよ」
「ウフフ、ユウト様は実は大人の女がタイプなのかしら?」
リゼットはリゼットで、また僕の横に座って体をくっつけてきた。
「その点私はロゼット姉さまには負けない自信がありますよぉ」
「まあ、二人ともユウト様から離れさい! ご困惑されてるでしょう」
と、そこへロゼットがグイッと割って入る。
な、なに!
なんなんだ、これは――!?
ロゼットリゼットミュゼットにおしくらまんじゅうにされ、濃密な色気と芳香とで思わずむせ返りそうになる。
この状況――
うわさに聞く? いわゆる異世界ハーレムそのものではないか。
性別なんてもう関係ない。
こんなに美しくカワイイ三兄弟に同時に迫られるなんて、自分のような落ちこぼれ人間には分不相。
まるで夢でも見ているような、幸せすぎる展開だ。
が、しかし――
だからといって忘れたわけではない。
いや、忘れられるはずもない。
目覚めて以来、単に聞くのが怖かっただけなのだ。
シャノンにさらわれたリナの安否を。
そうだ。
いつまでも現実に目を背けているわけにはいかない。
ここらが潮時、甘く楽しい時間はひとまず終わりにしよう。
そう思って、僕は三人を軽く押しのけ、声を上げた。
「あの、みなさんの気持ちは嬉しいのですが、その前に色々お聞きしたいことが――まず、僕はどれくらいの間眠っていたのでしょうか?」
「これは失礼いたしました。私としたことが!」
と、ロゼットは急に我に返り、僕から身を引いてかしこまって言った。
「気を失われたユウト様がこのデュロワ城に運び込まれたのは、一昨日の夜でございます」
――とすると、シャノンに嗅がされた薬によってまるまる一日半眠りこけていたことになる。
その間にリナは……。
想像しただけで暗澹としてしまう。
が、それでもミュゼットがシャノンからリナを取り戻してくれたことに一縷の望みを持って、僕は質問を続けた。
「あの、それで、さっきロゼットさんはお城の中は逃げてきた兵士でごった返しているって言っていましたが――つまり僕が気を失った後、みんな無事にデュロワ城まで来れたってことですよね?」
「うん! もちろん」
ミュゼットがロゼットに代わって元気に答えた。
が、すぐにがっくり肩を落としてつぶやいた。
「……ただ一名を除いて」
「一名、ということは……」
「ユウ兄ちゃん、ごめんなさい!」
さっきとは逆に、今度はミュゼットが僕に頭を下げる。
「あのシャノンとかいう女の剣士、超速すぎてボクでも追いつけなかった。それでリナさんも結局連れてかれちゃったんだ。王の騎士団の一員だなんて偉そうなこと言ってたのに、本当に面目ないよ」
ああ、やっぱりそうなったか……。
だがそれはある程度覚悟していた事。
そして僕に、ミュゼットを責める資格はまったくないのだ。
「頭を上げてください」
僕はミュゼットに言った。
「リナ様を守れなかった責任はすべて自分にあります。リナ様を一人で先に行かせて、敵に対する警戒を怠たり、おまけに薬を嗅がされ真っ先に行動不能になってしまったのですから」
「ユウ兄ちゃん……」
「安心してください、ミュゼット。僕がなんとかしてみせます」
自分の気持ちを奮い立たせるためにも、僕はなるべく頼もしさを装って言った。
とはいえ、魔女ヒルダと女剣士シャノン、あの二人からリナを取り戻すことがいかに困難か――ほとんど不可能に近いことは十分すぎるほどわかっていた。
しかし、だからといって、このまま安全地帯で手をこまねきグズグズしているわけにはいかないのだ。
「ユウト様、リナ様を助けに向かわれるのですね」
意を決して、ベッドの縁から立ち上がった僕に、ロゼットが声をかけてくる。
「はい、もちろんそのつもりです」
「ですが――」
と、ロゼットが不安げに言う。
「すでにグリモ男爵様がお城の騎士と兵士を総動員して方々手を尽くし捜索に当たらせておりますが、リナ様の消息は杳として知れず、それどころかわずかな手がかりさえない状態なのです」
「その点は大丈夫です。ちゃんと当てはあります」
こういう緊急事態のために、前もってリナに魔法をかけておいたのだから。