(5)
リゼットは僕にきゅっと体を密着させた。
高級シャンプーのようないい匂いがして、リゼットの大きな胸が僕の腕に当たる。
「ウフフフ、なにしろ同性同士ですから殿方が喜ぶすべてのツボを心得ているというか、女の人には決してマネできないすっごいテクニックがよりどりみどり――それはもう一度体験したら忘れられない天国に上るような心地、だそうですよぉ」
あれれ?
そういえば、リゼットは男なのにやたら胸があるのはなんで?
ロゼットもミュゼットもペッタンコなのに。
しかし、リゼットは混乱する僕のことなどおかまいなし。
メイドスカートをちらりとめくり、真っ白な太ももと、絹のストッキングに紫のガーターベルトを見せつけてくる。
うーん。
どこからどう見ても美しい女性の足だ。
「ユウト様、なんでしたら一度試してみます? わ・た・し・と――」
リゼットが僕の耳に甘くささやく。
そのしっとりと潤んだ瞳はたまらなく魅力的、見つめられるだけで全身が熱くなってしまう。
――ヤバい!
このままだと僕もそっちの世界に!!
「ちょっとリゼット姉! いい加減にしてよ!」
と、そんな僕の目を覚まさせてくれたのは、いまだタオル一枚姿のミュゼットだった。
「最初はボクたちの悲しい昔話をしてるかと思ったら、話がどんどん変な方向にいってんじゃん!」
「あらら、ミュゼット嫉いちゃった?」
「そうじゃない――いや、そうだけど! リゼット姉! ボクのユウ兄ちゃんに手ぇ出したら承知しないから!」
「ウフフ。ミュゼット、何を言い出すのかと思ったら。――だいたい自分のお××××を見られただけで逆上しちゃうあなたに、ユウト様のお相手が務まるのかしら?」
「だからリゼット姉と一緒にしないでっ! それとこれとは話が別だし、もしボクが男ってばれたら、その時点でユウ兄ちゃんが引いちゃったかもしれないじゃん!」
「まあ、ユウト様はそんな偏見を持った心の狭い方かしら? 男爵様がいつもおっしゃっている通り、ラブし合う二人の前に性別は関係ないのでは?」
「リゼット姉が言うとなんかいやらしく聞こえるだよね! ――とにかくへ理屈はいいから、ユウ兄ちゃんから離れてっ!!」
僕を巡ってついに取っ組み合いの兄弟喧嘩が始まりそうになったその時――
大きなカミナリが再び落ちた。
冷たい水を持って帰ってきてくれたロゼットだ。
「二人とも! 慎みなさいっ! そう言ったでしょう!!」
ロゼットの鶴の一声によって、リゼットとミュゼットは瞬時に黙ってしまった。
二人とも基本的に気は強そうだけれど、若い身空で兄弟の親代わりを務めたロゼットには、やっぱり頭が上がらないのだろう。
急に静かになった部屋の中。
ロゼットは軽く咳払いをし、僕に大きめのグラスに入った水を差し出してくれた。
「ユウト様、まずはこれで喉をお潤しください」
やっと水が飲める!
僕はコップを受けとり、一気に飲み干した。
ああ……。
冷たくて最高にうまい。
ちょっぴり気取った表現をしてみれば、ただの水なのにどんな美酒よりも美味しい、と言ったところだ。
いや、お酒なんてビールを一口舐めたことがあるくらいだけれど――
「ロゼットさん、ありがとうございます。本当に美味しかったです」
と、僕はロゼットにグラスを返した。
「なんだか生き返った気分です」
「あの、ユウト様……」
グラスをお盆に載せたロゼットが、何か言いたげにモジモジしている。
いつもテキパキしている完璧メイドさんにしては珍しい。
「はい、なんでしょうか?」
「リゼットとミュゼットの会話を少し聞いてしまったのですが――」
ロゼットの端整な顔に、ポッと赤みが差す。
「その……あの……私も、ユウト様のお相手をするのはやぶさかではありませんわ」
「え……!?」
お相手って……?
まさか……そっち系の話?
「ユウト様がそれでお喜びいただけるなら、お客様をおもてなしするメイドとしても本望なのです。――あ、誤解しないでくださいませ。私も決して仕事だからということではなく、むしろユウト様とそういうご縁を結ぶことができればこの上なく嬉しい――かと、存じます」
「待って待って!」
ミュゼットが我慢しきれず叫んだ。
「まさかロゼット姉さまもユウ兄ちゃんを狙ってたの?」
「これはびっくりサプライズですねぇ」
と、リゼットも小首をかしげる。
「メイド業一筋、オトコにまったく興味のなかったあのロゼット姉さまが……」
「二人とも落ち着きなさい。もちろんすべてはでユウト様のご意志によります。でも――」
ロゼットが恥ずかしそうにつぶやく。
「この間の朝、ユウト様は私にこのメイド服を脱げとご命じされたので……当然ユウト様はその先のこともお望みなのかと……」
うわーっぁぁ!
そういえばそうだった!!