(3)
「ユウト様、これは……いったい如何なされたのでしょうか?」
バスルームにやってきたロゼットは、裸のミュゼットとその前で這いつくばる僕を見て顔色を変えた。
「姉さまたち!」
ロゼットリゼットの二人組に向かってミュゼットが叫んだ。
「この人、ヘンタイなんです。ボクの裸を覗いたんです!」
姉さまって――?
あっ!
そういえばこの三人って血の繋がった姉弟だったんだっけ。
参ったな。
だとするとこちらの分が限りなく悪いではないか。
下手すりゃ本当に覗き魔にされてしまうかもしれない。
「ユウト様!」
ロゼットの目がきらりと光る。
「は、はいっ」
怒られる!
僕は思わずその場にビシッと正座し、襟を正した。
ところが予想外にも――
「大変申し訳ございませんでした」
と、ロゼットは僕に深々頭を下げた。
「弟の無礼な振る舞い、わたくしが代わりにお詫び申し上げます」
「ええー! ちょっと、ロゼット姉さま!」
ミュゼットは急いで体にタオルを巻きながら、不満げに口を尖らせた。
「無礼な振る舞いってどういうこと? 覗きをしたのはユウ兄ちゃんなんだよ」
「ミュゼット、少し頭を冷やしなさい」
ロゼットがミュゼットをにらむ。
「ユウト様がそんなことをするようなお方だと思いますか?」
「それは……違うかも」
「そもそも、ここはユウト様のお部屋。なのにミュゼット、あなたがどうしても水浴びしたいとワガママを言うから、絶対にユウト様のお眠りを妨げないという条件で、男爵様が浴室を使うことを許可されたのです」
「だってしょうがないじゃん。お城の中は逃げてきた兵士であふれかえてるから、ここが一番安全にお風呂入れると思っただもん。まさかその間にユウ兄ちゃんが目を覚ますとは思わなかったしさぁ」
「ならばなおのおこと我慢なさい」
ロゼットがミュゼットを叱咤する。
「これくらいのこと」
「そうよそうよ! 別に見られて減るもんじゃないしぃ」
ウフフ、と笑いながら茶々を入れたのはミュゼットのもう一人の姉にして、デュロワ城のメイドナンバー2のリゼットだった。
この前の晩はリゼットは倒れたアリスに付きっきりだったため、間近で接するのは今日が始めてだ。
リゼット――
僕は改めて彼女を見た。
その容姿はロゼットとミュゼットの二人に負けず劣らず美しい。
が、メイドにしてはちょっと崩れた部分があるというか、女らしさを前面に押し出している感じがした。
きちんとメイド帽を身に付け髪をひっ詰めているロゼットと違い、リゼットは赤茶色の長い髪をサラサラさせ、きれいに化粧もしている。
そしてなにより、メイド服の下に押し込めた胸が今にも爆発しそうなくらい大きいのだ。
「それにねぇ、ミュゼット」
と、リゼットがニヤニヤしながら続ける。
「良く考えてみればミュゼットもユウト様も男なんだからあ、裸を見られても別に恥ずかしくないはずじゃない?」
「あのさぁ、好みの男を見つけたら見境なしのリゼット姉さまと一緒にしないでよ!」
ミュゼットがムスッとして言い返す。
「確かにボクの性別はオスだけど、心の中は年頃の女の子なの!」
「二人とも、慎みなさい! お客様の前で下品すぎますよ!」
ロゼットが長女らしく、二人をピシリと叱りつける。
「それと常日頃言っているように、《《私たち》》兄弟はたとえどのような姿かたちをしていてもあくまで男。そのことを決して忘れないようにしましょう」
え、《《私たち》》……?
――いやいや、何かの聞き間違いだよな……?
「ウフフフ」
リゼットが動揺する僕を見て笑う。
「ユウト様ったらぁ、ハトが豆鉄砲食らったフェイスですよ」
「え? え? え?」
「ミュゼットが男の娘だって知ったぐらいで腰抜かすんだったら、私たち兄弟のヒミツを知ったらユウト様気絶しちゃうかなぁ?」
と、リゼットはいたずらっぽく笑いながら、姉のロゼットの背後に回り込んだ。
そしてロゼットの黒いメイドスカートを両手で持つと――
「せーの。えいっ!!!」
一気にスカートを上の方までめくったのだった。
当然、ロゼットの下半身すべてが丸見えになってしまう。
「うわっ!!」
ビビッて叫ぶ僕の目に飛び込んできたのは、ロゼットの白くほっそりとした二本の美しい足。
純白のショーツとガーターベルトとストッキング。
そして――
ミュゼットや僕のモノとは比較にならないくらいな大きい股間のふくらみ、だったのだ。
「ま、まさか……」
「まさかもなにも、見たまんまですよぉ。特にロゼット姉さまのはサイズがアレなんで一目瞭然でしょう!」
リゼットは可笑しくてしょうがなそうに叫んだ。
「ち・な・み・に――私も!」
自分のメイドスカートをたくし上げようとするリゼットを、僕は必死に止めた。
「わ、分かりましたから! もういいです。どうか勘弁してください!」
「あらぁユウト様、“勘弁してください”なんて人聞きの悪い。むしろむしろ目の保養だったのでは?」
リゼットはそう言ってから、ついにこらえきれなくなり、腹を抱えて笑い出した。