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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十八章 油断
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(8)

「キャアッ!!」


 その時、異変に気が付いたリナの叫び声が聞こえた。

 リナは乱入してきたシャノンとふらつく僕を見て、顔をこわばらせている。


 一方、シャノンの動きは俊敏だった。 

 逃げ出すいとまを与えないよう、地面を蹴ってリナに素早く跳びかかった。


「ごめんなさい王女様。あなたもしばらくの間眠っていてもらうわね」


 シャノンはそう言いながら再び頭を軽く振って、リナの顔に長い黒髪を巻きつけた。

 昨日の戦いの恐怖の記憶が甦り、恐怖で動けなくなったリナは、その髪を振り払うことができない。

 

「ああ……」


 と、リナが小さく吐息を漏らした。

 僕と同じく、シャノンの髪に染みこんだ痺れ薬を吸いこんでしまったのだ。

 途端にリナは体勢を崩し、その場に倒れそうになった。


「あら!」

 リナの体を受け止めたシャノンがほほ笑む。

「うわー王女様、軽い! ヒルダとは大違いね」


 リナにとって不幸だったのは、昨日アリスの身代わりになるために飲んだ薬の効果で、目と髪が金色のままだったことだ。

 そのためシャノンは、自分の腕の中でぐったりする王女が偽物だという事実に、いまだ気づけないでいるのだ。


「じゃあね、ユウト君」


 シャノンはそのままリナをひょいと抱きかかえると、僕の方を向いて言った。


「言った通り王女様は私が責任を持って預からせてもらうわ。――あなたももう戦うのは止めて故郷に帰りなさい。それと、この先くれぐれもヒルダみたいな悪い女とかかわっちゃダメよ!」


「……シャノン……待て!」


 リナを連れどこかへ行ってしまおうとするシャノンを追って、僕は必死に前に進もうとした。


 が、さっき嗅がされた痺れ薬のせいで足元がおぼつかない。

 しかも眠い……。

 まぶたが重くて、目を開けているのがやっとの状態だ。


「あっ!! ユウ兄ちゃん、どうしたの!?」


 背後で誰かが叫んだ。

 笛を吹きながら、少し遅れてやってきたミュゼットの声だ。


「ギャアアアアアアアア――!! 」


 このたまぎるような金切り声は――

 やっぱり、間違いなく男爵……。

 

「ちょっとなに、何なのあの女は! ヤバい、絶対ヤバいわ! ねえねえミュゼット、どうしましょどうしましょ!」


 と、早速大騒ぎを始める男爵。

 それを見てミュゼットはあきれたように言う。


「男爵様! 今まで何度言ったか分からないけどさあ、もーいい歳こいてるんだからちょっと落ち着いてよ」


「何よ、ミュゼット! アンタこの状況で落ち着いていられる!? だってだって、ユウちゃんがやられちゃったのよ! ――ユウちゃーん! ちょっと大丈夫?」


 全然大丈夫じゃないです……。

 が、とりあえず生きていることを知らせるため、かろうじて動く手で男爵とミュゼットにジェスチャーを送る。


「よかったぁー、一応死んではいないようね」

 と、男爵がブラックジョークをとばす。


「あのさあー男爵様」

 ミュゼットが男爵をにらむ。

「ボクのユウ兄ちゃんがそんな簡単にやられるわけないじゃん!」


「でもミュゼット、ヤバい状態であることには変わりないでしょ! 魔法が使えるユウちゃんでさえあのざまなのよ。あの黒髪の女、きっとチョー強いわよ」


「んなこと分かってるよ。でも安心して、ボクがどうにかするから。男爵様、王の騎士団(キングスナイツ)の力を舐めないでよ」


「でもさでもさ! ミュゼット、あんたさっきのハイオーク戦でほとんど魔力使い切っちゃったんでしょ? 魔法も使えないでどうやって戦うって言うのよ!」


「しっー! しっー!」

 ミュゼットが慌てて男爵の口を塞ぐ。

「もう男爵様のバカぁ! 敵に聞こえちゃうじゃん!」


「あらヤダ、アタシったらドジね!」

 と、男爵が飛び上る。

「つい口が滑っちゃったわ」


 ほとんどお笑いコンビのような二人の掛け合い――

 それを聞いていたシャノンは、必死に笑いをかみ殺しながら僕に言った。


「ユウト君の新しい友達、なかなか愉快な人たちね。――でもちょっと面倒くさそうだから、私はそろそろ退散させてもらうわね」


「ま、待て……!」


 このままだとシャノンはリナを連れて逃げてしまう……。

 何か魔法を……。

 

 しかし、シャノンに嗅がされた薬はすでに脳の方まで回っていた。

 全身が痺れ、とても魔法を唱えられる状態ではない。

 

 これでは、まさにシャノンの思う壺。

 彼女は白魔法を使われることを警戒して、真っ先に僕を眠らせようとしたのだから――



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