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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第三章 初めての魔法
20/319

(12)

 そこにいた誰もが“まさか!!”

 と、思ったに違いない。

 最悪の事態を想定していたレーモンだって、驚きはあったはずだ。


 しかしさすがというべきか、みんなが浮き足立つ中、もっとも早く反応したのもそのレーモンだった。

 表情一つ変えずに、大声で竜騎士たちに呼びかける。


「副官は――マティアスはどこか!!」


 不幸中の幸い、追い払われた兵士たちは少し離れた場所に集結していて、ティルファの話を聞いた者はいなかった。

 もしロードラント軍全滅の報が知れたらたいへんだった。

 経験の浅い兵士たちは慌てふためき、大混乱に(おちい)ったに違いない。


 レーモンの呼びかけに応じ、すぐに一人の騎士――副官のマティアスがこちらにやって来た。

 マティアスは切れ長の目をした冷たい感じの男で、他の竜騎士とは違う赤銅色の甲冑を身に付けていた。

 副官だから、この護衛軍の中ではレーモンの次に偉い人ということになるのだろう。


「レーモン様、お呼びでしょうか」

 と、マティアスが頭を下げる。


「全軍コノート城まで退却。即座にだ」

 レーモンが短く命を下した。

 もはやアリスの意見など聞きもしない。


「はッ」


 マティアスは短く返事をすると、馬に乗り、合図を送って竜騎士たちを一堂に集めた。

 命令に従い、全軍撤退の準備に取り掛かったのだ。


 なにしろ兵士は二千人近くいる。

 素早く、かつ、無事に撤退させるのはかなり難しい仕事だろう――


 と思ったのだが、そこはエリート揃いの竜騎士団。

 指示を受け素早く散らばると、バラバラだった兵士たちを瞬く間にまとめ上げてしまった。

 それはまったく見事な手際としか言いようになかった。

 もし僕が竜騎士としてこの世界に転移したとしても、とてもこんなマネできない。

 結局、単なる普通の一兵士という身分が、自分にはお似合いだったということか。


 一方アリスは、レーモンと竜騎士が着々と撤退準備を進めている間、ティルファを質問攻めにしていた。


「ティルファ、いったい何があったのだ!!」


「そんなことより、アリス様、一刻も早くここからお逃げを――」


「いや、まだ周囲に異変はない。それに兵士たちが撤退する準備も整ってはいない。だから先に事情を話せ!」


「……わかりました」

 と、ティルファもあきらめてうなずく。


「第一、二軍団の兵はどうしたのだ? 彼らはいったいどこにいる?」


「それは――なんと申し開きすればよいのか……。完全に(はか)られました」

 ティルファが悔しそうに言った。

「我々は敵の術中に陥ったのです」


「どういうことだ? 先日わが軍は連戦連勝、勝利は間近だと報告を受けたばかりだぞ」


「それが敵の罠でした。三日ほど前、先行する第一軍がイーザの主力の騎馬隊と交戦しました。第一軍はこれを撃破し敵は敗走、エルデン将軍が追撃を命じました。そうして翌日、再び第一軍がイーザと接触し完膚なきまでにこれを蹴散らしたのです」


 話を続けるティルファの体は、小刻みに震えていた。


「これを好機と捉えたエルデン将軍は我々第二軍と呼応し、退却するイーザの兵を追って一気に全軍でイーザの拠点になだれ込んだのです。しかし――」


「しかし――?」


「敗走していたはずのイーザ騎兵たちが(きびす)を返し、こちらに突撃してくるではありませんか。当然、我々はそれを敵の最後のあがきと思い応戦しました。ところが実は最初に敗走したイーザ兵は囮で、奴らは主力を後方に温存していたのです」


 敵の陽動にまんまとひっかかったというわけか。

 そういえば昔、そんな戦術を三国志かなんかで読んだっけ。

 攻撃側が強ければ強いほど、陥りやすい罠だ。


「その上イーザは谷底を囲むように巧みに陣地を敷いていました。知らぬ間に我々はその中へ中へと誘い込まれたのです。

 やつらの装備はごく簡素――しかしその分動きは驚くほど身軽でした。我々重装の騎兵は前後左右から攻撃を受け、分断され、ろくに動くことも出来ずないまま敗れ去りました」


「なんと無様な。ロードラントの竜騎士ともあろうものが!」

 アリスの美しい顔が怒りに満ち、白い頬がうっすらと赤くなる。


「……混戦の中でエルデン将軍は流れ矢に当たって命を落とされました」


「なに!? エルデンが死んだだと!」

 

 アリスはしばし絶句し、それから聞き返した。


「……あの歴戦の勇者が? ゴートと勇猛に戦ったあのエルデンが?」


「……はい」


「では第二軍のヴィクトル将軍は? お前の父のヴィクトルはどうした!!」


 その名前を聞いて、ティルファの目に涙が光った。

 そこでもう、ヴィクトル将軍の運命は予想がついた。



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