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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十八章 油断
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(3)

「うわっ! 汚い! それに臭いよ!!」


 ハイオークの唾液で上半身がベトベトになったミュゼットは、さっきまであんなに強気だったのに、今や半泣き状態だ。


 でも――


 その悲惨だけど、どこかエロい光景を見て、僕はある違和感を持った。


 ――何かがおかしい、何かが。


 男爵が言うように、ハイオークは本当にミュゼットを素っ裸にし、いかがわしい行為をしようとしているのか?  


 いいや、おそらく違う!

 もしかしてハイオークは――


 と、思ったその時。 

 僕の推理を裏付けるかのように、ハイオークのお腹が「グウウッ――」と大きな音を立てた。


「男爵様、リナ様!」

 僕は確信して二人に言った。

「ハイオークはミュゼットを捕まえて、その――エッチなことをしようとしているのではありません」


「え、どういうことよ!」


「ズバリ言うと、ハイオークはミュゼットを食べようとしているのです」


「ええええ――!!!」

 男爵とリナが驚いて同時に叫ぶ。


「そう考えると、ミュゼットの一見無謀に思えた戦い方もすべて合点がいきます」


「?????」


 男爵もリナも、キツネにつままれたような顔をしている。

 しかしその時、僕の頭の中では一切の疑問は氷解していた。


 なぜミュゼットはハイオークの戦斧を使用不能にしたのか――?

 なぜミュゼットは無駄とも思える魔法攻撃を続けたか――?

 なぜミュゼットは躓き転んで倒れたのか――?

 なぜミュゼットはハイオークにつかまったのか――?

 なぜミュゼットはかたくなに『炎の壁(ファイアウォール)』の結界を解くことを拒んだのか――?


 それらの行動にはすべて、ハイオークを一人で倒すためにミュゼットが立てた、勝利の方程式だったのだ。


「でもねえユウちゃん、そうだとしたらなんであのエロオークはミュゼットを素っ裸に剥こうとしているのよ!? そんな必要ないじゃない!」


 男爵はどうにも解せない、といった顔をして訊いた。

 緊迫感があまりないのは、まだ僕の話を信じていないからだろう。


「それはごく簡単なことです。人間だって服を着た小ブタをその服ごと食べちゃう人はません。――微妙な例えかもしれませんが、とにかくハイオークにとってもミュゼットを食べるのに服は邪魔、裸にした方が美味しいのでしょう」


「ああ、な~るほど」

 男爵は妙に納得したようにうなずいた。

「ハイオークも見かけによらず意外とグルメなのね」


「ハイオークが人間を? しかも今ここで?」

 だがリナはまだ半信半疑らしく、首をかしげている。

「うーん、それ本当ですか?」


「そう、そうだわ!」

 と、その時男爵が膝を打って叫んだ。

「エロオークの股間、戦いが始まった時とくらべてもまったくモッコリしてないもの! アタシとしたことがうっかりしてたわ! さすがユウちゃん、見るとこ見てるわね~」


 うわっ。

 そんなことを言うと、またリナの逆鱗に触れる。


 と、恐れをなしているとやっぱり――


「だーんーしゃーく!!」

 男爵のお下劣な発言を聞いたリナの顔が、ハイオーク並みに恐ろしく変化する。

「い・い・加・減・に・し・て・く・だ・さ・い!!」


「や、やだ、リナったら!」

 男爵は怯えた声で言った。

「アタシは事実を述べただけよ。だってこれから無理やりエッチなことをしようっていうのに、アソコが全然エレクトしてないのはどう考えてもおかしいじゃない! つまりユウちゃんの言っていることが正しい――」


「黙りなさいっ――!!」

 

 怒声とともに「バーッチン」と威勢のいい音がした。

 リナが男爵の頬を、またまたひっぱたいたのだ。 


「きゃー!! い、痛いわ! 暴力ハンターイ」


 男爵が大げさに悲鳴を上げた。

 一方、リナは怒りまくっている。


「男爵っ!! 今、ミュゼットさんはもっと痛いはずです! それにハイオークは鎧を着ているのに、なんでその――アレがそうなっているなんてことが分かるんですか!!!」


「あ、あら! あっちの方に関しては百戦錬磨のアタシを舐めないでよ! 鎧があってもそんなこと関係ないわ! アタシにはそれくらい軽~く透視できるのよ!」


 なぜかムキになって言い合いを始めるするリナと男爵。


 でも、僕がハイオークがミュゼットを食べようとしていることに気が付いたのは、もちろん股間の大きさではない。


 ミュゼットを捕まえてから垂らし始めた尋常ではないヨダレの量と、ゲームの世界でのハイオークの特性――“ハイオークは人間の、しかも美少女の肉を好む”という事を思い出したからだ。


「とにかくユウトさん、それが本当だとしたら、何もたもたしてるんですか!」 

 リナが男爵の胸ぐらをつかみながら、僕に向かって叫んだ。

「いい加減、結界を破ってください!」」


 やれやれ、僕までリナの怒りを買ってしまった。

 完全にとばっちりだ……。


「あのー、リナ様、実は……」

 僕はリナの神経をこれ以上逆撫でしないよう、恐る恐る言った。

「ミュゼットさんはたぶんこういう展開になることを予想してずっと戦ってたはずです。――まあ、さすがにハイオークに服を脱がされるとまでは思っていなかったでしょうが」


「ええええ――?!」

 

 びっくりするのは二度目のリナと男爵。

 喧嘩しているのも忘れ、お互い顔を見合わせている。




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