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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十八章 油断
197/317

(2)

 ゆっくりと迫ってくるハイオークに対し、ミュゼットが恐怖の叫び声を上げる。


「イヤー! こっちに来ないで!」


 もはや魔法を使うことも忘れたのか、ミュゼットはただ怯え、体を小刻みに震わせるだけだ。


 ……しかし。


 白くスラリとした足を露わにし、しどけない姿で横たわるミュゼットは、何と表現すればいいのか――


 妙になまめかしく、人の情欲をかき立てるような危うい色香を漂わせていた。

 今の今まで強気な態度で戦っていただけに、その弱弱しい姿が逆に被虐嗜好(Mッけ)をそそるのかもしれない。


 もし敵がハイオークでなく、不届き者な人間の男だったらどうなっていだろう?

 欲望を抑えきれず、この場でミュゼットを手籠めにしてしまったに違いない。

 

 いや……でも、なんだかハイオークの鼻息もさらに荒くなってきたような……。

 口から流れ出たよだれが、牙を伝わって地面にぼたぼた落ちてるし………。


「ちょっとちょっとちょっと! 本格的にヤバいわよ!」

 結界の内側の様子を見て、男爵がギャアギャアわめく。

「ミュゼット! あんたホントなにやってんのよ! いい加減、ちゃっちゃっとこの炎の壁を消しちゃいなさい!」 

 

 だが男爵の声も絶体絶命のミュゼットには届かない。

 ミュゼットはハイオークから何とか逃れようと、「あわわ……」と声を漏らしながら、地面をずりずり這って後退するだけだ。


「ユウトさん! 速く速く! 何とかしてください!」

 リナが僕の体を大きく揺さぶる。 

「でないとミュゼットさんが――!!」


「リナ様、そう言われても! こっちも目いっぱいの魔力使ってやってるんです!」


 僕は『炎の壁(ファイアウォール)』に向かって、何度も何度も『ブレイク』の魔法をかけ続けた。

 が、それでも多少炎の勢いが弱まるだけ。

 結界自体を破ることがどうしてもできない。


 くそっ、僕の魔法がここまで通じないとは!

 ミュゼットはいったいどれだけの魔力を込めて、この『炎の壁(ファイアウォール)』を作り上げたというのか?


 そうこうするうちに――


「きゃーーーー!」


 ひときわ大きなミュゼットの叫び声が聞こえた。

 ハイオークがミュゼットを片手で捕まえ、クイッと軽く空中に持ち上げてしまったのだ。


 「やめて! 離して!」


 ハイオークは手足をばたつかせるミュゼットを自分の顔の前にもっていき、全身を舐め回すように観察したあと、重低音なボイスで言った。


「……ヨクミレバ、ウツクシイムスメダ」


「ハァ!? “よく見れば”ってどういうこと!?」


 と、ミュゼットがこの期に及んでしょうもない抗議をする。

 だが、ハイオークはもちろんそれを黙殺し、ミュゼットを握った手とは反対の手で彼女の着ているシャツを器用につまんだ。

 そしていきなり――「ビリリッ」と、それを下着ごと引きちぎってしまった。


「キャー、エッチ!」


 服が破れ上半身ほぼ裸になったミュゼットは、慌てて両手でその薄い胸を隠す。


「な、なにすんのさ! この変態オーク!」  

  


◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ミュゼットの絶体絶命のピンチを見て、男爵が飛び上がって絶叫した。


「ヤダヤダヤダヤダ! ちょっとあのハイオーク、鼻息荒いわよ! ――ももも、もしかしてもしかしたら、あの子をヤる気なの!? あり得ない――絶対にありえないわ!! だってだって、あんなデカいのがデカいのでナニをしてナニされたら、あの子壊れちゃうわよ――!!」


「男爵っ――!!」


 そこでリナの怒声が飛んだ。

 リナは男爵の胸ぐらをつかむと、思いっきり「バチーン」とビンタをかましたのだった。


「ちょ、ちょっとリナ!! 何すんのよ! 痛いじゃない!!」


 男爵が頬を抑えわめくが、リナはそれを上回る剣幕で怒鳴った。


「この非常時にいったい何言ってんですかっ!! 私はその手の下品な冗談が一番嫌いなんです!!」


 持ち前の潔癖症的な正義感を発揮するリナ。

 が、男爵は懸命に取り繕って叫んだ。


「ご、ゴカイよ! 誤解! ほら、アンタもあのスケベハイオークを御覧なさい!」


 男爵の言う通りだった。

 ハイオークはミュゼットの上着に続いて、ショートパンツに手をかけようとしているのだ。

 もちろん脱がすか、破くかしてミュゼットを裸にしたいのだろう。


「ダメ――!! ここだけはダメ――!!」


 今度ばかりはミュゼットもパンツを手で押さえ死にもの狂いで抵抗する。

 ハイオークもさすがに手を焼き、簡単には目的を果たせない。


 しかしその息はますます荒くなり、口から垂れたヨダレがミュゼットの体にボタボタかかってしまう。




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