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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十八章 油断
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(1)

 僕はリナとグリモ男爵に理由を簡単に説明した。


「実はお二人が戦いの様子に気を取られている間、この『炎の壁(ファイアウォール)』を打ち消すため何度か『ブレイク』という白魔法を唱えてみたんです。けれどミュゼットの魔力が強くて、どうしても壁を壊すことができませんでした。かといって無理にでも乗り越えようとしたら、みんな確実に焼け死にます』


「あら、それならユウちゃん」

 と、男爵が言った。

「ここから壁越しに魔法を唱えればいいんじゃない? ミュゼットまで届く何かいい魔法はないの?」


「いいえ男爵様、それも残念ながら無理なんです。このファイアウォールはただの炎の壁じゃない。強固な結界になっていて、僕がどんな魔法を使おうがすべてかき消されてしまいます」


「ええっ、そうなの!?」


「はい、つまり今、ミュゼットさんとハイオークは高い壁に囲まれた箱庭の中で戦っているようのもので、こちらからは一切手出しができません。だから何とか彼女に結界を解除してほしいんですが……」


「そうよねぇ。でもあの子、意地っ張りだから……」

 男爵が顎に手を当ててため息を漏らす。


 すると、僕と男爵の会話を聞いていたリナが、突如壁の前に駆け寄りミュゼットに大声で呼びかけた。


「ミュゼットさん!! いいですか? ハイオークの弱点は頭ですよ!! そこをよーく狙ってください!!」


「んー!」

 ミュゼットは相当疲れが出てきらしく、はぁはぁと肩で息をしながら返事をした。

「そんなことボクもとっくに分かってるよ~。でもコイツ、頭に魔法を当ててもビクともしないんだもん!」


 その通り、確かにミュゼットは、さっきから『フレイムショット』の炎の弾丸をハイオークの顔と頭に何発か命中させていた。


 が、それでもハイオークはへっちゃらだった。

 おそらく、特効武器の『オーク殺し』ですら貫通できなかった固い皮膚と頭蓋骨に阻まれ、唯一の急所である脳まで炎の弾丸が届いていないのだろう。

 

 となると、今のままでは限りなくまずい。

 ミュゼット一人では、ハイオークは絶対に倒せないということからだ。


 僕は『炎の壁(ファイウォール)』を破壊することをいったんあきらめ、ミュゼットに向かって叫んだ。


「ミュゼットさん、早くこの結界を解いてください! 僕が助太刀しますから! でないとたいへんなことになりますよ!」


 けれど――


「ヤダ! それだけは絶対ヤダ―!」


 ミュゼットはハイオークの攻撃から必死になって逃げ回りながらも、その申し出を断固として拒否したのだった。

  

「どうして!」


 このままだと確実に負けるのに、ミュゼットはなぜそこまで意固地になるのだ?

 王の騎士団(キングスナイツ)としてのプライドが許さないのか、それとも何か別のワケが――?


 今一つ理由が分からず頭を抱えていると、ミュゼットの悲鳴が聞こえてきた。


「きゃあっ!」


 言わんこっちゃない。

 ジャンプしようとした際、ハイオークのパンチで出来たクレータの一つに足を取られて、地べたにすっ転んでしまったのだ。


「イタタ……」


 ミュゼットは顔をしかめ、ふくらはぎ辺りをさすっている。

 どうやら足をくじいて、ほとんど動けないらしい。 


「んもー! 外野がうるさいから気が散ってコケちゃったじゃん!」 

 

 八つ当たり気味に叫ぶミュゼット。

 それを見たハイオークが攻撃する手をピタリと止めた。


 もう急いで獲物の息の根を止める必要はないということだろう。

 ハイオークは「グルルル」と不気味に喉を鳴らしながら、ドシンドシンと重い足取りでミュゼットに近づいていく。


 

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