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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十七章 ロードラントの笛吹き娘
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(12)

 だが、あまりに身長差がありすぎて、ミュゼットがどんなに手を伸ばしても炎の剣が届くのはせいぜいハイオークの腰のあたりまで。

 たとえ剣が当たっても固い鎧に阻まれ、まともにダメージを与えられるとは思えなかった。

 

 つまりそれは100%無意味な攻撃。

 ハイオークもきっと、ミュゼットの意図を図りかねたに違いない。


 とはいえ魔法剣での攻撃だし一応、といった感じに、ハイオークはその斬撃を戦斧で軽くはらった。


「うわっと」


 ミュゼットが思い切りよろけ、危うく地面に転びそうになる。

 当たり前だ。

 いくら魔力が優れていても、腕力でハイオークにかないっこない。

 まさに天と地ほどの差があるだろう。


「さすがにやるね~」

 体勢を立て直し、炎の剣をギュッと両手で握り直したミュゼットが言った。

「じゃ、今度はもうちょい本気出していくよ!」


 ミュゼットが一瞬、精神を集中させる。

 力の差を魔力で埋めようというのか、身にまとう真紅のオーラのパワーはさらに高まり、炎の剣はより激しく燃え上がった。

 

「覚悟ォ――!」 

 

 ミュゼットがそう叫び、もう一度はハイオークに切りかかった。

 今度はハイオークも、戦斧を両手にしっかり持ち、そのつかでこれをガツンと受けた。

  

「やったね!」

 攻撃が成功したわけでもないのに、ミュゼットはなぜか嬉しがっている。

 

 え!? なんで?

 と思っていると――


 ハイオークの鋼鉄の戦斧が、まるで製鉄所の炉で熱せられた鋼板のように、みるみる赤色に変化していくではないか。

 

 そうか! 

 ミュゼットの狙いが分かった。


 ハイオークの鎧には熱耐性があっても、戦斧は違う。

『フレイムソード』の灼熱の炎を戦斧に伝え、その鋼を熱で溶かしてしまおうというのだ。

 

 引くに引けないハイオークは低く唸りながら、真っ赤になりつつある戦斧の柄でミュゼットの炎の剣を受け続けた。


 が、それも長くはもたない。


 ()しものハイオークも1000℃を超える高熱に耐えきれなくなったのか、「グオッ!」とひときわ大きな叫び声を発して、戦斧をミュゼットの方に強く押し返し前方に放り出してしまった。


「うわっと」


 ミュゼットは熱々の戦斧を避けるため、手から一瞬で炎の剣パッと消し、後方にジャンプした。


 そのまま地面に落ちた戦斧は、そこに生えていた雑草に触れ「ジュッ」と音を立てた。

 しかし、それでもまだ鋼は熱くくすぶっている。

 戦斧は当面、武器として使い物にならないだろう。


 そして辺りに漂ってきたのは鼻につく異臭――

 草の焼ける臭いと、ハイオークの手のひらの肉が焼ける臭いが混ざり合って発生した何とも言えない悪臭だ。 


「これで少しは静かになったかな? ちょっと臭いけど――」

 鼻をつまみながらミュゼットが言った。

「それにさ、ご自慢の得物(ぶき)がなくっちゃあ、戦力半減だよねぇ!」


 ミュゼットに徹底的にコケにされ、ハイオークはついに怒髪どはつ天をいてしまった。


 次の瞬間――


「ウオオオオオオオオオオオッ――!!」

 と、恐ろしい咆哮ほうこうを上げながら、ミュゼットに向かって突進してきたのだ。

  

「ひゃー、怒った怒った」


 おどけるミュゼットに対し、ハイオークの怒りのメガトンパンチが炸裂する。

 もう作戦も何もない、ハイオークはひたすら力任せに、押して押して押しまくるつもりだ。

 しかしミュゼットの動きにはまだ余裕があり、この体当たりも軽く避けた。


 ところが、ハイオークもしつこい。


 右

   左

 右 

   左

 右

   左


 と、ミュゼットを狙って交互に鉄拳を振り下ろしていく。

 その度に地面には大きな穴が空いて、辺り一帯はたちまち、月の表面のようなクレーターだらけになってしまった。


「まったまた単細胞な攻撃を――」

 ミュゼットはハイオークの攻撃をことごとくかわしながら、不満げに言った。

「でもやっぱ武器がないとボクには勝てそうにないね。――さ、そろそろ終わりにしよっか」


 さらなる魔法攻撃で勝負を決めるのか――

 と、固唾を飲んで見守っていると、ミュゼットは右手の指を曲げ、再び手でピストルの形を作った。


『フレイムショット!!』


 次の瞬間、ミュゼットの指先から炎の弾丸がパラパラと勢いよく連射された。

 それはまるで、魔法の射撃モードを単射からフルオートに切り替えたかのようだった。

 おそらく今のが、ミュゼットの魔力で可能な最大限の攻撃――


 だが、効かない。


 ハイオークはニタリと笑って一瞬足を止めると、腕をL字型に曲げ防御姿勢を取り、炎の弾丸をすべてブロッキングしてしまった。

 ミュゼットの魔法も凄まじい威力を持っているはずなのだが、ハイオークに大きなダメージを与えるまでには至っていないのだ。


「ありゃりゃ……これでもダメか」

 ミュゼットはその時初めて、困った表情を浮かべた。

「まいったなぁ」

 

 そこへまた、ハイオークのパンチが飛んでくる。

 ミュゼットはやむなくこれを動きまわって逃げ、隙を見ては『フレイムショット』を撃ち込む――


 一人と一匹との戦いは、しばらくこの繰り返しとなった。

 このままだと、どちらかの体力――ミュゼットの場合は魔力も――が先に尽きるかの持久戦だ。


「ねえねえ、ユウちゃん!」

 その様子を見ていた男爵が、僕の服をひっぱって言った。

「ちょっとヤバくない? あの子の魔法、全然通らないじゃない」


「ええ、確かに」


「じゃあさ、どうにかあの子を魔法で援護できないの? ユウちゃん、あなた攻撃補助魔法も使えるんでしょう?」

 と、男爵がせっつく。


「そうしたいのは山々なんですが……」


 困ったことに、戦いの前ミュゼットが作り出した『炎の壁(ファイアウォール)』の結界が、どうしても破れないのだ。




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