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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十七章 ロードラントの笛吹き娘
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(10)

「まあ男爵様が認めても認めなくても、ボクは最初から戦う気だったけどね」


 ミュゼットは上着として羽織っていたえんじ色の頭巾を脱ぎ捨て、半袖のシャツに白い太もも露わなショートパンツ姿になった。

 布地やデザインは一応中世風――

 なのだが、それはまるで夏休みに近所のコンビニへ買い物に行く女子中学生のようなラフな服装だった。

 

「ほいっ。これボクお気に入りだからさ、戦いが終わるまで大事に持っといて」


 ミュゼットはえんじの頭巾をこちらに投げてよこした。

 男爵が自然に手を伸ばしそれを受け取る。

 

「男爵様、どうも。あ――それと三人とも、戦いに一切の手出しは無用だからね。余計な事したら怒っちゃうよ」


 ミュゼットはそう言ってから、大胆不敵にもハイオークの方へスタスタ歩いて行った。


 おいおい、本気で一人でやる気なのか――!

 あらためて驚きを覚えた僕は、大声でミュゼットを止めた。

 

「ちょ、ちょっと待った!」


「あーやっぱし邪魔する気なんだ」

 と、ミュゼットは僕をにらみ付けて言った。


「だっていくらなんでも一人でハイオークと戦うのは無謀だよ! それにその格好じゃ!」


「格好? この服のこと? んなの戦いの勝敗には関係ないね」


「いやいや、それはおかしいでしょ!」


「ダメ? どうしても止める? ――うーんそれじゃあ仕方ないか」

 ミュゼットはため息交じりに、地面に人差し指を向ける。

「悪いけど結界を張らせてもらうよ――『ファイアウォール!!』」


 次の瞬間、ミュゼットの指先から魔法エネルギーが放出された。

 そのエネルギー波は、地面に当たるとたちまち白く燃え上がり、僕たちの目の前に高さ1.5メートルほどの炎の壁を作ってしまった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『ファイアウォール』


 一定の時間炎の壁を作って敵の行く手を遮る炎の魔法。

 無理に乗り越えようとすれば命はない。

 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「こっちに来ようとすると焦げ焦げになっちゃうから気をつけてね☆彡」

 

 魔法を唱え終わったミュゼットはいたずらっぽくウインクし、再びハイオークの方に向き直った。

 僕はそんな怖いもの知らずのミュゼットを何とか引き留めたくて、燃え盛る炎の方に近づいた。

 が、全身に強烈な熱を感じ、思わず三歩ほど後ずさりをしてしまった。

 

 ――この結界(ファイウォール)、相当強い魔力によって作り出されている。

 おそらく僕の魔法(ブレイク)でも簡単には破れないだろう。

  

「さあて誰にも邪魔されず、一対一(さし)でいっちょやりますか!」


 ミュゼットは準備運動をするように肩をグルグル回しながらさらに進み、ハイオークのすぐ手前で立ち止まった。

 ところがそこまで近づいてもミュゼットはまったくのノーガード。

 緊張感のカケラもない。


 そんなミュゼットを見て、ハイオークは黄色く尖った牙をむき「グルルルル」とい低い唸り声上げ、巨大な戦斧を持ち直した。

 どうやらようやく彼女を“敵”と認識したようだ。


「うーん……そうだなぁ」

 ミュゼットは戦闘態勢に移行したハイオークを見上げ、値踏みするように言った。

「デカいだけじゃなくて、少しは楽しめそうかな?」


「キサマ……」

 ハイオークがギロリとミュゼットをにらむ。

「イノチシラズメ……」


 そうだった。

 ハイオークは人語を解し、会話もそれなりにこなすのだ。 

 

「へえーハイオークって喋れんだぁ。すごいなぁ」


 と、ミュゼットも感心したように言う。

 しかしその言葉とは裏腹に、ミュゼットの態度はハイオークを思いっきりバカにしているようにしか見えなかった。

  

「ムシケラメ!」

 

 ハイオークもミュゼットに舐められているのが分かったのか、灰色の目におぞましい殺気を宿し、出し抜けに戦斧を天に向かってを振りかぶった。

 

「シネ――――!!!」


 問答無用でミュゼットを頭から叩き切ろうというのだろう。

 戦斧をミュゼットめがけ、ぶんっと振り下ろす。


「お! 速えーじゃん!」


 しかしミュゼットは涼しい顔だ。

 短く口笛を吹いて地面を蹴り、真横へ数メートルジャンプして、ハイオークの一撃を悠々かわした。 


「グオオオオオオ――――」


 だがハイオークもいきなりミュゼットを殺せるとは思っていなかったらしい。

 激しい唸り声を上げながら素早く戦斧を持ち上げると、今度は軽めに振り上げ、ミュゼットの顔面を狙って切りつけた。


 むしろ最初の一撃はブラフだったのかもしれない。

 この巨体に似合わぬハイスピードな斧さばきに、昨日も何人もの竜騎士が餌食になったのだ。



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