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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十七章 ロードラントの笛吹き娘
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(9)

「リナ様、男爵様、僕はミュゼットに加勢してきます」

 と、僕は二人に言った。

「危険この上ないので、お二人は今度こそ絶対にこの場から動かないでください」


「えぇー! また置いてけぼり? ヤダわぁ」


 男爵が不満げに頬を膨らます。


「あのですね男爵様。ここにいたほうがずっと安全だからそう言っているんです! 意外と知恵の回るハイオークが、わざわざリスクを冒して霧の中に入ってくるとは思ませんから。リナ様も分かりましたね!」


 僕は二人にキツめに警告してから、ミュゼットの後を追って霧の外に出た。

 途端に周囲がパッと明るくなり、ミュゼットがハイオークの手前、二十メートルほど離れた位置に立っているのが見えた。


 が、ミュゼットはまったく無防備で身構える様子はない。

 ただ物珍しそうに、巨大なハイオークの姿を見物しているだけだ。


 それに対し道の真ん中に陣取るハイオークは、ビッグサイズの戦斧を手にしながら、白く濁った眼でミュゼットを睥睨(へいげい)している。


 しかしハイオークもすぐに戦いを始める様子はなかった。

 それどころが、戸惑いのあまり身動きが取れない感じさえする。

 もしかしたらミュゼットを見て、(なんだ、この子供は?)と首をひねり、何か罠があるのではないかと疑っているのかもしれない。


 確かにミュゼットとハイオークを比較すると、まるで巨人と小人こびとというか、象とアリとが向き合っているようで、まともな戦いが成立するようには思えないのだった。

 

 滑稽にすら見えてしまう圧倒的な体格差――


 ハイオークと戦うに当たって、ミュゼットはいったいどんな戦法を取るつもりなんだろう? 

 と、焦りを感じつつも若干の興味をかきたてられていると、突然、背後から甲高い悲鳴が聞こえた。


「きゃあああああああああーー!!」

 

 この黄色い絶叫……。

 確認するまでない、グリモ男爵の声だ。


 あーあ。

 結局男爵は忠告を無視して、リナと共に霧の中から出てきてしまったのだ。

 そして巨大で強大なハイオークを見て、恐怖の雄叫びを上げたのだ。


「きゃあああああああああああああーー!!」


 しかしいったいいつまで叫んでるだよ、この人……。 

 そんなに怖いんだったら、ずっと隠れてばいいのに……。


「な、な、何なんのよ、このとっんでもなくブッサイクでへちゃむくれた怪物は!! しかもデカい!! デカすぎるわ!!」


 ハイオークを見上げ男爵が目をひん剥いて叫ぶと、ミュゼットは振り返って、うんざりしたように言った。


「男爵様~もう分かったからさぁ、ちょっと静かにしててよ」


「だってだって、ほんとデカいじゃない!」

 と、男爵のおしゃべりは止まらない。

「いいことミュゼット? デカすぎて嬉しいのは、キルケイ産の生牡蠣(かき)殿方(とのがた)のアソコのサイズだけなのよ!!」 


 ……こんな時でも隙あらば下ネタを飛ばす男爵。

 それを聞いたミュゼットは一瞬意味が分からずキョトンとしていたが、すぐに顔をしかめて言い返した。


「アソコのサイズって……ったく、相変わらず下品なオッサンだなあ、男爵様は! もうやんなっちゃう!!」 


「あらミュゼット! 下品だなんて失礼な! アンタにも付いているモノでしょ!」

 男爵もムキーッとなって言い返す。

「それにオッサンって何よ、オッサンって! せめてオバサン――いいえ、おネエさんと呼びなさい!」


 ハイオークという強敵を前にして、何なんだこの喧嘩は……。

 それに、“付いている”って?

 いや、そこはグリモ男爵の一流の冗談か。

 

「もーいい加減にしてよ! この話はここで終わり!!」

 ミュゼットもついに堪忍袋の緒が切れたのか、男爵を怒鳴りつける。

「そんなことより、どーすんのさ? そこのデカい化け物(ハイオーク)、ボクがやっつけっちゃっていいの?」


「……ううん……そうねぇ」

 

 と、そこで男爵は急に口を濁してしまった。

 表情も曇り気味だ。


「黙っているってことは、魔法を使って戦ってもいいってことだよね?」

 そんな男爵を見て、ミュゼットが畳み掛ける。

「みんなを救うためだから仕方ないよね?」


「……やむを得ないわね」


「へー男爵様、ボクが魔法を使って戦うことに賛成してくれるんだ」

 ミュゼットが皮肉っぽく言う。

「それって初めてのことだよね?」


「……今はしょうがないでしょ!」

 と、男爵は一転して腹立たしげに叫んだ。

「ミュゼットって、ホント嫌な子!」


 グリモ男爵とミュゼット――

 二人は昔からの知り合いで、関係がギクシャクしているのは知っていたけれど、今のやり取りで、その原因の一端を垣間かいま見た気がした



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