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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第三章 初めての魔法
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(11)

 さっきは誰にも知られず、また注目もされず『スキャン』の呪文を唱えることができた。

 しかし今はアリスやリナ、それにレーモンなど衆人環視の中で魔法を使おうとしている。


 ――そこだ!


 思えば現実世界の自分も、人前で何かをする時、緊張しすぎて失敗することが多々あった。 

 つまり今、誰の目を気にせず落ち着いて魔法を唱えれば……。 

 

 僕は一度深く深呼吸し、目をつぶった。

 アリス、リナ、レーモン――魔法(クリア)の対象者であるティルファ以外の、周囲にいる人の存在を消す。


 自分はこの人を救う。

 回復役(ヒーラー)として、絶対に助ける。


 そう意識しながら、僕は右手をティルファの上にかざす。


『クリア!』


 途端に、美しい緑の光が手の平から溢れだし、ティルファの体を包み込む。


「おお……」


 周囲から自然と声が上がる。


 やった! 上手くいった。

 土気色をしていたティルファの肌に、みるみる血の気が戻ってきた。


 よし、ここは一気に――


『リカバー!』


 今度は白い光が、ティルファを包み込む。

 さっきマリアが発した『リカバー』の光よりずっと強い。


「アリスさま。ティルファの傷口がどんどんふさがっていきます!!」

 リナがうれしそうに叫んだ。


「ユウト、すごいぞ。すごい魔法だ」

 アリスはまるで子供のようにはしゃぐ。


 シスターマリアは信じられない、といった風に目を丸くしている。

 そしてレーモンでさえも、一瞬驚きの表情を浮かべた。

 ……もっとも彼だけは、すぐに元の偏屈そうな老将の顔に戻ってしまったが。


 とにかく、これでティルファの傷はほとんど治った。

 次に、肩に刺さった矢を抜くことにする。

 僕は矢柄(やがら)を握り、ぐいっと強く引っ張った。


「ううっ」


 意識が戻りつつあるのか、ティルファは低くうめき、苦悶(くもん)の表情を浮かべた。

 それでも構わず矢じりを傷口から引きずり出す。


 再び血があふれ出てきたが、もう一度『リカバー』をかけるとそれもすぐに治まった。

 これで完治だ。


 そして目の前に現われたのは、美しいティルファの裸体――


「!!!」


 僕は急に恥ずかしくなって、横を向いた。

 だが、周りに集まっていた兵士たちは、そんな遠慮は持ち合わせていない。

 みんなニヤニヤしながらティルファの裸を眺めている。


「まったく、下衆(ゲス)どもが」

 レーモンがそれに気づき、舌打ちをして兵士たちを追い払いにかかった。

「バカ者ども。全員隊列に戻れ!! もうじき出発だ」


 怒鳴られた兵士たちは、しぶしぶその場から散っていく。


 ――そういえば僕も普通の兵士だったんだ。

 急にそれを思い出し、立ち上がってエリックたちの所に戻ろうとした。


「おい、どこに行く!」

 アリスが慌てて僕の腕をつかんだ。


「お前はここにいていいのだ」


「で、ですが……」


 その時、僕はすでに我に返っていた。

 偉い人たちに囲まれていることが、急に怖くなったのだ。


「ユウト、お前、そんなに素晴らしい魔法の力を持っているのに、今までどうして単なる兵士でいたのだ?」

 アリスはつかんだ腕を離さない。


「本当にそうですよ」

 と、リナがティルファに毛布を掛けながら、僕の方を向いた。


 この異世界に来て、初めてリナと間近で目が合う。

 美しく澄んだ瞳だ。

 リナと理奈――やっぱり二人はどこからどう見ても同一人物。 

 僕は急に現実世界での理奈を思い出し、悲しく複雑な気分になった。


 が、異世界のリナは、もちろん僕のことなんかまったく知らない。

 つまり今が初対面ということだ。


「軍や宮廷でもっと重用されてもおかしくないのに……」

 と、リナが言う。


「それは、その……」


 僕は口ごもってしまった。

 その点、どうにも説明しようがないからだ。


「まったくだな」

 アリスが憮然(ぶぜん)として言った。

「よし! ならば今からユウトは私付きの魔術師とし、私と行動を共にする。これは命令だ。よいな」


「アリス様、お待ちを!」

 と、レーモンがとんでもない、という口調で言った。


「なんだ! またか、レーモン」

 アリスが再びレーモンをにらむ。


「そのような素性の知れぬもの、いきなり側近にするわけには!」


「黙れ、お前もユウトの力を見ていただろう!」


「いや、しかし!」


 と、レーモンがアリスを必死に説得しようとしたその最中――

 ティルファが突然目を覚まし、叫んだ。


「アリス様!! 一刻も早くここからお逃げください! 一軍二軍はすべて壊滅し、敵は間近まで迫っています!」


 一瞬、その場にいた全員が凍り付いた。



 

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