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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十七章 ロードラントの笛吹き娘
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(4)

 クロードはレーモンの体をつぶさに観察しながら言った。


「根本的に悪い部分を――まずはその切断された足をつなげないと、レーモン公爵は危険な状態を脱することはできませんね」

 

「え……?」


 一度切れた人間の肉体と肉体をつなぐって、手術するわけでもあるまいし、そんなことできるのか?

 少なくとも僕の『リカバー』の魔法では無理だ。


「私がやってみましょう、あの、切れてしまったレーモン公爵の足は――ああ、これですね」

 

 クロードはそばにあったレーモンの足の部分を見つけ、ひょいと持ち上げると、巻かれていた布を取って、それをももの部分の切断面と合わせた。

 それから魔法を唱えた。


『リペア!』 


 クロードの手からあふれる赤い光。

 その光は、ドロッとした液体状になって、切れた足と腿の隙間に流れ込んでいった。

 さらにそれから数秒、液体の光は固まり始めた。

 外から見ていても肉と骨をつながっていくのが分かる。


 すごい。

 僕は目を見張った。

 まるで瞬間接着剤だ。


「これでいいでしょう」

 と、クロードはレーモンの足が完全につながったことを確認し、ほほ笑んで言った。

「あとはユウト君、あなたの魔法でレーモン公爵を回復してあげてください」


「――僕が?」


回復魔法リカバーは私より、あなたの方がずっと上ですよ。私はたまたま『リペア』の魔法を覚えていただけですから」

 

 クロードはあくまで控えめだ。

 この人も貴族なんだろうけど、まったくそれらしくない。

 すごく感じのいい人なのだ。

 

「わかりました」

 

 僕は言われた通り、レーモンにもう一度『リカバー』の魔法をかけた。

 すると、今度は確かな手ごたえがあった。


 次第に、レーモンの顔色に血色が戻ってくる。 

 閉じていたまぶたがぴくぴく震え――


「……叔父様!!」


 薄っすらと目を開けたレーモンを見て、リナがまた涙を流す。

 今度はうれし涙だ。


「……リナか」


 偏屈な老人の顔に、かすかな笑みが浮かぶ。

 見ているだけで涙を誘うような感動的な対面シーン。

 普通ならここでとりあえず物語は一区切り、映画やドラマなら、このままエンドロールに突入してもおかしくないが――

 現実はそうはいかない。

 これからもずっと危険と困難が続くのだ。


 レーモンも周囲に大勢の人がいるのに気付き、たちまち元の厳しい顔つきにもどってしまった。

 さらに僕を見つけて、口をへの字に曲げて叫んだ。


「む! ユウト!」


「ご安心下さい」

 が、僕は機先を制して言った。

「アリス様はちゃんとデュロワ城に送り届けました。高い城壁に囲まれ、当分の間は安全でしょう」


「むむ!」


 唯一の心配事が解消され、レーモンはそれ以上もう何も言えなくなったようだ。

 プイと横を向き、僕から視線を逸らしてしまう。


「まったく……ユウトにお礼の一つぐらい言いやがれよ」

 それを見ていたエリックがぶつくさつぶやく。

「命がけで戻ってきたのは分かっているだろうに、まったくこのジジイは――」


「エリックさん!」

 それを聞いていたリナが、思わず立ち上がってエリックをにらんだ。

「叔父様に――公爵様に向かってそんな口をきいて、いくらなんでも失礼です!」


「おっと、ついつい口がスベっちまった。こりゃまたご免なさいよ」


 そう言いながらも、エリックはヘラヘラしてまったく悪びれていない。

 が、レーモンはそれを聞いて怒る様子はなかった。

 むしろ諭すようにしゃがれ声でリナに言った。


「……もうよい、リナ。その男には好きなように言わせておけ。――それよりお前は速くここから脱出し、動ける者を連れてデュロワ城に戻るのだ」


「え!? 叔父様は? 叔父様はどうなされるのですか?」


「傷は多少回復したようだが、まだまともに立ち上がることもできぬ。さりとて皆の足手まといにはなりたくない。だからこのままここへ置いていってもらう」


「おいおいおい」

 エリックがあきれたように叫んだ。

「せっかく助かったのにそりゃないだろ! そんなこと許せるかよ。俺はジジイを戸板に括り付けてでも一緒に連れて行くぜ」


「まあエリックさん! また“ジ……ジジイ”だなんて汚い言葉を使って!! 助けてくれたのは有難いですが、それとこれとは話は別。叔父様にちゃんと謝って下さらないと、本気で怒りますよ!」


 ……どうもゴタゴタしてきた。

 今は言い争っている場合ではないのに、どうしてみんな同じようなことを繰り返してしまうのだろう?

 結局、問題の根本は――貴族と平民という理不尽な身分制度にあるんじゃないだろうか?


 しかしこの異世界において、その垣根を取っ払うのは限りなく難しい。

 少なくとも僕だけの力ではどうしようもないことだ。

 そう一人で嘆息していると――

 パン、パン、パン、と大きく手を叩く音がした。

 遅れて丘を登って来たグリモ男爵だ。


「はいはい!! そこまでそこまで!! みんなさん、いい加減にしてちょうだい。周りにはケガで苦しんでいる男子が一杯いるっていうのに、何のんきに喧嘩しているのよ! それに見てみなさい、あんな子供(ミュゼット)が頑張っているのよ」


 そう言って男爵は、えんじ色の頭巾を被ったミュゼットを指差した。

 ミュゼットは大勢の負傷者の間を飛び回り、手当たり次第『リカバー』をかけまくっている。


「ほらほら、次はどの人かな~? ボクが魔法でちゃっちゃっと治してあげるからね~」


 事態の深刻さを感じさせない、ミュゼットの無邪気で無防備な振る舞い。

 その姿はどこかお転婆な天使を連想させた。


 でもミュゼットは最初、“ボクは炎系の攻撃魔法が得意”と自己紹介してたはず。

 なのに初歩の回復魔法も使えるとは……。

 クロードの『リペア』の魔法といい、さすがは王の騎士団(キングスナイツ)の一員と言うべきなのか。

  

 とにかく、そんなミュゼットを見て全員沈黙してしまったのだ。   




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