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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十七章 ロードラントの笛吹き娘
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(3)

 丘の上の中央辺りにある草むらの上に、レーモンは横たわっていた。

 見張り役なのか、その周りには二十名ほどの竜騎士が立っている。

 彼らは昨日僕たちとは一緒に行かず、レーモンと共に戦場に残って戦闘を続行した竜騎士たちだ。


「叔父様!」

 竜騎士をかき分け、レーモンを一目見たリナが悲鳴を上げた。


 ぐったりと寝ているレーモンの足が――右足の大腿部だいたいぶから下が、スッパリと切断されていたからだ。

 患部は布できつく縛って応急処置はしてあるものの、多量の出血があったことは誰にでも分かった。


 そのためか、レーモンの顔は灰色で意識もない。

 呼吸も不規則。

 ほとんど瀕死状態だ。


「そんな……どうして」

 レーモンのそばにしゃがみ、冷たい手を取ったリナの目から涙があふれる。

   

「あの風の魔法の少女――セフィーゼにやられたのさ」

 エリックが言った。

「昨日アリス王女とお前たちがここから離脱した後、ロードラント軍は大混乱に陥ってもう戦うどころじゃなくなっちまった。それで多くの兵士が戦場から逃げ出したんだ」


 ……思った通りの、残念な結果になってしまったか。

 

 レーモンと竜騎士は兵士たちを巻き込み、全員が玉砕ぎょくさいするまで戦って敵を食い止めるつもりだったのだろう。

 が、騎士でもない一般の兵士がそんな無茶苦茶な命令に従うわけない。


「ところがな」

 と、エリックが続ける。

「ユウト、お前の魔法(ルミナス)で目がくらんでいたイーザ騎兵の連中――奴ら、いち早く視力を取り戻してな、そこでまた戦闘が起こっちまったんだ。あとはもう大乱戦、ぐっちゃぐちゃな血の雨と嵐よ」


「それで、セフィーゼが……」


「ああ、その通りだ。戦いが始まって血を見てから突然暴れ出しやがった。しかも折が悪いことにちょうどお前の『封印魔法(シール)』が解けちまったらしく、あのコワーい『風の魔法(エアブレード)』を滅茶苦茶に連発し始めたんだ。早く何とかしないとヤバいぜ、あの子は。血に溺れて完全にいかれちまっている」


 セフィーゼにまだそんな魔力が残っていたとは思わなかった。

 甘かったか――と、僕は唇を噛んだ。


 考えてみればあの時、『シール』でセフィーゼの魔法を封じるよりも、魔女ヒルダにとどめを刺したのと同じ『(マジック)ドレイン』を唱え、彼女の魔力をすべて吸い取ってしまった方が安全だったのだ。

 いや、そもそもセフィーゼが狂ってしまったのは、僕が彼女を追い詰め過ぎたせいではないのか?


「あとはまあ、ご覧の通りだよ」

 と、悩む僕に、エリックが言った。

「俺が中心になって、辛うじてロードラント軍はまとまることができたが、戦っている最中にセフィーゼの放ったうちの一発がレーモン公の足をばっさりやっちまったというわけだ。――ただ俺たちにとってラッキーだったのは、そのすぐ後であのヘクター将軍がセフィーゼを無理やりとっつかまえ、軍の主力とともに撤退したってことだな」


「……僕とアリス様が組んで戦ったあのヘクター将軍が?」


「ああ、そうだ。たぶん奴もセフィーゼの狂いっぷりを心配したんだろう。それにこれ以上自軍の損害が拡大するのもマズイと思ったに違いない。戦争はまだ終わったわけじゃないからな」


 エリックの説明でだいたいの経緯が分かった。

 セフィーゼのことはものすごくショックだし、正直言って、兵士たちの命を何とも思わないレーモンにも腹が立つ。

 しかしそれでも回復職(ヒーラー)として、重体のレーモンのことを放っては置けない。


「リナ様、申し訳ありませんがどいてください」

 僕は、レーモンに覆いかぶさって泣くリナに声をかけた。

「魔法でレーモン様を治します」


「ユウトさん、お願いします!」

 リナが涙で濡れた顔をぱっと上げた。

「もしも叔父様が助かったら一生恩に着ます!」


 僕はうなずき、リナと入れ替わるようにレーモンの脇にしゃがみ、手をかざした。


『リカバー!』

 

 この魔法も、もう何回唱えたかわからない。

 そしてその度に何人もの命を救ってきた――


 けれど……あれ?


 なぜか、今回ばかりは思うようにいかない。

 いくら魔力を込めても、思うようにレーモンが回復してくれないのだ。


「……おかしい。変だな」


 僕は首をかしげた。

『リカバー』の暖かな光はレーモンを包み込んでいる。

 つまり魔法の効果は確かに発動しているのだ。


 レーモンのダメージが大きすぎたのか?

 いや、しかし回復魔法は僕が一番得意としているはずなのに――


「ユウトさん……?」

 

 レーモンのかんばしくない様子に、リナの顔の陰りが濃くなる。

 それを見て焦り感じ始めていると――


 助け船を出すかのように、背中から声がかかった。


「ユウト君、今のままではレーモン公爵はよくなられないと思いますよ」


 丁寧なかつ穏やかな言葉で進言してくれたのは、王の騎士団(キングスナイツ)の団員、メガネのクロードだった。




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