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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十七章 ロードラントの笛吹き娘
184/317

(1)

 霧の中にもう敵の姿は視認できなかった。

 イーザ騎兵もコボルト兵もリューゴたちを追いかけ、すでにかなり遠くの方まで行ってしまったのだろう。

 

「皆さん、ついてきてください!」


 今がチャンスとばかり、僕は叫んだ。

 と同時に、リナが息もぴったりに馬を走らせる。


 そのすぐ後に男爵、マティアス、クロード、ミュゼットが乗る四騎の馬がひとかたまりになって続く。 

 馬と馬がぶつかりそうなくらいの狭い間隔だが、これぐらい近寄らないと霧の中で互いをすぐ見失ってしまうから仕方ない。


 ――にしても、このスタイルは情けないな。


 リナの腰に腕をまわしながら僕は急に恥ずかしくなった。

 リナに頼らないと馬にも乗れないなんて、いい加減肩身が狭い。

 移動手段のメインが馬であるこの異世界においてはなおさらだ。


 よし!

 この戦いが一段落ついたら、絶対に馬術を習おう。

 ……とは思うが、運動神経のない僕に果たしてできるだろうか?

 

 よりによってこんな時に、現実世界にいた頃のようなネガティブ思考に陥ってしまっていると、リナがちらっと振り向いて訊いてきた。


「あの、ユウトさん、私たちはどこまで走ればいいのでしょうか?」


 そういえばリナは僕と違い、霧のせいで前がほとんど見えないのだった。


「まだ大丈夫です、しばらく真っ直ぐ走ってください。まもなくエリックたちが陣取っていた丘に近づきますから――」


 そこまで言いかけたところで、いきなり僕たちのすぐ横をミュゼットの馬が走り抜けた。

 

「おっ先ー!」

 ミュゼットは元気な声を出して、先に行ってしまう。


 えー、霧が出ているのになんで!? 


 驚く僕に、今度はクロードが馬のスピードを上げ声をかけてきた。


「リナ様、ユウト君、どうかミュゼットの失礼をお許し下さい。ようやく動けるので、張り切り過ぎているようです」


「あのう、もしかして……」

 僕はクロードに訊いた。

「あの人、前が見えているんですか?」


「ええ、多少見通しが悪いですが、ミュゼットの目にも私の目に、この魔法の霧は効果ありません」

 クロードの眼鏡が、きらりと光る。

「ちなみに言うと、他の団員もすべて、それぐらいの能力は持っています」


 ……道理でリューゴたち王の騎士団(キングスナイツ)が霧の中をスイスイ走れたわけだ。

 騎士としてマスターレベルのくらいのある彼らに、僕の『ミスト』程度の魔法は通用しなかったのだ。

 この世界では白魔法の力だけは誰にも負けないと思ったのに、どうやらそうでもなかったらしい。

 自分が思い上がっていたことを知り、さらにガックリしていた時だった。

 馬が緩い坂に差し掛かった。

 

「リナ様、馬を止めて下さい」


 落ち込んでいる場合ではない。

 一昼夜戦い抜き、消耗し尽くしたロードラントの兵士たちがこの丘の上で待っているのだ。

 彼らも当然、霧に包まれ身動きが取れないだろう。


「馬がみんなを蹴飛ばしてしまう可能性があるので、ここからは歩きましょう」

 僕は先に馬から降り、リナに頼んだ。

「すみません、馬のことはお願いします」


「ねーねー」

 先に到着していたミュゼットが催促する。

「ボクらは平気だけどさあ、やっぱ霧が邪魔だからなんとかしてよ」

 

「分かっています」


 ミュゼットに言われなくてもそのつもりだ。

 ロードラント兵を救ったこの霧が、今は逆に救助の妨げになっているからだ。


 僕はふっと目を閉じ、精神を集中させた。

 ここは魔法のさじ加減が肝要――


『ブレイク!!』


 すべての魔法効果を打ち消す淡い光が、僕の体から一斉に湧き出る。

 その光は瞬く間に周囲に広がり、『ミスト』によって発生した霧をどんどん消していく。


 が、すべての霧をなくしてしまう気はない。

 この付近一帯を部分的に晴らせて、空洞を形成する――

 つまり霧のドームと言うか、かまくらを作る感じにするのだ。


「ユウト君、なんとも器用な魔法の使い方ですね……」

 遅れてきたクロードが、僕の魔法を見て唸る。

「これなら外は霧で覆われているから、敵にはまず見つからない」 


 クロードは僕の狙いを即、見抜いたようだ。

 まったくその通り。

 万が一敵が戻ってきても、この場を再び探し当てることは困難だろう。


「みなさん――!!」

 

 霧が晴れ、馬を枯れ木につないだリナが大声で呼びかける。

 そしてリナは、いてもたってもいられない様子で、一人丘の上へ向かって駆けだした。


 口には出さないが、リナは彼女の叔父――レーモン公爵のことが心配でたまらないのだろう。

 確かにあの頑固な老将軍は今どうしているか気にはなった。



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