(13)
「大したものですね、リューゴ様の特殊能力は!!」
リナが、霧の中に突入する王の騎士団を見て、声を弾ませる。
「もしかしたら、このまま敵を全部やっつけてくれるかも――」
「……いいえ、リナ様。それはさすがに無理でしょう」
嬉々とするリナに対し、僕は複雑な心境で答えた。
「いくらあの人たちのスキルが強力といっても、いかんせん敵の数が多すます」
「うーん、そうですか……?」
リナは不満げだ。
「『無敵形態』はごく短時間で効果が切れてしまうのです」
と、僕は事実を淡々と説明した。
「そのわずかな間に、あれだけ数のコボルト兵とイーザ騎兵のすべてを倒すことは不可能だと思いますよ」
そのことは、むろんリューゴたちも分かっているはずだ。
しかし男爵の考えたこの作戦のキモは別のところにあるのだから、それで一向にかまわない。
むしろ今、無理をして血を流す必要はないのだ。
「で、ユウちゃん、霧の中は今どうなってるのよ。あなたならそれが分かるんでしょう?」
馬に騎乗した男爵が僕の肩を突っついて、小型の望遠鏡を差し出す。
「男爵、少々お待ちください」
僕は望遠鏡を受け取りレンズを覗いた。
男爵の言う通り、術者のある僕だけは『ミスト』の霧の影響を受けず、向こうの様子が見通せるはず。
その点は、昨日『ルミナス』の光でコボルト兵たちの目をくらませた時と似たような状況だ。
そして実際――よーく見えた。
薄っすらとモヤがかかっている感じはするものの、黄金のオーラを発しながら進む王の騎士団の動きが手に取るように分かるのだ。
リューゴたちは全員大きな鬨の声を上げながら、霧の中を一直線に突き走ってゆく。
それらはすべて、敵の注意を引くための意図的な行動なのだ。
ここまでやれば、五里霧中状態のイーザ騎兵やコボルトも、何者かが集団となって突撃してくることだけは感知できたはず。
さあ肝心なのはここから!
と、息を飲んで見守っていると――
敵集団と衝突する寸前。
まず先頭のリューゴが、続いて竜騎士たちが急遽馬をターンさせ、見事に進路を右に大きく変えた。
それはまさに絶妙なタイミングとしか言いようになかった。
もしこれが並みの能力の騎士だったら、そのままの勢いで敵に突っ込み、大乱戦が始まってしまっていただろう。
さすがは王の騎士団。
ロードラント王国随一の竜騎士団だけのことはある。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、このリューゴたちの謎の行動には、イーザ騎兵もコボルト兵もさぞや驚いたに違いない。
なにしろ霧に乗じて急襲してきた何者かが、刃を交える前ことなく、いきなりターンして逃げ出してしまったのだから。
果たして敵は激しく戸惑い、かといって霧の中どうすることもできず、動きがピタリと止まってしまう。
それからしばし間が空き――
意外な現象が起こった。
1500のイーザ騎兵とコボルト兵が雪崩を打つように、逃げるリューゴたち王の騎士団を、一斉に追いかけ始めたのだ。
視界は当然霧で遮られているため、彼らはリューゴたちが発する鬨の声と、『無敵形態』の黄金の光を追って進むしかない。




