(12)
霧の広がるスピードよりも馬の脚が勝り、僕とリナはすぐに霧の外へ抜けた。
『ミスト』の魔法自体は上手く唱えることができた。
が、その効果はどの程度なのか――
そう思って後ろを振り向くと、かなりの範囲に白い霧が立ち込めているのが見えた。
よし、首尾は上々。
初めて使う魔法なので多少の不安はあったが、とりあえず成功したようだ。
だが、みんなが安全に逃げられようになるまでにはまだ全然足りない。
それを可能にするためには、もっともっと霧の煙幕を張らなければ――
そこで僕は、敵の密集している方向に向かって魔法を連発することにした。
『ミスト!』
『ミスト!』
『ミスト!』
狙いは当たった。
そのまま魔法の霧の効果範囲はどんどん拡大し、やがて白い大きなキノコ雲のようになって敵全体を包み込んでいく。
「リナ様、いい調子です。このまま大きく円を描いて馬の進路を取ってください! ただし徐々に敵から離れていく感じで」
「はい!」
僕はダメ押しのつもりでさらに『ミスト』魔法を唱え続けた。
結果的に、霧は広大な平原のおおよそ四分の一程度を覆うまでに広がった。
これで敵は視界を完全に失い相当混乱しているはずだ。
当然、こちらに向かって矢が飛んでくることもない。
「リナ様ありがとうございます。作戦の第一段階はどうやら成功です。さあ、いったんマティアス様と男爵様の所へ戻りましょう」
リナはうなずき、スピードを落とすことなく馬の向きを変える。
そして男爵たちが待つ元いた岩山のふもと――そこはまだ霧は到達していない――をめざし、一目散に走った。
リナの優れた馬術のおかげもあり、ここまではスムーズにいった。
次は作戦の第二段階。
どうにかして敵を遠くに追い払い、エリックたちを霧の中から助け出すのだが……。
その成否はすべて、リューゴたち王の騎士団の働きにかかっているのだ。
「やったわね、ユウちゃん! なかなかすごい魔法だったわ! アタシ感心しちゃった」
戻ってきた僕たちに男爵が声をかけてくれた。
それから男爵は、横で待機しているリューゴと王の騎士団の面々に向かって言った。
「さあ、バトンタッチよ! 次はあなたたちの出番! 作戦の成功と無事を祈っているわ!」
「お任せ下さい! みんな行くぞ!」
リューゴは兜のバイザーを下ろすと、勇ましく号令をかけ王の騎士団の先頭に立って馬を出発させた。
その後方に三十数騎の竜騎士たちが続く。
が、敵は1500という圧倒的多数。
しかも視界不良の霧の中だ。
いくら敵を倒すことが目的でないとはいえ、本当に彼らは大丈夫なのだろうか――?
不安を感じつつ、突進する王の騎士団見守っていると、霧の中に入る直前にリューゴが叫んだ。
『無敵形態!!』
すると驚いたことに、リューゴの全身から突如黄金の火柱が上がった。
その火柱はまばゆいばかりに光り輝き、オーラとなって王の騎士団全体を燃え上がらせるように包み込んだ。
あれは、もしかして――
いや、間違いなく、無敵形態……。
ごくごく短時の間、無敵となるチートなルール違反でかつ禁じ手。
僕の遊んでいたオンラインRPGに一度は実装されたが、強すぎてすぐに廃止された究極のスキル。
それが今、現実のものとなって目の前で展開されるとは、ただ驚愕するしかない。
そして分かった。
このスキルを持つからこそ、リューゴをしてロードラント王国最強の竜騎士と言わしめる所以なのだと。