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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十六章 最強の竜騎士 その名は……
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(10)

「初めまして」

 と、まず丁寧に頭を下げたのは、キリリとした目に銀縁のメガネをかけた長身の青年だった。

「私は王の騎士団(キングスナイツ)の副隊長を務めますクロード=ド=ローレヌと申します。男爵様、ユウト君、以後どうぞお見知りおきを」

 

 クロードは見るからに優秀っぽいが、ウエーブのかかった金髪をツーブロックにかり上げたり片耳にピアスをつけたりで、真面目一辺倒という印象でもない。

 腰には立派な長剣を携えており戦闘力は高そうだが、たぶん彼は魔法も使える。

 いわゆる万能型の神官か賢者タイプだろう。

 

 そしてもう一人は――


 ガムのような物をクチャクチャ噛んでいる、ややギャル寄りの小柄なカワイイ女の子だった。

 

「ども^^~ミュゼットでーす。 ボクは炎の魔法が得意だよ!」


 ふざけ気味に自己紹介をしたボクッ娘ミュゼットは、とても騎士には見えないというか、単なる一般人の町娘のようだった。


 なにしろ武器は一切持っておらず、その服装ときたらおよそ戦闘向きでない赤ずきんちゃんのような濃いエンジ色のフードと、太ももむき出しの際どいショートパンツを着ているのみ。

 完全に戦いを舐めているとしか思えない格好をしているのだ。

 

 が、そんなミュゼットを誰も注意する様子はない。

 むしろやりたいようにやらせている感じがする。

 それはおそらく、ミュゼットが天然ぽいと言うか、“不思議ちゃん”みたいな雰囲気を持っているからであろう。


 とはいえ人は見かけによらない。

 魔法に関しては、ミュゼットはみんなを黙らせてしまうような相当な実力者に違いない。


「この二人なら必ずや兵士千人に匹敵する働きをしてくれでしょう!」


 と、リューゴが太鼓判を押した。

 王の騎士団(キングスナイツ)の隊長自らが言い切るのだ。よほど自信があるのだろう。


「ありがとう! クロード君もイイ男でホント頼もしいわぁ~」

 グリモ男爵がそう言ってから、ちらりとミュゼットを見た。

「……それとミュゼット、ずいぶん久しぶりね」


 男爵とミュゼット――二人は知り合いだったのか。

 やや冷たい感じの男爵の言葉に対し、ミュゼットもぞんざいに返事をする。


「どーも、グリモ様! グリモ様も相変わらずですね」


「まーね。ミュゼットも元気そうでよかったわ」


 久々の再会なのにこのそっけなさ。

 どうやら昔、男爵とミュゼットの間に何かわだかまりになるような出来事があったらしい。

 しかし、今はそんなことを追及している時間はない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「それでは男爵様、マティアス様、作戦を開始します」


 僕は男爵とマティアスに挨拶をし、リナの後ろに騎乗した。

 まず作戦の第一段階だ。

 当たり前だが最初が肝心。ここで僕たちが失敗すれば、すべてがおじゃんになる。


「ではリナ様、手はず通り馬の操縦をお願いします」

 僕は気持ちを引き締め、リナに声をかけた。


 だが――


「わかりました」

 リナはいったんうなずいたものの、一瞬迷ってから僕に言った。

「……ユウトさん、ごめんなさい。少しだけ私に時間を下さい」


「え?」

 

 この期に及んで何を――?

 と、面食らっていると、リナは馬を歩かせ、リューゴの乗る黒馬の近くに寄った。


「リューゴ様……」

 リナは周囲にはばかることなく、切なそうに呼びかけた。

 

「リナ殿……」

 と、答えるリューゴの表情にもつらさがにじんでいる。


 そして二人は一時いっときの間、名残惜しげにお互いを見つめ合うのだった。

 みんなの手前、さすがに抱き合ったりはしない。が、しかし――


 耐えろ!

 耐えるんだ!


 リナにもリューゴにも悪気はないのだからと、僕は必死になって心の奥から込み上げてくる怒りと嫉妬を抑えつける。

 それに二人がここまで強く別れを惜しむ理由も――あくまで一応だが――理解はできるのだ。


 というのも、リューゴたち王の騎士団(キングスナイツ)はこの作戦が終わり次第、援軍の要請という重大な使命を帯び、敵中を突破しロードラント王国の王都に直行する予定になっていた。


 一方、僕たちは兵士を救出した後、デュロワ城までなんとか落ち延び、そこでわずかな守備兵と共に籠城し援軍を待つという消極的な策を取るつもりでいた。

 しかし、そのいずれの道も危険極まりないことは確かで、途中、いつどこで誰が命を落としても不思議ではなかった。


 つまるところ――今この瞬間が、恋人同士(リナとリューゴ)今生(こんじょう)の別れになるのかもしれないのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ありがとうございました、ユウトさん」

 リューゴと話し終え、リナが僕に頭を下げた。 

「こんな時に、本当にすみませんでした」


「いえ、別に……」


 特にかける言葉はなかった。

 ここでリナを慰めることができるほど、僕はできた人間ではない。

 

「あの、ユウト君!」

 と、その時、リューゴが僕に話しかけてきた。

 

「……はい、何か?」


「この先どうか彼女の――リナ殿ことを頼みます。私はそばにいてやれないので」


 ああ、そういうことか。

 そんなのこの男に頼まれなくとも――


「もちろんです」

 僕は力強く答えた。

「リナ様のことは絶対に守ってみせます」


「そうですか。ユウト君がそう言ってくれると頼もしい」

 と、リューゴは安心したように笑みを浮かべる。


 だがその時、会話を聞いていたリナの顔に一抹の不安の影がよぎったことを、僕は知らなかった。


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