(9)
けれどこの手が……。
僕の知らないところで、この手がリナを抱きしめているのか……。
二人の強くあるいはやさしく抱き合う姿が脳裏に浮かび、僕は思わず身震いしそうになった。
もちろんリューゴと握手などしたくなかった。
が、ここで差し出された手を握らないのはあまりに不自然だ。
僕は諦めの境地に達し、嫌がっているのを悟られないよう、ごく自然な感じでリューゴと握手した。
しかし――
僕はリューゴを間近で見て思った。
――コイツ、やっぱりすごく格好いい。
第1に、同性の僕が一瞬見惚れてしまうほど目が綺麗だ。
第2に、きりっとしているが決して濃くない顔立ちが素敵。笑うと歯並びのいい白い歯がこぼれるのもポイントが高い。
最後に、いかにも騎士らしい堂々と威風あふれる雰囲気――
欠点らしい欠点は見当たらないし、仮に自分が女だったら、リナと同じくこの最強の竜騎士リューゴに一目で惚れていたかもしれない。
言い換えれば、恋のライバルとしてこちらの分は限りなく悪いということだ。
「あらぁ~、男と男の友情の始まりねぇ。いいわぁ」
グリモ男爵は、握手を交わす僕たちを見てうっとりとした声を出した。
おいおい!
リナという一人の女の子が好きである以上、僕とリューゴの間に友情なんて成立するわけないのに……。
僕は我慢し続ける自分がいい加減いやになって、リューゴと握手をするのを止め、男爵に言った。
「さあ、もうグズグズしてはいられません、早く作戦を実行に移しましょう」
「ヤダぁごめんなさい。アタシったらつい見とれちゃって……悪いクセね。でも男×男の立ち姿ってなんでこんなに絵になるんでしょう!」
男爵が口に手を当ててオホホと笑い、軽く咳払いをした後、あらためて周囲を見回して言った。
「じゃあみなさん、準備はいいわね?」
やや緊張した面持ちのリナと、普段通り無表情のマティアスがうなずく。
少し離れた場所で待機している王の騎士団からも、特に異論は出ない。
ところがリューゴだけが一人で思案顔をしている。
しばし考え、首をひねり、そらから男爵に声をかけた。
「男爵、少々お待ちください。一つ提案があるのですが」
「あらなあに、リューゴ君?」
「さっきも申し上げたとおり、作戦自体は問題ないと思います。ですが後に残るのがあなた方四人だけという点に、私としてはどうしても不安を感じてしまうのです」
「んーそうかしら? アタシは大丈夫だと思うけど」
「しかし万が一ということもあります。負傷者もかなりの数に上るでしょうし、兵士たちをうまくデュロワ城まで誘導するのは大変な作業ですよ。ですから是非、我々からも人員を割かせてください」
「それは助かるけど、貴重な人材を借りちゃって本当にいいのかしら?」
「もちろんです。この際、王の騎士団の中でも特に優秀な者を選んでおきましょう。――おい、クロード! ミュゼット! ちょっと出て来てくれ」
リューゴが三十余名の騎士団員に向かって呼びかける。
するとすぐに、二人の竜騎士が馬を降り僕たちに方へ歩いてきた。