(13)
「ユウトさんが納得してくれて良かったです。じゃあ早速、昨日のように私の後ろに乗ってください」
リナはそう言って、先に馬にまたがった。
別に納得したわけではないのだけれど……。
「あ、リナ様。ちょっと待ってください」
戦場に赴く前に、せめてリナにこの魔法を使っておこう。
そう思い立ち、僕はリナに向かって呪文を唱えた。
『マーク!』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『マーク』
対象者一体に印を付ける魔法。
マークを付けておけば、地図上に印が表示される。
魔法をかけた対象者が危険に陥れば、それを知らせてくれる機能もある。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「よし、上手くいきました」
スマホに地図を呼び出し、そこに青く光る丸印を確認する。
これがリナの現在地を示すマークで、もし彼女に何か異変があれば、色が赤く変わって点滅するはずだ。
「これでこの先、万が一リナ様とはぐれても安心です」
気休めにしかならないかもしれない。
が、何も手を打たないより多少マシだろう。
「魔法とその魔導器でそんなこともできるんですか。ユウトさんって本当にすごいですね」
リナはスマホを馬の上から覗き込み、しきり感心している。
「きっとみんなを救う手立ても、もう思い付いているんでしょうね」
「………………」
リナの何気ないひと言が僕に重くのしかかる。
いったいどうすれば、あの圧倒的多数の敵の中からみんなを助けることができるのだろうか?
やっぱり思い付かない。
ないのだ、そんな奇跡のような策は。
ただ一つ、頭におぼろげに思い浮かぶのは霧。
つまり、一度は使うのを断念した『ミスト』の魔法だが――
「さあ、それではまいりましょうか」
リナはそんな僕の胸中も知らずにニッコリ笑い、手を伸ばした。
「死んでしまった私の愛馬には劣りますが、デュロワ城で借りたこの馬もなかなか速いですよ」
僕はリナの温かい手を握り馬上に引き上げてもらうと、結構しっくりくる。
なんだかんだ言って、リナと共に馬に乗るのにすっかり慣れてしまったみたいだ。
「ユウトさん、遠慮せず私の腰にしっかりつかまってくださいね。飛ばしますよ!」
言われた通りリナのくびれた腰に手をまわし、ギュッと抱きしめた。
それだけで自然と胸が高鳴る。
この所作には、まだ慣れていない。