(12)
「何だかすごい! あ、この道具……光る鏡みたいなところが動くんですね」
リナは目を輝かせながら、スマホの画面に触れた。
「これ、私の知らない難しい文字が一杯書いてありますね。いったいなんて読むんですか?」
現実世界の記憶がないリナは、スマホを見たこともなければ、もちろん日本語だって読めないのだ。
「えー簡単に説明しますと、これはリナ様の現在の能力を数値で表してるんです」
「そんなことが魔法でわかるんですか!」
「はい。それでですね、少し申し上げにくいんですか……リナ様の今現在の能力は総合的に見て、だいたいアリス様の半分をちょっと超える程度なんです」
「え!?」
「えっと、リナ様は黒魔法白魔法は使えませんね? それに得意なことは馬術に弓――弱点はネズミ、なんですね」
「当たり! その通りです。私はネズミが本当に嫌いで、どんなモンスターよりも苦手なんです。たぶん見ただけで卒倒しちゃいます」
「とにかく失礼を承知で言いますが、この程度のステータスであの戦場に戻るのは危険極まりないと断言できます。むしろここまで無事で来れたのが奇跡なんですよ」
リナに嫌われるのを覚悟で、僕はあえてきつい言葉を選んだ。
彼女に自信を失わせて、同行するのを諦めてもらうためだ。
しかし――
「とんでもないユウトさん、なに言っているんですか!」
リナは元気よく叫んだ。
「私ごときが、王の中の王になられるアリス様の能力の半分を持っているなんて――信じられません!」
「はあ!?」
「おかげさまで自信が湧いてきました。ここまで来れたんですからこれからも行けます。さあユウトさん、先を急ぎましょう。きっとまだみんな無事でいてくれてますよ」
とほほ。
スマホを見せたことが逆効果になってしまったようだ。
僕は焦って止めた。
「ダメダメ、ダメです。絶対一緒には行けません!」
「ユウトさん――」
リナがちょっとだけ鋭い目つきをして僕をにらむ。
「それでも帰れというなら、ユウトさんがお城を抜け出したことをアリス様やマティアスさんにばらしちゃいますよ。きっと大騒ぎになりますね」
「リナ様、僕を脅すんですか……」
「今は止むを得ません」
リナはにっこり笑った
「それにユウトさん、まさか戦場まで徒歩で戻るつもりだったんですか? 馬でもかなりの時間がかかったというのに、どうかしてますよ」
……いきなり痛いところを突かれてしまった。
リナは現実世界と同じく、けっこう頭の回転が速い。
こうなるともう、一緒に馬に乗せてもらうしかないだろう。
「わかりました」
僕はため息をついてうなずいた。
現実世界でも異世界でも、いつだって彼女にはかなわないのだ。