(10)
まさか追っ手!?
僕が城の外に出たことが、マティアスにもうバレてしまったのか。
ドキリとして今来た道を振り返ると、デュロワ城の方から一頭の栗毛の馬が迫ってくるのが見えた。
が、馬に乗っているのはどう見ても竜騎士ではない。
金色の髪を振り乱して馬を飛ばす一人の少女だ。
あれはアリス?
やっぱり無理を押してでも、仲間を助けに戦場へ戻るつもりか。
――と思ったのだが、しかし、それも僕の勘違いだった。
その少女が金髪だったことに加え、辺りにうっすらと立ち込め始めた霧のせいで、顔がよく見えなかったのだ。
「ユウトさん!!」
と、少女が遠くから叫ぶ。
あれは間違いなくリナの声だ。
でも、リナは本来茶髪のはず。
となると、アリスの影武者に変身する際に飲んだ髪染めの魔法薬の効果が、まだ持続しているということか。
「ドウドウ!」
リナはこちらに近づくと手綱を引き、馬から降りた。
「よかった、間に合って」
「リナ様、どうしてここに?」
僕としては、リナの登場は予想外だった。
「もしかしたらマティアス様に頼まれて、僕を連れ戻しに来たんですか?」
「違いますよ! 私もユウトさんと一緒にみんなを助けに行くんです」
「ええっ! なに言ってるんですか! リナ様はマティアス様に従ってデュロワ城まで来たわけでしょう? それを今さら……」
「そのことについては、本当にごめんなさい!」
と、リナは頭を深く下げた。
「……実を言うと昨日、アリス様やユウトさんのことを騙すような真似をしたせいで、気がとがめて一晩中眠れなかったのです。そして今朝、このままではいけない、戦場に残してしまった兵士さんたちをもう一度助けに行こう。それが私のできるせめてもの罪滅ぼしなんだ――そう決心したのです」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
僕は慌てて止めた。
「それは立派ですけど、だからといって金髪のまま戻れば、敵がまたリナ様のことをアリス王女と勘違いするじゃないですか! ハイオークもイーザ騎兵も、それに魔女ヒルダだってリナ様のことをきっとまた狙ってきますよ!」
大げさに言ってるのでもなんでもない。
誰がどう見ても、それは正真正銘の自殺行為に等しい。