(9)
でもまあ、これまでだって絶体絶命のピンチを何度も切り抜けて来たんだ。そのうち何か良い策がひらめくだろう――
そう思って悩むのは止め、石ころだらけの道を駆け足で進む。
城の周囲には本当に何もなかった。
ところどころに泥水がぬかるんだような湿地帯が点在する以外、ただ荒れ果てた野原が広がっているだけだ。
昨日の夜中にグリモ男爵が大騒ぎした際、いくらなんでも近所迷惑ではないかといらぬ心配をしたが、初めから付近に人など住んでいなかったなかったのだ。
そんな荒涼とした大地を走りながらも、僕は戦場に戻るまでどれくらい時間がかかるか頭の中で計算した。
馬が全速力で走って2~3時間かかった距離を徒歩で行くとなると――?
どんなに急いでも半日以上は必要か。
……まいった。
僕が馬にさえ乗れればよかったのだが、しょせんは歩兵としてこの異世界に転移した身。
乗馬はまったくの不得手なのだ。
かといって白魔法を使って速力を上げても無駄。
なぜなら魔法によるドーピングの効果はごく短時間で切れてしまい、長距離を移動する時に使うようなものではないからだ。
どうしたものか? と、一瞬思案して立ち止まる。
そして、腰の皮袋からスマートホンを取り出し、魔法を唱えた。
『マップ』
するとスマホのディスプレイにこの付近一帯の地図が表示された。
これもオンラインRPGとまったく同じ感覚だ。
――ええっと、どこかショートカットできるような近道はないものか?
僕は戦場までの最短距離を探すため、ディスプレイの地図を拡大した。
この山と山の間を抜けて岩場に出て……ああ、ここがヒルダ・シャノンと戦った黒い森だ。
そしてその先にある草原を突っ切った先があの地獄の戦場……。
ダメだ。
そんな都合のいい道、簡単に見つかるわけない。
やっぱり頑張って走り続けるしかなさそうだ。
諦めてスマホをしまおうとしたその時――
地面を蹴る軽快な馬の蹄の音が、背後から聞こえてきた。