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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十三章 バロンの城
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(9)

「アタクシこと男爵(バロン)・グリモのフルネームはなんでしょう、か?」


「アホか! まったくくだらんどうでもいいことを……」

 マティアスが腹立たしげに舌打ちをする。

「いいだろう、答えてやる。グリモ・フェルディナンド・バティスタ・シャルル・オーギュスト・ジュゼ・ウィルフォール=ベリール=イルⅡ世だ!」


「正解!! うれしい! 覚えていてくれたのね! アタシの名前を正確に記憶してくれていたのは今まであなたとアリス王女の二人のみよ!」


「……それは良かったな」


「ヤダ、なによ、そのふてくされた態度! マティアスあなた、アタシとの過去を掘り返されるのがそんなに嫌なの? まるで古傷にでも触れられたみたいな感じ」


「そ、それは……」

 マティアスはぐぬぬ、と顔をしかめた。

「若さゆえのあやまちちということもある……」


「ま! あの若き青春の日々を、二人で愛を語り合ったあの日々を“あやまち”で片付けようってわけ? そうはいかないんだから!」

 と、男爵は腰に手を当てプンプンしている。

「いいわ、じゃあ次はちょっと意地悪な質問をしてあげる。はい、第二問! ――アタシとあなたがアツーい夜を過ごした回数は? 全部で何回?」


 熱い夜!!

 回数!!


 とんでもない質問をされ、マティアスは「うおっ」と叫び、また頭を抱えた。


「さあ、答えなさい! でないとお城には入れないわよ!」


「止めろ! グリモ、許してくれ! 今の俺は妻も子もいる身だ!」


「知ってる。結婚して子供も生まれ軍の中でも出世街道を邁進(まいしん)中――そのことは風の便りに聞いたわ……」

 と、男爵は切なそうに言った。

「でもね、別にアタシは今さらあなたと寄りを戻したいわけじゃなくってよ。だから安心なさい。昔の恋愛バナシをすることに何ら罪悪感を感じることないわ」


「そ、そういう問題ではない!」


「じゃあいいじゃない。ほらほら、早く答えないと敵に追いつかれちゃうわよ」


「グリモ、これがお前流の意趣返しか……」


 マティアスがうめいた。

 なんだか戦いで瀕死の重傷を負った時よりつらそうだ。


「あらぁ、復讐だなんて人聞きの悪いわ。単純に面白い質問かな? と思っただけよ。アタシはいつでも皆様に愛されるエンターテイナーでありたいから。――ねえねえ、そっちのお子(チェリー)ちゃんたち!」

 男爵が、ドン引きしている僕とリナに向かって言った。

「特にアンタたちみたいに若い子はこの手の話って興味シンシンでしょう」


「シ、シンシンなんかじゃありません!」

 リナが顔を真っ赤にして叫ぶ。


「ーん無理しちゃって。――あ、それともお子ちゃまには質問の意味がわからなかったかしら? ”熱い夜を過ごす”ってことはね、要するに、アタシと(マティアス)が付き合っているころ何回エッチしたかって意味よ!」


「わ、わかりますよっ。それぐらい!」

 リナはムキになって言い返す。 

「でも、それはヘンです! おかしいです! ……お、男同士でそんなことするなんてまともじゃありません! ま、まさか竜騎士団の副隊長であるマティアスさんがそっち系の人とは思いませんでした……」


 この切羽詰まった状況でのグリモ男爵のセクハラ発言。

 リナが怒るのは当然とはいえ、しかし、彼女の言葉にも鋭い棘があった。

 異世界といえども、やっぱり同性愛に対する風当たりと偏見は強いらしい。



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