(5)
時計がないから今が何時かわからない。が、もう夜半をかなり過ぎているはず。
なのに衛兵は張り裂けんばかりの大声だ。
グリモ男爵はこの地域では、おそらく一番身分の高い人に違いない。
だから好き勝手して平気なのかもしれないけれど、お城近くの住人にとっては迷惑この上ないだろう。
ところが衛兵はそんなことはおかまいなし。
今度はラッパを手に取り、けたたましくファンファーレを鳴り響かせた。
あまりのうるささに、僕もリナも思わず耳をふさぐ。
すぐにファンファーレの音は止んだが、続けてどこからともなく陽気なアップテンポな曲が流れ出し、そして――
跳ね橋が下り開いた城門から、金ピカのラメの入ったド派手な衣装を来た一人の男が現れたのだった。
――あれが噂のグリモ男爵なのか!?
男爵は浅黒い肌にたくましい肉体を持った、背の高い伊達男だった。
口には真っ赤な紅を引き耳や鼻にピアスをいくつも付けており、それが闇夜の中でもやたら目立っていた。
その強烈なインパクトのある登場の仕方にあ然としていると、照明が一斉に男爵に当たった。
すると男爵は大きな瞳をパチクリさせながらポーズをきめ、まるでミュージカルスターかアイドル気取りで、巨大な跳ね橋の上を歩きながら歌って踊り出したのだ。
♪ ここは地の果て 天の果て
人も モノも お金も ナニもないけど
♪ 実は楽園 住めば都のパラダイス。
なぜならそこにグリモ男爵がいるから
♪ グリモ グリモ グリモ!
♪ 名前はグリモアでも魔法は使えない
剣も苦手。暴力も戦争も大キライ
♪ でもね でもね でもね
愛! 愛だけは誰にも負けない
♪ それが私にとってただ一つの大事なこと
愛さえあればそこは天国 パラダイス
♪ さあようこそ愛の世界へ!
♪ 愛の巣デュロワ城へ!
男爵はそこまで歌い切ると跳ね橋の先端まで来てくるりと一回転し、そこで再びポーズをきめた。