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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十三章 バロンの城
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(4)

 だが、衛兵はマティアスが止めるのを無視し、とっとと城の中の方へ入っていってしまった。


「くっ……藪蛇(やぶへび)だったか」

 マティアスはがっくりと肩を落とす。

「グリモに気付かれる前に、なんとしてでも城内に入ってしまおうと思ったのだが……」


 グリモ男爵が来るまで、もうできることは何もない。

 そこで僕は、男爵についてリナに質問してみることにした。


「あの、リナ様。リナ様はグリモ男爵をご存じなのですか?」


「ええ、一応は」

 リナが答えた。

「ロードラント王国の中でも有名な政治家ですから。……いえ、政治家だった、と言うべきですね」


「……だった?」


「はい。男爵が王府でご活躍されていたころ、私はまだ子供だったので直接お会いしたことはないのですが、それでも非常に優秀な方だったということは聞いています」


「そうだったんですか。でも今はなんでこんな辺境のお城の城主に……?」


「それは――少し話が長くなるのですが……」

 と、リナは周囲に声が漏れないよう、ごく小さな声で言った。

「かつては豊かだったロードラント王国も、長きに渡るゴート帝国との戦争で国庫は疲弊(ひへい)し、近年では莫大な借金まで抱えるまでになっていました。そこでルドルフ王――アリス様のお父上ですね――が抜擢したのが、当時若手の官僚であったグリモ男爵だったのです」


「なるほど」


「グリモ男爵は王様の期待に応え、財務卿(ざいむけい)に就任するとすぐにその辣腕(らつわん)を発揮し、瞬く間に王国の財政を立て直すことに成功しました」


「え!? そんな有能な人が、なんで政治家を辞めたんですか……?」


「いろいろ理由はあると思いますが、一番の原因は上級貴族や豪商、高位の聖職者たちの恨みと反発をかったことです。男爵は王国の財政を再建するため、そういったお金持ちの人たちを狙い撃ちにして重税を課しましたからね」


「でも、グリモ男爵には国王様という強力な後ろ盾があったのでは?」


「ええ、その通りです。ところが……バレてしまったんです」


「バレた?」


「はい……不正が」


「不正!?」


「しっ! 声が大きいです。その話しを大っぴらにするのは、今の王国では禁忌タブーとなってますから」

 と、リナが口に一本指を当てた。

「確かに男爵は財務卿ざいむけいとしては有能な人でしたが、男爵自身なかなか奢侈しゃし贅沢ぜいたくを好む人で――」


「……もしかして」


「そうなんです。男爵は、自分が集めた王国の税金の一部を自分のふところに入れてしまったのです。いわゆる不正な蓄財ですね」


 金持ちには厳しいのに、自分はずいぶんちゃっかりしているというか――

 いくら能力がある人でも、それでは仕方ない。


 リナはさらに詳しいいきさつを説明してくれた。


「ことが発覚すると、ルドルフ王もさすがにグリモ男爵をかばい切れなくなりました。そして男爵は逮捕され王国裁判にかけられたのです。当時の見せしめ的な大騒ぎは私もよく覚えていますよ。男爵には必ず死罪が言い渡されるであろう、と」


「なのに今、この城の城主におさまっているということは……」


「ユウトさんの察っする通りです。グリモ男爵はそれまでの功績を認められ死刑は免れました。ただし爵位を取り上げられ、二度と王都の土を踏めないようこの辺境のデュロワ城に追放されたというわけです」


「だけど……」

 僕は頭を抱えるマティアスを横目で見ながら、ヒソヒソ声で言った。

「グリモ男爵と対面するだけで、なぜマティアス様はここまで落ち込んでいるのでしょうか? 今のリナ様のお話だけなら、特に理由が見当たらないのですが」


「そうですよね……」

 と、リナも首をかしげる。

「お二人の間になにか因縁でもあるのかもしれません。――あ!?」


 リナがそこまで話したところで、突如デュロワ城の城門部分が、スポットライトが当たるかの如くパッと明るく照らし出された。

 続いて跳ね橋が「ギギギギギ……」と重々しい音を立てながら、ゆっくりとこちらに向かって下がり始めた。


 もしや衛兵が考え直し、僕たちを中に入れてくれる気になったのか――!?

 ……と、思ったのだが、それは勘違いだった。


 跳ね橋はだいたい四分の三ほど下りたところで、ピタリと止まってしまった。 

 これではまだ中には入れない。無理に進めば馬ごと堀の中にドボンだ。


 どうしてそんな中途半端なことをするのか不思議に思っていると、城内から戻ってきたさっきの衛兵が城壁の上から叫んだ。  


「グリモ男爵閣下のおーなーりーー」


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