(1)
森を抜けるといきなり視界が開け、広い岩場に出た。
夜も更けてきたというのに辺りは不思議と明るい。
なぜだろうと思い空を見上げると、そこには現実世界にはない、無窮の星々が光の洪水のように輝いていたのだった。
が、いくら美しい星空でも、その光景に感動している余裕はない。
竜騎士団はまばゆいまでの星明りを頼りに、ゴツゴツした岩場の夜道をひたすら走り続けた。
それからさらに三十分ほど――
景色は山と山に挟まれた渓谷へと変化し、流れの速い川が見えてきた。
身も心も疲れ果て誰もが無言。
衰え知らずの竜騎士の乗る駿馬すら息切れをおこし始めたころ、リナが叫んだ。
「ユウトさん、あれです! あれがデュロワ城です!」
夢でも幻でもない。
渓谷を出た先に、巨大な城壁に囲まれた白い城がそびえ立っているのが見えた。
かがり火によってライトアップされたその姿は、ファンタジーの世界そのもの。
非常に壮麗な外観だ。
しかし――あれ?
と、僕は少し変に思ってリナ尋ねた。
「あの、リナ様。デュロワ城って確か廃城寸前のさびれたお城だったのでは? それにしては綺麗すぎるような気がしますが……」
「そう言えばそうですね。私も訪れるのは初めてですが――」
リナも訝しんで言った。
「こんな立派なお城とは思いませんでした」
「ああ、それなら――」
僕たちの会話を横で聞いていたマティアスが言った。
「取り立てて心配することはない」
「そうでしょうか? ――ええと、このお城を治めているのは誰でしたっけ?」
と、リナは必死に城主の名前を思い出そうとする。
「……行けばわかる」
マティアスが仏頂面でそう答えた時、リナが叫んだ。
「そうだ! グリモ男爵! ここは男爵の城です!!」
ところが――
「その名を出すな!!」
グリモ男爵の名前を聞いた途端、突然マティアスが切れたのだった。
僕もリナもびっくりして、思わずマティアスの顔を見る。
「し、失礼した!」
マティアスが慌てて取り繕う。
「不快な名を聞いたものだから、つい」
どうやら触れてはいけないことに触れてしまったらしい。
僕もリナもそれを察し、デュロワ城の城主の話題はそこで打ち切られた。
マティアスの豹変ぶりには驚いたが、とにかく、デュロワ城に何かの罠が潜んでいることはなさそうだ。