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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十二章 魔女の正体
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(11)

「そこにいるのは……ユウトか?」

 アリスがつぶやいた。


「はい、ユウトです。アリス様、どうなされたのですか?」


「ユウト……コワい」


「え、怖い? なにがですか?」


「……アンデッド」


「え! アンデッドが怖い? 」


「………………」

 アリスはコクンと小さくうなずき、また気を失ってしまった。


 ――ああ、そういうことか!


 そこで僕は突然思い出した。

 昼間、アリスのステータスを『スキャン』の魔法で調べた時のことを。


「あの……」

 僕はアリスにずっと付き添っていた竜騎士に尋ねた。

「アリス様が大人しくなったのって、アンデッドが現れてからだと言ってましたよね」


「うむ、その通りだ」


 やっぱりそうか。

 スマホに表示されたアリスのステータスには、確かに、


 弱点:ゴースト アンデッド


 と、あった。


 これで納得。

 そっち系を苦手とする人が、あれだけの数のアンデッドを目にしたら、いきなり卒倒してしまってもおかしくないだろう。


 それにしても気高い王女アリスにこんな弱点があったとは。

 実は中身は普通の娘だったというか、案外子どもっぽい部分もあるというか――

 

 アリスの意外な一面を知って、なんだか急に笑いがこみあげてきた。


「どうしたというのだ、ユウト。なぜ笑う」


 マティアスが怪訝けげんそうに眉をひそめる。


「いえ――あの、アリス様はまったく心配いりません。一時的に気を失っているだけです」


「本当か?」

 マティアスが首をひねる。 

「しかし原因は? 私は今までアリス様のこんなご様子見たことないぞ」


「それは――」

 僕はマティアスに簡単に事情を説明した。


「ハハハ、そういうことだったのか」


 話を聞いたマティアスが苦笑する。

 それにつられて、他の竜騎士も吹き出しそうになった。


 みんなアリスをバカにしているわけではない。

 ヒルダを激闘の末かろうじて退けたこと、そしてアリスが無事だったという安堵感から、自然に発生した笑いなのだ。


 僕たちはそれから、気を失ったままのアリスにもう一度鎧を着せた。

 目的地であるデュロワ城は間近とはいえ、まだどんな危険が潜んでいるかわからない。

 ここはあえてアリスを目覚めさせず先を急いだ方がよい、というマティアスの判断に従ったのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 森の中はすでに完全に夜の闇に包まれていた。


 こんな不気味な場所に長居は無用。

 木々の(こずえ)から漏れてくる青い月の光を頼りに、僕たちは全員大急ぎで出立の準備を整えた。

 だが、イーザ軍の追っ手がいつ現れるか分からないため、戦死した竜騎士を葬る時間はなかった。


 リナはそれが心苦しかったらしい。

 森を出る前、みんなに一つ提案をした。


「亡くなられた方々のため、せめてお祈りを捧げましょう」


 もちろん誰も異存はない。

 マティアスをはじめそこにいる全員が目をつぶり、静かに黙とうをする。


 ――が、それもほんの10秒ほどの間。

 これでは大した供養にもならない。

 単なる自己満足だ。


「よし、先を急ぐぞ!」

 と、マティアスが叫んだ。

「もう一息の辛抱だ」


 竜騎士たちはみな切り替えが早い。命令に従い次々馬を走らせる。

 昼間、次々倒れていく仲間たちを見て錯乱したリナでさえ、今は涙一滴流さない。


 僕は何ともやるせない気持ちになって、リナの馬に揺られながらも、うしろを振り返った。

 そこには、竜騎士の死体が誰にも顧みられることなく点々と転がっていた。


 ――ああいう風な死に方はしたくない。

 

 悲惨な光景を目の当たりにし、そんな感情が自然と湧いてきてしまう。

 現実世界での自分は、電車に飛び込んで自殺しようとしていたのに……。


 この異世界に来て、なぜこんな心境の変化が起こったのか――

 何だか自分で自分がよく分からなくなってきた。



 

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