(10)
アリスはすでに馬から降ろされ、地面に寝かされていた。
全身鎧姿なので体のどこに異変があるかはわからないが、意識を失っているようだ。
「お前はいったい何をしていたのか!」
マティアスが、アリスに付いていた竜騎士を詰問する。
「そ、それが……」
竜騎士が戸惑いながら答えた。
「アリス様は戦いが始まってしばらくは『離せ離せ』と暴れられていたのですが、アンデッドが現れた時から急に静かになられて――」
「なに!? よもやアンデッドに!?」
「いいえ、誓って申しあげますが、アリス様には敵の指一本触れさせておりません」
「では、なぜ意識がない!」
確かにおかしい。
竜騎士の言う通りだったらアリスが気絶する理由がない。
これが単純な負傷なら、魔法で回復してあげればいいだけのことなのだけれど……。
「あの……」
僕はマティアスに声をかけた。
「よければ僕がアリス様を診てみます」
「おお、ユウト!」
マティアスがようやく僕に気付いた。
「見ての通りアリス様のご様子がおかしい。頼む!」
僕はアリスの横にしゃがみ、兜の中を覗き込んだ。
するとアリスは目をくるくる回し、口からは泡を吹いていた。
が、顔色は悪くないし、特に重篤な感じはしない。
「あの、体の状態を確かめるため、アリス様の鎧を脱がしたいのですが――」
マティアスの許可が出たので、みんなでアリスの鎧を脱がしにかかる。
すぐにアリスは中世風の薄手のブラウスとズボン姿になった。
が、かすり傷一つ見つからない。
もちろんアンデッドに噛まれた様子もなかった。
だめだ、どうも原因がわからない。
戦闘が始まって以来ずっと気丈だったアリスが、精神的なショックでこんな風になるとも思えないし――
その時アリスの唇がかすかに動いた。
「……う、ううう」
と、何か言いたそうだ。
僕はかがんでアリスの口元に耳を近づけてみた。