(5)
そこへ――
「おいおい、ちゃんと食わねーともたないぜ」
と、言いながらエリックが近寄ってきた。
後ろに一人、身長2メートル近い大男を従えている。
どうやらエリックの仲間らしい。
「なんか食べる気がしなくて……」
「初めての戦いだろうから、緊張するのもわかるけどな。だが腹が減ってはなんとやらだ」
エリックはそう言いながら、骨付きベーコンを豪快にかじった。
「軍用のは塩辛くていけねえな。ワインが飲みたくなるぜ」
「あの、その人は……」
「ああ、こいつは俺と同郷のトマスっていうんだ。貧乏農家の四男坊でな、口減らしのために親に無理やり志願させられて軍に入ったのよ。本当は戦いなんて大嫌いな野郎なんだが……」
その大男――トマスは黙ったまま照れ臭そうに頭を掻いている。
エリックは僕の耳元で囁いた。
「こいつちょっと頭が弱くてな。だがとんでもない怪力の持ち主だから、いざという時には頼りになるぜ。まあいい奴だから仲良くしてくれよな」
僕はトマスを見上げた。まさに雲を付くような大男だ。
座ったままじゃ悪い気がして、立ち上がって自己紹介をする。
「あの、ユウトと言います」
「トマス……です。……ヨロシク」
トマスはニコニコしている。
穏やかでとても兵士には見えない。
と、その時、唐突にトマスのお腹がきゅうと鳴った。
「お腹、スイタ……」
「なんだよ、トマス。今食ったばかりじゃねえか」
エリックはあきれ声で言った。
が、それでもトマスは物欲しそうにエリックが持っているベーコンを見つめている。
「おいおい、これは俺の食いもんだぜ。まったくこいつは体がデカいせいで食う量も半端ないからな。だから家を追い出されるんだよ」
「…………」
トマスは一瞬悲しそうな顔をした。
僕はなんだか気の毒になって、自分のパンとベーコンを差し出した。
「あの、よかったら……」
「イイの……か?」
「どうぞ」
「……アリガトウ!!」
トマスは目を輝かせて、食べ物を受け取る。
「ったく。しょうがねえな。くせになるといかんぜ」
エリックはパンをほおばるトマスを横目に言った。
「でも、残すよりいいよ」
「まあいい。お前の食いもんだからな、好きにしろ」
エリックは食べ終わったベーコンの骨を、ぽいと投げ捨てた。