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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十二章 魔女の正体
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(7)

 もしかしたら、この前と同じような嫌な目にあうかもしれない……。

 その甘い香りをかいだせいで、僕は前回の先生の冷たい態度のことを思い出してしまった。


 だが、今は本当に気分が悪いのだ。

 保健室はそういう時のためにあるのだから何も遠慮することはない、しばらくベッドで休ませてもらおう。


 そう思って入り口のドアに手をかけると――


 ……!?


 保健室の中から、なにやらひそひそ声が聞こえてきた。

 どうも普通の会話ではない、いかがわしげな雰囲気だ。

 今、中に入ってはまずいような……。


 一瞬迷ったが、いつまでも廊下で聞き耳を立ているわけにもいかない。

 ええいかまうものか、と僕はドアをソロリと開けた。


 保健室はかなり広い。

 デスクや棚、ロッカーの他にベッドが三台並べてあってもまだ余裕がある。

 しかしパッと見て、どこにも日向先生の姿は見えなかった。


 あれ?

 さっきのヒソヒソ声はどこからしたのだろう?

 と、部屋の中を見回すと――


 ベッドだ!

 ベッドの方に人の気配がする。


 が、その周りにはカーテンが引かれ誰がいるかはわからない。

 カーテンの影に二つのシルエットが見えるだけだ。

 どうやら一人はベッドの上で上半身を起こし、もう一人はその脇に立っているようだ。

 

 そして、二つの影は密着しもそもそ動きながら、


 「……ふふふ」

 「……イヤ」


 と、しきりに囁き合っている。

 何を言っているかよく分からないが、どちらも女の人の甘い声なのは確かだった。


 カーテンの裏で行われていることは、どこからどう見ても“秘め事”。

 しかも女性同士の……。


 まずい、まずい、まずい!!

 やっぱり自分はこの場にいてはいけない、招かれざる客だったのだ。


 焦りまくった僕は一刻も早くここから立ち去ろうと二、三歩後ずさった。

 が、ここは慣れない保健室。

「ドン」と派手な音を立ててデスクにぶつかってしまった。


「誰だっ!?」

 鋭い声がして、シャッとカーテンが引かれた。


 予想通り――そこに立っていたのは日向先生だった。

 そしてベッドに寝ているのはポニーテールの可愛いめの女子生徒。


 しかも先生の髪は乱れ、白衣は半分脱げかかっていた。

 一方の女子生徒は顔を赤くし、制服のブラウスのボタンは二、三個はずした、あられもない姿だ。


「あの……その……」

 見てはならないものを見てしまい、僕はしどろもどろになった。


「1-C有川!!」


 先生は鬼のような恐ろしい形相で怒鳴った。

 ちょうど激昂した魔女ヒルダのように。


「ノックもしないで入ってくるなと言っただろうがっ――!!」 


「す、すみません!」

 僕はそう叫んで、もつれる足で保健室を飛び出した。


 ――まさか、まさか学校の中で教師と生徒が!


 いやいや、そのこと自体はたまに事件になって報道されるから、案外珍くもないのかもしれない。

 が、大抵は男性教師と女子生徒の組み合わせだろう。


 一方、僕が目撃してしまったのは女性教師と女子生徒のペア。

 にわかには信じがたい、しかし紛れもない事実。


 ありえない、と思った日向(ひなた)先生の噂――

 その半分は本当だったのだ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ショックのあまり頭が真っ白になった僕は、教室に戻る気になれず、そのまま学校を出て家に帰った。

 おまけに帰る途中で雨でずぶ濡れになって風邪をひき、一週間ほど寝込むはめになってしまった。


 僕が学校を長期間休むようになったのは、それから後のことだ。


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