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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十二章 魔女の正体
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(2)

 しかし、ヒルダはドスの利いた声で威嚇(いかく)した。


「おっと、ロードラントのボンクラ竜騎士ども。手を出すんじゃないよ! もしそこから一歩でも動いたら、オマエたち全員を即『アストラル』の中に放り込んでやる。ワタシはユウトの度胸を試したいんだ」


「聞いたかユウト? 殺れ、ユウト、殺れ、殺っちまえ!」


 誇り高き竜騎士とは思えない乱暴で扇動的な声――

 ヒルダの圧倒的な魔法の前に追い詰められ、みんな理性を失いつつあるのだ。


 が、それは僕も同じ。

 頭に血が上って思考はほぼ停止状態、リナを救うため前に突き進むことしか考えられなくなっていた。


 度胸試しか。

 いいだろう、やってやる!


 らなければ、られる。

 リナを救うためにヒルダを殺す。

 ただそれだけのことだ。


 僕はかっと目を見開き――


「うおーーーーーー!!!」


 声にならない雄叫びを上げ、ヒルダに向かって走り出した。

 ショートソードを構え、ヒルダの真っ白な胸を狙う。


 しかし――


「シャノン!!!!」

 ヒルダが大声で叫んだ。


 その刹那、視界に黒い影が入った。

 ヒルダの叫んだ直後、いや、もしかしたらそれより一瞬早く、シャノンが僕の前に飛び込んできたのだ。


「てやっ!」


 シャノンは僕のショートソードを刀でなぎ払い、そして言った。


「ユウト、今きみから本物の殺気を感じた」


 シャノンの鋭い一太刀に僕は大きくよろめいた。

 それでもショートソードを落とさずに済んだのは、彼女が相当手加減したからだろう。


 そんな僕とシャノンを見て、ヒルダがしてやったりという感じで叫んだ。


「シャノン、ユウトとようやく戦う気になったか!」


「ヒルダ、あなたという人は!」

 シャノンは刀を構え僕と向き合いながらも、悲鳴に近い声を上げた。

「卑怯よ!」


「ふん、なんとでもほざけ。これはキサマに対する罰でもあるのだ!」

 と、ヒルダがわめく。

「ワタシの命を守るという傭兵としての約定やくじょうか、それともガキは絶対に殺さないというその鉄の信条か――シャノン、キサマがどちらを選択するか、今この場でしかと見極めさせてもらおう!」


 くそっ、ヒルダめ!

 それが狙いだったのか――!!


『アストラル』の魔法で僕を脅し自分を殺すように仕向け、その時シャノンが助けにくるかどうかを試す――


 意地が悪いと言おうか、人の弱点に付け込んだなんとも鬼畜な作戦だ。

 これで僕とシャノンは、お互いどうしても戦わなければならなくなったわけだ。


「シャノン、ユウトを殺せ! もしそれができないのなら裏切りと見なし、この『アストラル』の中に一緒に放り込んでやる」


「ヒルダ、最低っ!!」


 シャノンが叫ぶ。が、額に汗をにじませ表情は苦しい。


 そんなシャノンを見て、僕は思った。

 これまでの言動からして、彼女はたぶん根っからの悪人ではない。

 何か事情があって仕方なくヒルダになんかに仕えているに違いない――と。


「ユウト!」

 ヒルダが今度は僕に向かって怒鳴る。

「キサマも王女を救い出したければ死ぬ気になってシャノンを倒し、そして私を殺してみよ! ただし剣のみで戦え。もしシャノンに魔法は使うばどうなるか――当然分かるな?」


 僕が魔法を唱えたら即座に『アストラル』を発動させるというわけか。

 ヒルダはさすがにぬかりない。


 ――剣でシャノンを倒すなんてこと無理なのは百も承知。


 それでも僕は一応はショートソードを構え、シャノンと向き合った。

 しかしお互いピクリとさえ動けない。

 三十秒、一分と時間だけが過ぎていく。


「どうした、二人とも戦う気がないのか!」

 ヒルダがわざとらしく嘆く。

「ではやむを得ないな。今すぐ『アストラル』を発動させようか」


 まずい。

 ヒルダはやると言ったらやるタイプだ。

 今は無理にでも戦うふりをして時間を稼がねば――


「うおおおおーー」


 僕は叫びながらショートソードを振りかぶって、シャノンに打ち下ろした。

 もちろん本気ではない。

 シャノンもそれが分かっていて刀で軽く受け流す。

 それでも「カキンッ」という高い金属音がし、刃と刃がぶつかって火花が散る。


 だが、たったそれだけで腕が強く痺れジンジンとしてしまった。

 やっぱりこうなるか。

 基本回復職(ヒーラー)である自分に、剣で人を倒すなんてことは不可能なんだ。


 ――不可能?


 そこではっと気づいた。

 もしここが|オンラインRPGの世界ならどうなんだ、と。


 回復職(ヒーラー)が剣を持って戦う――

 そんなバカげた話ないではないか。

 ましてやその状態で強力なボスを倒すなど、論外中の論外だろう。



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