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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第三章 初めての魔法
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(4)

「アリス様、叔父様――」

 見兼ねたリナが仲裁に入った。

「こうしたらいかかでしょう。とりあえずティルファを馬車に運び、そこでマリアさんに治療をしてもらいながら、軍をコノートまで引かせるのです」


「リナ様、お言葉ですがそれは――」

 ティルファに寄り添っていたマリアが立ち上がって言った。

「治癒魔法は精神の集中を要しますゆえ、揺れる馬車の中で行うことはとても無理です。それにティルファ様の出血が多すぎます。無理に動かしさらに血を失えば、それだけでわずかに残る命の(ともしび)はついえてしまうでしょう」


 アリスはうなずいて言った。


「では議論の余地はないな。――マリア、この場で治療を始めてくれ」


「かしこまりました。アリス様の仰せのままに」


 マリアは深く一礼すると、再びティルファの側に膝をついた。

 そして両手を突き出し、目をつぶって静かに『リカバー』と詠唱する。


 するとどうだろう。

 マリアの手のひらから暖かく優しい光が発せられ、ティルファの身体を包み込んだではないか。

 すぐにティルファの呼吸が穏やかになり、傷口からの出血も治まってきた。


「おお!!」


 様子を見ていた兵士たちがどよめく。

 これがいわゆる治癒魔法か。

 ゲームの中だけのものと思っていた魔法を実際目の当たりにして、僕はただただ驚くしかなかった。  


 だが待てよ?

 セリカが言ったことが本当なら、自分も当然この魔法が使えるはずではないか?



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「さすがだな、シスターマリア」


 そうシスターに声をかけ、アリスは安堵(あんど)の表情を浮かべた。

 一方レーモンは、苦虫をかみつぶしたような顔をして黙っている。


「これでよいな、レーモン」

 と、アリスが念を押す。


「………………」


「返事がないぞ」


「……御意」

 レーモンはアリスにしぶしぶ同意した。


 数分後、マリアは魔法を唱えるのを止め、息をついた。

 顔には疲労の色が見える。

 どうやら治癒魔法を使うのにはかなりの体力と精神力を使うらしい。


「リナ様」

 と、マリアが声をかける。

「申し訳ありませんが、ティルファ様の鎧を脱がすのを手伝っていただけますか? 治癒の妨げになります」


「わかりました、シスターマリア」


 リナはマリアといっしょに、ティルファの壊れたプレートメイルを丁寧に外し始めた。

 続けて服も脱がせたため、ティルファの傷だらけの身体が露わになった。


「お前たち、これは見世物ではないぞ!」

 兵士たちの視線を感じ、アリスが大声を出した。

「――ちょうど良い。わが軍はここでしばらく休息を取る。今のうちに食事を取っておけ。ただし警戒は(おこた)るなよ!」


 アリスの言葉で、張りつめていた空気が一気に緩んだ。

 竜騎士の指示で、数人の給仕係が後方の馬車から大量の食糧を運び出し兵士たちにてきぱきと配り始める。


 どうやら昼食の時間はとうに過ぎていたらしく、兵士たちはあちこち散らばって配られた食料をガツガツと食べ始めた。

 ここは色気より食い気、といったところか。


 僕もほとんど腹は空いていなかったが、とりあえずその場を離れ食料を受け取った。

 大きくて堅そうなパンと、骨付きベーコンの塊、それに苺やベリーといった果物だ。


 へえ、食べる物は現実世界も異世界も変わらなのか、と思いながら、手ごろな石の上に腰掛ける。

 地面に槍と盾を置いて、試しに苺を食べてみることにした。


 ……何の変哲もないごく普通の味だ。


 なんだかつまらなくて、それ以上食べる気が失せてしまった。


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