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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十一章 信条と約定
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(7)

「何とも無様な格好だな」

 緊縛された僕を見て、ヒルダが(あざけ)り笑う。

「さっきまでの威勢はどうした?」


 ……にしてもこの魔女、本当に性格が悪い。

 もう勝ったも同然なんだから、わざわざ追い打ちをかけなくてもいいだろう。


 僕はムカムカして思わずヒルダをにらんだ。

 が、相変わらずフードが邪魔でその顔をうかがうことはできなかった。

 でもきっと、性格と同じくその素顔はとんでもないブスに違いない。


「なんだその目は?」

 僕の態度が気に入らないのか、ヒルダが声を荒げた。

「どうした、なにか言ってみろ?」


「………………」


 僕はヒルダを無視しそっぽを向いた。

 挑発には乗らず、この窮地(きゅうち)を脱する方法を考えることにしたのだ。


「だんまりを決め込むか。ではこちらから一つ訊かせてもらおう。さっきシャノンが言っていたことだが――オマエは今まで人を殺したことがないし、殺すことはできない、というのは本当なのか? にわかには信じ難いが」


 ヒルダはその点がどうしても()に落ちないようだった。


「だからそうなの!」

 後ろからシャノンが口をはさむ。

「さっきも今も、その子はあなたを殺す気なんてなかったのよ。ヒルダ、もういいじゃない。その子は助けてあげて」


「シャノン、キサマは黙っていろ!」

 ヒルダが振り返って怒鳴った。

「主人を助けようともせず一人で逃げおって!」


「別に逃げたわけではないわ。何度でも言うけど、私は年下とは絶対に戦わない。それだけのことよ」


「ゴタゴタぬかすな! ワタシの怒りはもう限界を越えた。キサマには今からそれなりの罰を受けてもらう!」


「あら、やっぱりやる気なの?」

 と、シャノンが刀の柄に手をかける。


「ククク、それよりも……」

 ヒルダが嫌な笑い声を立てて言った。

「もっと面白いことを思いついた。キサマとそのガキともども懲らしめる一石二鳥の策をな!」


 どうやらヒルダは、またロクでもないことを考えているらしい。

 しかし僕は、ヒルダが何を言おうが何を企もうが、意外と冷静でいられた。

 というのも、この『イビルバインド』による拘束は、魔法効果を打ち消す白魔法『ブレイク』で解除できる。

 そう踏んだからだ。


 そして体さえ自由になれば、後はこちらのペース。

 油断したヒルダが近づいてくるのを待って不意を突けばいい。

 それなら魔法で反撃される心配もないし、シャノンが介入してくる時間もないだろう。 


 ただし一つ、問題があった。

 しかも究極の。


 それはセフィーゼと戦った時と違い、ヒルダには剣による脅しなどまず効かないだろうということだ。

 つまり、やるなら一思(ひとおも)いにヒルダの急所を突き、殺すしかない。


 けれど――


 普段の理性を取り戻しつつある今の自分に、敵とはいえ女性を、ためらいなく一撃で倒すことなど可能なのか?

 いや、それ以前に“人を殺す”という最後の一線を越える覚悟が、自分の中に果たしてあるのか?


 そこだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「おい、キサマ!」

 ヒルダが僕に向かって吐き捨てるように言った。

「答える気がないのなら、ひとこと言っておこう。ワタシはキサマのような甘ったれた奴が死ぬほど嫌いだ!」


 甘ったれた奴?

 ヒルダにとっては、人を殺せない=甘ったれということらしい。


「キサマは回復者(ヒーラー)だろう? まったく回復者(ヒーラー)なんて(やから)は、いつも後方にいて偉ぶっている腐ったクズばかりだからな。キサマが安全地帯でのうのうとしている間、実際に戦い血を流しているのは誰か? 傷つき倒れていくのは誰か? キサマはそのことを今まで一度でも想像したたことがあるのか?」


 回復者(ヒーラー)に恨みでもあるのだろうか? ヒルダは憎しみのこもった声でまくし立ててくる。

 ヒルダの主張はまったくの言いがかりで、難癖に近い。

 けれど――その考え方にも一理あるのかもしれない。

 僕はそんな風にも思ってしまった。


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