(6)
「クソッ!!」
焦ったヒルダは大きく後ずさりして叫んだ。
「シャノン! 助けろ!」
さあ、ここが運命の分かれ道。
シャノンはいったいどう出る?
僕は祈るような気持ちでシャノンの方を見た。
一瞬、お互いの目線が合う。
するとシャノンは口元に微かな笑みを浮かべ、まったく戦う意志がないことを示すかのように、ぴょんと後ろに飛びのいてしまった。
――やっぱり!!
表面上は和解しても、ヒルダとシャノンとの間には修復できない深い溝が出来てしまっているのだ。
ということは、ヒルダの身によほどの危険が及ばない限り、シャノンは知らんぷりを決め込むつもりだろう。
これでこちらの勝ちはほぼ決まった。
僕はヒルダに接近し、魔法使いにとってとどめとなる呪文を唱えた。
『シール!!』
敵の魔法を封じる緑色の光が、ヒルダの全身を包み込む。
終わった。
そして勝ってしまった。
ヒルダのような強敵相手に自分一人で。
僕は一呼吸おき、みんなに向かって勝利宣言しようとした。
しかし、その矢先――
「え……?」
愕然とした。
『シール』の光がヒルダの体からふっと消えてしてしまったからだ。
つまりそれは、僕の魔法がヒルダにまったく効いていないことを意味した。
まさか、そんなはずは……。
何かの間違いだろうと思い、僕はさらに強い魔力を込め呪文を唱える。
『シール!!!』
ところがまたしても、魔法の光は瞬時に消滅してしまったのだ。
「フフン、どうした? クソザコ」
ヒルダは笑い声を漏らしながら、三歩ほど前に進み出た。
――なぜだ!
あんなに魔力を強めた『シール』が効かないなんてありえない!
「もしかして、今の魔法がキサマの切り札だったのか?」
ヒルダの勝ち誇った声が森の中にこだまする。
「バカめ、剣で私を殺せば勝てていたのに」
「だ、黙れ!」
と、叫んだものの、それは単なる負け犬の遠吠えでしかなかった。
「黙るのはキサマの方だ!」
ヒルダが杖を振る。
『――イビルバインド!』
杖の先から紫色をした魔法のリボンが伸び、僕の体をぐるぐる巻きにした。
リナを捕らえたのと同じ呪文だ。
「うぐっ」
全身をぎゅうっと締め上げられ、思わずうめき声が漏れでる。
相当苦しい。
が、それでも僕は『シール』が発動しなかった理由を考えずにはいられなかった。
自分の魔力はヒルダを上回っているか、少なくとも拮抗しているはずなのにどうして――?
思い当たる原因はただ一つ。
『デス』や『ストーン』の闇魔法が僕に効きにくかったのと同じように、ヒルダは『シール』の魔法に対し耐性を持っているということだ。
特定の魔法が効かない。
そんな敵は幾らでもいるのに、どうして考えが及ばなかったのだろう?
結局、少しくらい魔法が使えるからといって、調子に乗ってしまった自分が愚かだったのだ。
この異世界に来て取り戻しつつあった自信――
それが一瞬で、ものの見事に落ち砕かれてしまった。