(5)
「キサマ、いつの間に『Mガード』を!」
ヒルダが悔しそうに叫ぶ。
なぜ『ダークフレア』が通用しなかったのか、ヒルダはその原因にすぐに気が付いたらしい。
まあ確かに、種を明かせばどうってことないのだが。
ヒルダが最初、僕に向けて放った『ストーン』と『デス』――これはいわばゼロか百かの確率の魔法だ。
そしてそのどちらも効果は出なかった。
となると次にヒルダが試す魔法は何か?
選択肢はおのずと限られてくる。
非確率系の、体に直接ダメージを与える物理系の攻撃魔法以外ありえない、ということになるだろう。
そこで僕は、ヒルダとシャノンが言い争っている間、前もって自分に『Mガード』をかけておいた。
そして読みは見事に当たり――
ヒルダの『ダークフレア』は、魔法の防御壁に当たって爆散したというわけだ。
それらは「戦術」と言えるほどたいそうなものではないかもしれない。
けれど異世界に来たばかりのころに比べたら、僕もだいぶ戦いのポイントというか、コツがつかめてきたような気がする。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しかしいくらヒルダの魔法を防いだとはいえ、こちらが不利な状況は何も変わっていないのも事実だ。
結局、自分の力だけでヒルダと戦いリナを取り戻すしかないのだから。
「マティアス様、お腹の傷はとりあえず危険な状態は脱したと思います。あとはヒルダを倒してから治しますから、どうぞここでお待ちください」
僕はマティアスにそう声をかけ、返事も聞かず前へ飛び出した。
「ユウト、待て!!」
マティアスは手を伸ばして叫んだが、もちろん僕は止まらなかった。
ターゲットはすべての元凶、ヒルダただ一人だ。
ただ、気がかりなのはやはりシャノンの存在だ。
僕がヒルダに魔法攻撃――『シール』で闇魔法を封じようとした時、シャノンはどう行動するだろうか?
……いや、心配するのはよそう。
おそらく彼女は戦いに手を出してこない。
なぜならヒルダとシャノンの間にはすでに大きな亀裂が入っている。
その上、僕がヒルダを殺す気がないことはシャノンも分かっているからだ。
そこには多少の希望的観測は混じってはいるが……。
とにかく今はそっちの――つまりシャノンが戦いの間、何もしないでいてくれる方の可能性に賭けるしかない。
「今度はこちらから行くぞ! ヒルダ!」
僕はヒルダ目がけダッシュした。
『シール』を使ってヒルダの魔法を確実に封じるには、もっと間を詰めなければならないからだ。
「まだやる気か、生意気な!」
ヒルダは迫ってくる僕を見て、杖を頭上に高くかかげ再び魔法を唱えた。
『ダークフレア!!』
さっきと同じ爆破魔法のはずなのに、今度は一つの黒いマグマの塊ではなかった。
野球ボールぐらいの大きさの黒い火の玉が無数に出現し、ヒルダの周りをぐるぐる回り始めた。
「くらえ!」
ヒルダが杖を振ると黒いマグマの玉がヒュンヒュン飛んでくる。
ちょうど複数台のピッチングマシンが、一斉に高速ボールを連射してきたような感じだ。
「うわっ」
超激烈な集中砲火――
あまりの迫力に足が止まり、思わず顔を両腕で覆う。
直後「バンバンッ」という大きな炸裂音が聞こえ、僕の周りで小爆発が連続して起こった。
ほぼ百発百中、すごい命中率だ。
しかしそれでも『Mガード』の守りは鉄壁だった。
何発当っても、魔法の壁はビクともしない。
見たか!
ヒルダの闇魔法なんて怖くない。
光と闇、明と暗――
ジャンルは違えども、魔力は完全に僕の方が上だ。