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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十一章 信条と約定
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(4)

「とにかく今はマティアス様を助けます」


 僕は魔法を唱えようと、強引にマティアスに向けて両手をかかげた。

 ところがそれは、シャノンが構えを解き、刀身を鞘に納めたのとほぼ同じタイミングだった。


「私の負けね」

 シャノンが大きなため息をついた。

「今、あなたとやり合うつもりはない」


「それは賢明だな」

 ヒルダも杖を下ろす。


「ただし一つ条件があるわ」

 シャノンがヒルダに鋭いまなざしを向けて言った。

「王女を連れて帰るのは邪魔しないけど、彼女にこれ以上酷いことをしないと約束して」


 ヒルダは少し考え、渋々と返事をした。


「……まあ、いいだろう。それは約束してやる」


 その瞬間、二人の殺気に満ちたオーラがすっかり消えた。

 森の中がシンと静まり返る。


「ではシャノン、話がまとまったところで残りの竜騎士どもを一気に片付けるぞ」


「ちょっと待ってヒルダ、もう一つだけ。あの白魔法使いの少年のことだけど、彼も助けてあげて――」


 と、シャノンが森の中を見回す。


 ダメだ、時間が足りない!


 魔法を唱えながら二人の会話を聞いていた僕は、マティアスと一緒に戦うことを断念した。

 治療はまだ始まったばかり。

 マティアスは剣を取ることはおろか、立つのがやっとの状態だからだ。


 ヒルダが『リカバー』を使いマティアスを治療する僕に気付いたのは、それからすぐのことだった。


「ちっ! ザコが、させるかっ!!」

 ヒルダは怒鳴って杖をふりかざした。


『――ダークフレア!!』


 闇の爆破魔法!


 ヒルダの持つ杖の先から、太陽の黒点のような球状の黒いマグマが発生し、こちらに向かって飛んでくるのが見えた。


『ダークフレア』は、『ストーン』や『デス』と違い、物理的な攻撃魔法。

 今のマティアスに、あのマグマが当たれば確実に命を失ってしまう。


 ええい、こうなったら、なるようになれ!


 僕は『リカバー』を唱えるのを中断し、前に飛び出して、マティアスを庇うように大きく両手を広げた。


 次の瞬間――


「バンッ!」という鼓膜に響く大きな爆発音がして、視界が黒煙で遮られた。

 すべてを焼き尽くすドス黒い炎に、僕は包み込まれてしまった。


「やってくれたわね、ヒルダ。罪のない子供がまた死んだ」


 爆炎に包まれた僕とマティアスを見て、シャノンが悲しそうに言った。

 だがヒルダは、そんなシャノンに悪態をつく。


「バカかオマエは! そいつはオマエが苦戦していた竜騎士を回復しようとしたのだぞ」


「だからって!」


「甘すぎる! 復活した竜騎士と二人がかりで攻められたら厄介ではないか」


「私とあなたが組めば、そうなる前にいくらでも対処できたでしょう! さっきだってヒルダ、あなたが見境なく王女にうつつを抜かすから――」


 再び二人の喧嘩が始まろうとした時――


 偶然、森の中に一陣の強い夜風が流れた。

 風は『ダークフレア』の爆発によって発生した黒い煙を、ぱっと吹き飛ばす。


「な、なにっ!?」

 ヒルダが叫んだ。


「へえ、なかなかやるじゃない」

 シャノンは感心したように、小さく口笛を吹く。


 きれいに煙が消えた後、ヒルダとシャノンは、そこに立っているまったく無傷の僕の姿を見たのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 やった。

 これで大陸一の魔女の魔法を三度も防いでしまった。


「効かないんだヒルダ」

 と、ちょっと得意げな気分でつぶやく。

「その程度の魔法、僕には効かない」

 

 だが――

 ヒルダはそう生易しい相手ではないことを、僕はすぐに思い知らされることになる。


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