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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十章 恐怖の森
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(13)

 ……た、助かった。


 肺にいきなり酸素が入ってきて、僕はゼーゼーとむせこんだ。

 頭に血がめぐり、霞が一気に晴れるかのよう意識がクリアになっていく。


 僕の首から手を離し、急におとなしくなったヴィクトル将軍は、何かの支えがなくなったかのようにがっくりとその場に膝を折った。

 思った通り、たとえアンデッドなっても自分の娘のことだけは頭の片隅に残っていたのだ。


 将軍が僕を見上げる。

 表情はない。 が、何か頼みごとをしているように見えた。


 ――早く楽にしてくれ。

 と、いうことなのか……?


 僕はヴィクトル将軍の頭の上に手をかざした。

 将軍はなんの抵抗もしない。

 謝るようにただ頭を垂れただけだ。


 どうやら僕の解釈は間違っていないようだ。

 数秒間で呼吸を整え、それから魔法を唱える。


『リカバー』


 優しい光がヴィクトル将軍を包み込む。

 一瞬、状軍の顔に安らかな笑みが浮かんだような気がしたが――

 それは僕の気のせいだったかもしれない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 光が消えた。

 他のアンデッドと同じように、今度こそ将軍の体は浄化され溶けてなくなった。

 後に残ったのは白い骨だけ――

 ではなかった。

 コロン、と音がして小さな丸いメダルのようなものが転がってきた。


「?」


 拾ってみると、それは銀で出来た立派なマント留めだった。

 表面には二本の剣が交差した紋章が刻まれている。

 おそらくヴィクトル家の家紋だろう。


 いつかティルファと再会できたら、その時に渡してあげよう。

 そう思って僕はそのマント留めを腰の革袋にしまい、リナを救うべく、再び魔女を目指し前へ進んだ。


 周囲にはまだ無数のアンデッドがうごめいている。が、ヴィクトル将軍のように脅威になる個体はもう存在しない。


 ここは臨機応変に対処した方がよい――


 そう判断した僕は、残ったアンデッドはできる限り竜騎士に任せひたすら前に進むことにした。

 その後も行く手を阻むアンデッドが数体いたが、すべて『リカバー』で浄化し、まもなく魔女の元にたどり着くことができた。


「王女を放せ!」


 僕は魔女に向かって叫んだ。

 怒りのあまり、声が震えているのが自分でもわかる。


 だが魔女は僕のことなど無視して――いやむしろ見せつけるかのようにリナの胸を(もてあそ)び続けていた。

 戦いの最中にこんなセクハラ行為を堂々としてしまうなんて、この魔女、頭がいかれているとしか思えない。


 一方のリナは抵抗するそぶりも見せず、顔を真っ赤に上気させ、目は高熱に浮かされたようトロンとさせている。

 頭がボーっとして、半ば意識を失いかけている様にも見えた。


 そんなリナを目の前にして、僕は怒りの感情はさらに燃え上がる。


 許せない!

 絶対に許せない!!

 いくらアリスの身代わりだからって、リナがこんなひどい目に合う筋合いはない。


「やめろ! その汚い手をどけろ!」 


 僕は絶叫した。

 が、魔女はそんなことなどお構いなしに、リナの耳元に甘い口調で囁やいた。


「かわいいかわいい王女様。まだまだ未熟なつぼみだけれど、むしろそれがいい。……じゃあ、こちらの方はどうだろう?」


 魔女がいよいよ、といった感じにリナの下半身に手を伸ばそうとする。

 リナはもう魔女のされるがままだ。


 やばい!

 このままだと本当に取り返しがつかなくってしまう!!


 その時の僕は、リナのあられもない姿を見てすっかり逆上していた。

 魔法を使うことすら忘れ、とにかく一刻も早く、たとえ魔女を傷つけ殺してでもリナを奪い返すつもりになっていた。


「リナを放せ! さもなくば――」

 僕はそう言って、ほとんど無意識のうちに腰のショートソードを抜いた。


「――へえ、ワタシを殺るというのかい?」

 

 そこでようやく魔女が僕の方を向いた。

 が、こんなに近くに迫っても、魔女の素顔はフードの奥に隠れてまったく見えない。


「まったくうるさいハエだこと。せっかくお前に王女が()ちる姿を見せてやろうと思ったのに」


「ふ、ふざけるな!」


「お前は王女の馬に乗っていた護衛の魔術師か。若いのにそこそこ魔法は使えるようだが――」


 この魔女……。

 リナにうつつをぬかし、僕のことなど眼中にないと思っていたが、そんなことはなかった。


 僕が白魔法でアンデッドと戦う様子だけは、しっかり見ていたのだ。

 まったく油断ならない相手だ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公をもう少し利口にした方が、面白い小説になるのではないでしょうか?
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