(11)
「マティアス様! いま回復します!」
僕はそう叫んで、負傷したマティアスへ走り寄ろうとした。
が、マティアスは歯を食いしばって叫んだ。
「バカ者、お前は自分の役目を果たせ! まずはアリス様を助けろ!」
……言われてみればその通り。
自分は王女の護衛なのに、捕らわれた王女を差し置いてマティアスを助けるのはあまりに不自然、順序が逆だ。
結局、ここはどうにかマティアスに耐えてもらい、少しでも早く魔女を倒す。
それしかない。
と、心に決めたところ――
偶然、一体のアンデッドが腐臭を漂わせながら僕に襲い掛かってきた。
しかし焦りはなかった。
アンデッド系を倒すには回復魔法というRPGの世界のセオリーを、僕は熟知していたからだ。
『リカバー!!』
魔法を唱えた途端、アンデッドがたちまち優しい光に包まれた。
もちろんそれは普通の人間にとって救いの輝き。
だがアンデッドにとっては、どんな強力な攻撃魔法よりも大ダメージ受けてしまう恐怖の煌めきだった。
そして、結果は予想通り――
『リカバー』の光で浄化されたアンデッドは「グオォォォォ」という不気味な声を上げ、その場に崩れ落ち、溶けるようなくなってしまった。
後に残ったのは白い骨ばかりだ。
一度コツをつかめばあとは楽勝。
僕は森の中を蠢く無数のアンデッドを、次々と『リカバー』で浄化していった。
魔女によって無理やり蘇った竜騎士をあの世に戻してあげただけだから、心も痛まない。
むしろ良いことをしているような気分にさえなる。
とはいえ『リカバー』の威力はあまりに高すぎた。
効果がありすぎて恐いくらい、どんな個体でもすべて一撃で倒せてしまう。
そこに油断とスキが生じてしまったのだ。
二十体ほどアンデッドを浄化し終えた時だった。
前方から、今までとは違う、竜騎士たちの悲痛な叫びが聞こえてきた。
「――将軍!?」
「おい、ヴィクトル将軍だ!」
「お止めください、将軍!」
どうしたのだろうと思い前へ進むと、道の真ん中に一体の大柄なアンデッドが立ちふさがっているのが見えた。
顔色は死者そのものだが、立派な口髭に堂々たる体躯で、銀色に光る長剣とロードラントの紋章の入った盾を手に持っている。
そのアンデッドは、他の個体に比べ明らかに強そうな雰囲気を漂わせていた。
RPG的に言えば手ごわい中ボス、といった感じだろうか。
――あれがヴィクトル将軍なのか?
ロードラント第二軍の総大将にして、僕が治癒魔法を使って助けた女騎士ティルファの父親。
これまで何度か聞いた名前だ。
竜騎士たちも敵が元将軍では余計に戦いにくいだろう。
そう思って、僕は彼らに遠慮がちに声をかけた。
「竜騎士様、よろしければどうぞお下がりください。私が魔法でヴィクトル将軍を浄化いたします」
「……むむ」
竜騎士たちは一瞬顔を見合わせ、僕に言った。
「確かにその方がよいかもしれぬ。分かった、ここはまかせよう。他のアンデッドは我々が排除する」
僕の申し出に、プライドの高い竜騎士も今回ばかりは素直に応じてくれたのだ。