(9)
この章からやや性的な表現が増えます。ご注意ください。
それにしてもローブの魔女は、いったいどれだけの数の死体を用意したのだろう?
アンデッドは地中から際限なく湧いてくる。
「どうだ、ワタシが蘇らせた地下の戦士たちは! なかなかの強さだろう。」
魔女が満足げに言った。
「だが王女まで危害が及んでは困るな――アリス王女、その身預からせてもらおう!」
思った通り、魔女の一番の狙いはアリスなのだ!
僕は焦ってリナの肩をつかんで言った。
「リナ様、このままでは危険です! 私は馬を降りて戦います。どうぞ後方へお逃げください!」
「いいえ、それは認められません。戦うのなら共に!」
「そんな! コボルト兵と戦うのとはわけが違うんですよ!」
と、押し問答をしていると――
魔女が杖を振り上げ、また別の魔法を唱えた。
『イビルバインド!』
途端に杖の先が紫色に点滅し、そこから、ひらひらした帯状の光が伸び出てきた。
その魔法の帯は、まるで生きているかのようにくねくねと空中を動き、アンデッドや竜騎士の頭上を跳び越え、リナの頭上まで来て止まるとらせん状の輪に形を変えた。
ちょうど新体操の競技で使うリボンのような感じだ。
「あっ!」
リナの口から悲鳴が漏れる。
光の帯は、あれよあれよと言う間に、リナに巻き付き体をキュッと締め上げたのだ。
「捕えた! 王女を捕えたぞ!」
魔女は杖を、魚のかかった釣竿のようにクイッと引いた。
光の帯はそれに連動して動き、リナをいとも簡単に空中に持ち上げてしまった。
「い、いやあああああーー」
リナが悲鳴を上げる。
――させるか!!
僕はリナが纏っている王家のマントをしっかり握った。
が、光の帯の力は思いのほか強烈だ。
しばらくグイグイと綱引きをしていたが、途中でマントがビリッと大きく裂けてしまった。
「うわっ」
力が余って体勢が崩れた。
マントの切れ端をつかんだまま、僕は馬から転がり落ちた。
「痛!」
右足に激痛が走る。
足首を強くひねったらしい。
この異世界にきて初めて感じる強烈でリアルな痛み――
もしかして骨が折れているかもしれない。
「ユウトさん――!」
叫び声も虚しく、光の帯に捕えられたリナは魔女の元へぐんぐん引き寄せられていく。
絶対に助ける! と、僕は無理に立ち上がったが、痛くてほとんど歩けない。
こんな時にケガをするなんて!!
混乱して頭がカッと熱くなってしまう。
それでも足を引きずりながらなんとか前へ進むが、そこではアンデッドと竜騎士が入り乱れて戦っていた。
クソッ!
まずは目の前のアンデッドを倒さなくちゃどうしようもない。
そんな風に僕がもたついている間に、魔女は光の帯を操りリナの体をぐっと抱き寄せてしまった。
「ああ、噂にたがわぬ美しさ……」
魔女がうっとりとした声を出す。
「素晴らしい、本当に素晴らしい。まさかこれほどまでとは思わなかった」
「ぶ、無礼な。その手を離しなさい!」
リナが必死に叫ぶ。
「どうした? そんなに震えなくても良いではないか。これからワタシがたっぷり可愛がってやるのだから……」
どういう意味だそれは!
魔女の言葉を聞いて、僕の体に嫌な悪寒が走った。
まさか人前で……。
しかし魔女は周囲のことなど気にしていない。
ローブフードの奥から笑い声を漏らし、真っ赤なマニキュアを塗った手をリナの胸元あたりに伸ばした。