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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十章 恐怖の森
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(7)

「全員、アリス様をお守りしろ!」


 竜騎士の一人が前に出て叫んだ。 

 他の竜騎士たちがその呼びかけに応じ、アリスに扮したリナの守りを固める。


 もちろんこれらの行動はすべて、リナを本物のアリスに見せかけるための演出だ。

 ローブの魔女の意識が偽の王女に集中すればするほど、最後尾にいるアリスの存在がバレにくくなるということだろう。


 しかし同時にそれは、竜騎士たちにリナを護衛する気なんてさらさらないということをも意味した。

 むしろ、彼らはリナを生け贄にしてでもアリスを逃がすつもりなのだ。


 最悪だ。


 もはや竜騎士たちの支援は期待できない。

 恐ろしい魔女相手に、なんとか自分一人でリナを守り切るしかない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「邪魔者どもめ! お前たちの相手はこれで十分!」

 魔女が鬱陶うっとうしそうに叫び、また呪文を唱える。


『アンデッドリバース!』


 すると、魔女の持つ杖の先から怪しい紫の光線が放出された。

 光線はすぐに細かな粒子になって、チカチカ輝きながら広範囲に渡って地表に降り注がれる。


 その無数の光の粒は、乾いた大地に水が染みるように地面にスッと吸い込まれて消えてしまった。


 ――いったいなにが起きるのか?

 と、僕もリナも息を飲む。


 それからほんの数秒。

 地面のあちこちにミシミシとひび割れが発生し始めた。


「な、なに……これ?」


 リナが不安げな声を出したその時、突然、そのひび割れからにゅっと何かが生えてきた。


 夕闇に包まれる薄暗い森の中、目を凝らしてみると――

 それは土気色をした何十本もの人の手だった。

 リナがたまらず悲鳴を上げる。

 一瞬アリスに化けていることも忘れてしまったようだ。


 無理もない。

 こんなに気持ちの悪い光景、見ているだけで誰だって頭がおかしくなる。

 しかし本当の地獄絵図はそれからだった。

 強烈な腐敗臭と共に、ドロドロに溶けた人間が続々と地上に這い出してきたのだ。


 ――こいつらアンデッド、ゾンビだ!


 アンデッドはどの個体も皮膚はただれ、肉は腐り、骨がむき出しの見るも無残な姿を晒け出していた。

 ただ、やけに立派な剣や鎧を身に付けているのが、ミスマッチというか、やたら奇妙に見えた。


「こ、この人たち……」

 リナは震える声で言った。

「もしかして、元はロードラントの竜騎士……」


 え!? 

 と驚き、アンデットたちを見直す。


 確かにリナの言う通りだった。

 アンデッドが装備している武器防具は、見覚えのあるロードラント軍のものばかりだ。


「竜騎士ども、感謝するがよい」

 ローブの魔女が笑う。

「地獄に落ちた仲間と再会できて、さぞや嬉しかろう」


 この魔女――

 壊滅したロードランド軍の第一、二軍団の竜騎士の死体を回収し、アンデッドとして利用するため、あらかじめこの森の中に仕込んでおいたのか。


 かつての味方同士を戦わせる、まさに悪魔の所業。

 一刻も早くアリスをデュロワ城に、と焦る竜騎士団は、よりによって自らその罠に飛び込んでしまったのだ。


「地下の国から(よみがえ)りし者どもよ! 彼奴(きゃつ)らを皆殺しにしろ!」


 魔女が叫ぶと、一呼吸おいて、アンデッドたちは「グオオオオオオッ」と恐ろしい唸り声を発した。

 そして、一斉にうじゃうじゃ動き出し、竜騎士たちに襲いかかってきた。


 どうやら彼らは、魔女の命令を聞くだけの知能は残っているらしい。



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