(6)
シャノンとマティアスが熾烈な戦いを繰り広げている一方、竜騎士たちはローブの魔女を攻めあぐねていた。
即死魔法の他、いったいどんな魔法を使うのか?
得体の知れない魔女を前にして、積極的に攻めることに二の足を踏んでしまっている。
元より竜騎士たちはアリスのためなら死をも厭わない戦闘集団だ。
魔女と戦うことを恐れているというわけではないだろう。
だが、闇雲に突撃していたずらに犠牲者だけが増えれば、アリスを守りデュロワ城に逃がすという本来の目的が果たせなくなる。
そのリスクを考えているのだ。
――やっぱりここは僕が魔法でローブの魔女を封じるしかない。
いくら魔力がハイレベルでも、魔女が「魔法使い」というクラスに分類される以上、どうせ実際の戦闘力は低いに決まっている。
つまりこれは、セフィーゼと戦った時と似た状況ではないだろうか?
けれど今回は小細工しない。
最初の一撃で『シール』を決めてやる。
ただ一つ問題なのは……。
闇魔法はたとえ僕でも確実に防御する手段がないという点だ。
『シール』を唱えるためローブの魔女に近づいた際、逆に『ソウルスティール』を食らって即死、ということもありうる。
――などと長々考えていたのがいけなかった。
「そちらが来ないのなら、こちらから行くぞ!」
ローブの魔女がいきなり叫び、杖を振りかざして次なる呪文を唱えたのだ。
『ストーン!』
杖の先から今度は灰色の光弾が発射され、竜騎士の一人に向かって飛んでいった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ストーン』
その名の通り人体を石化させる闇魔法。
ただ即死魔法と違い、石化した人を助ける白魔法はある。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その竜騎士は、避けるどころか身動きする暇さえなかった。
光弾は竜騎士に当たった瞬間パッと広がり、体全体を包み込んだ。
するとたちまち竜騎士の足が灰色に変化し始め、その範囲はすぐに上半身から頭部へと広がっていき――
光が消えた時には、竜騎士は完全な一体の石像と化してしまっていた。
「どうだ? なかなか面白い魔法だろう」
魔女の笑い声が森の中に響く。
なんてことだ!
僕がモタモタしているうちにまた犠牲者が増えてしまった。
もう迷ってはいられない。
『ソウルスティール』や『ストーン』は「効くか効かないか」という、いわば“確率の魔法”。
そして、この異世界がゲームと似た世界ならば、その手の魔法に対する耐性は自分にそれなりに備わっているはず。
少なくとも、一発でやられる可能性は竜騎士たちよりずっと低いに違いない。
いける、きっといける!
そう自分を奮い立たせ、馬を飛び降りようとしたその時――
「おや?」
魔女が驚いたような声を上げた。
目深にかぶったローブフードの奥に隠れた瞳が、きらりと光ったような気がする。
「まさか! ――いや間違いない。その目その髪その美貌。まさしくロードラントのアリス王女!! この度の戦に出陣しているとは聞いていたが……」
まずい。
前衛の竜騎士がまとめて倒されたため、アリスに扮したリナの姿が、いつの間にか魔女に丸見えになってしまっていただ。
「嗚呼、なんたる僥倖! 罠にネズミがかかったと思ったら獅子だった――いやいや可憐なバラのつぼみと言うべきか」
空耳ではない。
「ゴクリ」、と魔女が唾を飲み込む音を僕は確かに聞いた。
狙い通り、リナのことを完全にアリスだと思い込んでいるようだ。
「や、やだ……」
しかしリナは、気色悪い魔女の言葉にビクッと震えた。