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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十章 恐怖の森
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(5)

 しかし――


「やめておけ。その女、お前たちがかなう相手ではない」


 マティアスはそう言って竜騎士を制止すると、自分は馬を降り、シャノンの前に立って剣を構えた。


「この女は私が引き受ける。お前たちはローブの魔女を仕留めよ。そして必ずやこの森を突破するのだ!」


 マティアスの言う“お前たち”の中には当然僕も含まれている。

 いや、むしろこの中でローブの魔女に対抗できそうなのは僕だけだろう。


 要するにマティアスは、僕に向かって(魔法使って魔女を倒し、アリスを逃がせ)と、メッセージを送っているのだ。


 けれど僕が助けたいのはアリスだけじゃない。

 リナのことはもちろん、戦場に残してきた仲間たちのこともある。

 彼ら救うためにも、今、アリスだけを逃がすような戦い方をすることは、頼まれてもできない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 



「てやああああああっ」


 マティアスが気合を入れて叫ぶと、体が赤く発光し始めた。

 この光を見るのはこれで二度目――『パワー』のスキルだ。


 が、シャノンはそれを見ても表情一つ変えず、クールに言った。


「力で私に対抗しようというの? 無駄なあがきね」


「それはどうかな!」

 マティアスはそう叫ぶと、いきなり地面に向かって思い切り剣を振り下ろした。


「ドコンッ」


 大きな音がした。

 剣が地面に叩き付けられた勢いで凄まじい衝撃波が発生し、そこにクレータ状の穴が開いてしまったのだ。


「!?」

 シャノンが思わず目を見張る。


 衝撃波は地面を破壊しただけではない。

 そのエネルギーは強力な波動の力に変換され、土を巻き上げながら、シャノンの方に向かって飛んでいったのだ。

 さすがハイオークとの力比べに勝ってしまっただけのことはある。

 直撃したら間違いなく致命傷を負う。それぐらいの波動のパワーだ。


 それでもシャノンはすぐに落ち着きを取り戻した。

 冷ややかな笑みを浮かべ、


「そんな技!」


 と、叫び、地面を蹴りあげた。

 得意のハイジャンプだ。


 だが、マティアスはその動きを完全に予測していたらしい。

 隠し持っていた短剣を、片手で「ピュッ」と斜め上空に投げつけたのだ。


 あるいはシャノンも、マティアスに動きを読まれていることは分かっていたのかもしれない。

 それでもなお上へ逃れざるを得なかったのは、衝撃波が勢いを増して左右にどんどん広がっていったからだ。


 相手は跳べない。空中に逃げればこっちのもの――

 シャノンにはそんな考えもあったのだろう。


 彼女にとって誤算だったのは、『パワー』スキルで強化されたマティアスの投擲とうてき力が半端なものではなかったことだ。


 短剣は音速の――いや、ほとんど光の速さでシャノン目がけて一直線に空を切り裂いた。


「くっ」

 と、シャノンが体をひねる。

 飛んでくる短剣を何とかかわそうとしたのだ。


 が、シャノンの常人をはるかに越えた身体能力をもってしても、それは不可能な動作だった。

「シュッ」と絹のこすれるような音がして、短剣はシャノンの太ももをかすめた。

 服が裂け、紅い鮮血がルビーの玉のようになって宙に飛び散る。


 思わぬ負傷でシャノンは大きくバランスを崩し、一回転してから地面に膝をついて着地した。

 マティアスはすかさず剣を持ってそこへ猛進する。

 力では明らかにシャノンが劣る。

 接近戦の打ち合いになれば、彼女は圧倒的に不利だ。


 いけない!

 と思ったのか――


 シャノンは本能的に、曲げた足をばねにして再び空中にのがれようとした。

 だが、ケガのせいで確実にスピードは落ちていた。


 間に合わない!


「ガキンッ」という乾いた音が静まり返った林の中に響く。

 マティアスの強烈な一撃を、シャノンはもろに刀で受ける羽目になった。


 思わずよろめくシャノン。

 それに対し、マティアスは連打連打連打――


 攻撃し続けてシャノンの空中殺法を封じようというのだ。

 シャノンは刀を両手に持ち歯を食いしばってマティアスの猛攻に耐える。が、すぐに表情に余裕がなくなってきた。


 ただでさえ力の強さには差があるのに、マティアスの剣の威力は『パワー』のスキル効果で倍増している。

 シャノンが守勢に回るのは当前だ。


 自由に動けなければシャノンの強さは九割減。

 これは断然マティアス有利の流れだ。 



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