ちょっと、私の出身県のこと悪く言わないで
「ねぇ聞いた? 昨日男子たち夜中までずっと『どこの県がどこの県より優れているか』ってので揉めてたんだって」
全国高等学校枕投げ選手権大会、通称――――〝枕投会〟というものがある。
これは、高校の枕投部という枕投げを一種のスポーツとして昇華し、部活としている高校生たちが、試合会場であるとある温泉地の旅館に集結し、その大広間で繰り広げる枕投げの大会のこと。
全国的に枕投部なんていう部活はマイナー中のマイナーだが、枕投げと造詣が深い日本の各地温泉地には、昔からある程度そういった部活が存在する学校があった。
だが、近年の少子化の煽りもあり、全国的にそんな高校はみるみる減少。現在ではその競技人工の少なさから予選にして既に全国大会と同義になってしまうほどの部活数となってしまった。数えるとすれば、各県に一校あるかないかだろうか。
しかし前述のとおり、これはれっきとしたスポーツである。遊び半分で参加することなかれ。
ここでの枕投げとは修学旅行のそれとは一味も二味も違う。闇雲に枕を投げるだけではなく、ちゃんとスポーツマンシップにのっとって真剣に枕投げの実力を競う。
例えば――――『ユニフォーム』。
枕投げをプレーするのだから、その際は寝巻き姿でなければならない。
それぞれの枕投部は背番号と高校名、チーム名の入った寝巻き式ユニフォームを着てプレイをする。
ただ寝巻きならば特に制限はない。
王道のパジャマ風ユニフォーム、少しファッション性に特化したスウェット風ユニフォーム、動きやすさを重視したジャージ風ユニフォーム、オリジナリティのあるTシャツ短パン風ユニフォームなど様々。
女子の部にはネグリジェ風ユニフォームや男物のワイシャツ風ユニフォームを採用しているチームもある。……余談だが、これは非常に見物である。いやほんとマジで。
もちろんある――――『ルール』。
試合開始の合図は「ショート!」、試合終了の合図は「センセー!」である。
これは修学旅行の『消灯時間』と、『先生が来たぞー!』から由来していると云われている。そこの君、笑わない。
競技の方はドッヂボールよろしく、枕をキャッチすることは枕を当てられたと見なされるので、枕は自分の持っている枕でガードするか、避けるかしなければならない。
つまり攻撃をすると自分を防御するものがなくなってしまうため、この判断を適切且つ瞬時にできることが枕投げには欠かせない。誤れば自分の負けが決定すると言っていい。
最後に――――『チーム名』
枕投部というのは昔からその低すぎる認知度ゆえ、正式な部活ではないケースが多かった。
なので、他の部活のように『○○高校野球部』などではなく、『○○ドラゴンズ』のようなオリジナルのチーム名を使っていた伝統で、今でもそれが採用されていることが多い。
『○○』の部分はその高校の地名などが入るのだが、ミソなのがその後ろのネーミングだ。
――ここは現実に存在しない生き物、〝幻獣〟の名前にしなければならない。
つまり『○○タイガース』とか『○○ラビッツ』では駄目だということだ。
強制ではないが、枕投げの世界でこれは暗黙の了解となっていて、皆それを守っている。
そして各チームにはJリーグやプロ野球よろしく、その幻獣のロゴマークがあり、それはキャラクターとしてそのチームのマスコット的存在となる。
……ちょっと待て。なぜ幻獣ではないといけないのか? と、疑問に思うだろう。
確かにユニフォームやルールのように先代からのお達しということはもちろんだが、ちゃんとした理由もしっかりと存在する。
それは……また機会があれば別の物語で話そう。
まずは枕投げプレイヤーたちの日常のひと時を見て欲しい。
ちなみに今回の話も――――枕投げなんつーもんは 全 く 持 っ て 関 係 な い 。
重要なのはこの旅館に全国各地から高校生が集結していること。そして今は試合もひと段落した夜更け。高校生たちは旅館の風呂を堪能し終わり、男女分けられてはいるが全高校全チーム混合の大広間で就寝前の自由なひと時を過ごしている。
こんな修学旅行みたいな雰囲気に思春期の彼女らが素直に眠りに着くはずもなく、他校の生徒たちと話に花を咲かせるのは自明の理。というかもはや自然の摂理である。
そして今回ここは女子のいる大広間。喜べ野郎ども。だが過度な期待はするな。いや割とマジで。
ガールズトークとはヤローズトークのように茶番で済むようなものではないから……。
「ねぇ聞いた? 昨日男子たち夜中までずっと『どこの県がどこの県より優れているか』ってので揉めてたんだって」
男子の都道府県対抗フリースタイルバトルの翌日の夜、大勢の女子が集まった大広間で山梨ちゃんは静岡ちゃんに話題を振った。
「うーわバカだねー。男子ってほんとそういうくっだらない話するの好きだよねー。マジただのガキじゃん」
「ね。それ超思う。あいつらうちらが大学生とかと付き合ってるとすぐ『援交だ』とか意味わかんないこと言い出すけどさ、お前らがそんなんだからうちらは年上と付き合うしかなくなっちゃってるってことに何で気付かないのかな?」
「ほんとそれ。自分がガキだって自覚ないんだよねあいつら。なんなら『俺は汚い大人になんかなりたくない!』とか超キモいこと言い出すからね」
「そうそう。そんなんだからいつまで経っても童貞なんだよバーカ」
そして二人はギャハハハハと下品に笑い飛ばす。
だから言ったろう、期待はするなと。ガールズトークにおいて男の悪口は、一番が盛り上がる題材と言っていい。
女子同士のやりとりにきゃっきゃうふふなど求めてはいけない。
女がきゃっきゃうふふするのはむしろ逆で、男がいる時でなのである。イケてる男を前にした時、彼女たちは最大限にきゃっきゃうふふするのだから。
「なになにー? 何の話ー?」
そこへ青森ちゃんと秋田ちゃん、そして高知ちゃんが入ってきた。
「えー? いや男子がマジ子供すぎるって話ー」
静岡ちゃんが言うと青森ちゃんが「あー、だよねー」と早速反応した。
「こないだうちの高校の男子、昼休み学校で鬼ごっことかしてたよ。君たち何歳? って感じだった。でさ、いざ聞いてみたら『今俺ら童心に帰ってるんだわ!』とか言い出してー」
「うわマジー? それ引くわー」
「ってかウザっ! もともとガキだろおめーら」
すると今度は高知ちゃんが名乗りを上げる。
「うちの高校の男子もさ、何だっけ? アニメ? のキャラで誰が一番可愛いかとか超キモいこと真剣に語っててさ、最終的に女子にまで意見聞いてたからね。あれはマジないと思った」
いやぁー! キモーい! と更に盛り上がる面々。
「アニメ観るとかマジ何歳児だよ。うちらが幼稚園で済ませたこと今更やってんの? あいつら」
静岡ちゃんが言うと「あー懐かしー」と山梨ちゃんが笑う。
「プリキュアとか観てたわー。でも全然内容覚えてないなー」
「確かね、何か黒いのと白いのがいたんだよ。あれ違うな? 五人くらいいたんだっけ?」
そんな静岡ちゃん山梨ちゃんの話に秋田ちゃんも乗っかる。
「あ、うちにまだステッキの玩具ある。あの光るやつ」
「あったあったあった! あたしも持ってた! たぶんもう捨てちゃったけど」
「てかね……実は私、今でもたまに観てる」
「秋田ちゃんマジでー! 超ウケんだけどー!」
「ってかまだやってんの!? 超長寿番組じゃん! いいともかよ!」
「いやだって何かあれ、日曜にやってるじゃん? 部活ない時暇で朝ごはんの時テレビ点けるとやってるんだもーん」
すると青森ちゃんが「ああ!」と目を大きく開いた。
「あれプリキュアなんだ! 新しい違うやつだと思ってた!」
「でもなんかー、最近のプリキュアって男がいないらしいよ。ラブシーン的なのあると子供たちの親から苦情入るからって」
秋田ちゃん、意外と詳しい。
「は? マジ? それ観る価値ないじゃん」
「最近の子供たち可哀想ぉー」
しかし静岡ちゃんも山梨ちゃんもそんなことはあまり気にならなかったのか、素朴な感想を述べる。
というか何だかんだでアニメトークに結構ハマッている女子たちであった。
すると、高知ちゃんがみんなに静かに訊いた。
「……ってかさ、プリキュアってテレビでやってるの?」
その質問に皆が「え?」という顔になる。
「うち観たことないんだけど……」
どういうことだろうか。単純に小さい頃観ていなかっただけなのだろうか。
「それ、高知じゃ放送されてなかったんじゃね? 何かあるじゃん? そういうの」
「あー……うちの青森はいいともが夕方に放送されてたしね。地域によってそういうのはあるある」
「えー!? それじゃ全然お昼休みはうきうきウォッチングじゃないじゃん! 学校終わりにうきうきウォッチングじゃん! なら今のバイキングもそうなの?」
静岡ちゃんが訊くと青森ちゃんはちょっと困った顔になり、
「いや、バイキングに関しては放送すらしてない……」
「……え? あ、何かごめん」
「いいって。全然気にしてないし」
静岡ちゃん、青森ちゃんのやりとりで、何だか微妙に気まずい空気に。
「だ、大丈夫! 山梨なんかいいともも放送してなかったから!」
すかさず山梨ちゃんが女子ならではの自虐的なフォローを入れる……が、
「え!? 隣の静岡では放送してたのに!? ……あ」
静岡ちゃんはつい口を滑らせてしまった。
変に「……あ」とか言ってしまったあたりが特にマズかった。山梨ちゃんはしばらく瞬きをしてから次第に俯き、静かに口を開いた。
「……う、うん。してないよ? ……悪い?」
――何か、空間的なものが割れる音がした。
静岡ちゃんと山梨ちゃんは隣県なだけに通じるものがあって、仲良しだ。
しかし、これは女子の言う〝仲良し〟である。一般的な解釈のそれとは完全なる別物だということを忘れてはいけない。
そしてそれを聞いた静岡ちゃんは静岡ちゃんで、イラッときたらしく、
「……別に悪いなんて言ってないよ? 単純にそう思っただけっていうか?」
「そ。ならいいんだけど」
「…………」
「…………」
ものすごく不穏な空気が辺りに漂う。
「ちょ、ちょっとどうしたの? 何か変だよ。あんな仲良かったのに」
そんな風に秋田ちゃんが仲裁に入るが、
「え? 別にうちら変じゃないでしょ? ねー?」
「うん。うちら普通に仲良しだし?」
そう、これが女の世界で言う〝仲良し〟である。
それがどんな状況だろうが、誰がなんと言おうが、当の女たちが『仲良し』だと言い張ればそれはもう全宇宙的に〝仲良し〟ということに決定するのである。
女の世界に理屈など存在しない。彼女たちの前ではそんなもの無意味。女の世界は感情論によって全てが決められる。
たとえ誰かが論理的で正しい意見、つまりは正論を述べたとしても、彼女たちが「なんかそれ気に入らない」と感じれば、それはもう正論ではなくなるのだ。残念ながら、そういう世界なのだ。
だから秋田ちゃんの言葉はまったくもって効果がなかった。というかむしろ……、
「――でも、富士山は山梨のものだけどね」
最悪の引き金を引いてしまった。
実は静岡県と山梨県、とある事情で今も水面下では交戦状態。でも今は停戦中なのでお互いそれを見ないようにして付き合っている。
なので今、山梨ちゃんが言ったそれはほとんど禁句。
「は……? そんな話今関係ないでしょ? っていうかそれ冗談きついって。あれどう考えても静岡のだから」
女特有の『全く関係ない過去の話を持ち出す』スタイルを披露されて、静岡ちゃんも黙ってなどいられない。
勃発してしまった。これがかの有名な――――仁義なき富士山戦争である。
「別に何も面白いこと言ってないけど? ってか富士急ハイランドあるし? それが富士山の所有権を表してるっていうか?」
「いや富士山じゃなくて富士急じゃん。それ電車の名前じゃん。静岡はちゃんと富士山静岡空港があるし? こっちの方がどう考えても所有権力強いでしょ?」
「なに所有権力って? 女子力みたいな言い方しないでくんない?」
「ん? ダメ? あー、そっか。女子力低い田舎な山梨にこういう言い方はアレだったかもね。ごめんね?」
女子の言う疑問形の『ごめんね?』 ――――これは、世界で一番謝る気のない謝罪文句である。
「えー? お茶ばっか飲んでるババ臭い県民に女子力ないとかちょっと言われたくないかなー」
女子同士の争いは常に笑顔で、慎重に、陰湿に執り行われる。だから二人とも決して声を荒げない。『先に声を荒げたほうが負け』みたいな暗黙のルールが存在するからだ。
これを目の当たりにすると、前作で男子たちが繰り広げた『言葉による殴り合いのような争い』が茶番に見えるほど霞んでしまう。それを圧倒的に凌駕する迫力と威圧感が、ここには存在する。
「ちょっと二人ともやめなって。それじゃあ昨日の男子たちと一緒じゃん」
そこへまた秋田ちゃんが仲裁に入る。
だが、静岡ちゃんと山梨ちゃんはそれに大きく溜息をつく。
「だーかーらー、これは喧嘩じゃないんだって」
「そうそう。ただ相談してるだけだからね? わかる?」
いや全然わからない。けれど女の世界では彼女らが「喧嘩じゃない」と言えば、それはもう全宇宙的に喧嘩ではないのだ。そこには理屈もへったくれもないのだ。
「っていうかさ……秋田ちゃん、ちょっとさっきから何なの?」
「え……?」
そして、その火の粉は第三者へと降りかかる。
「それうちも思ってた。何かさ、そうやっていい子ちゃんぶるのやめない? 秋田美人とか持て囃されてんのかもしんないけど、ぶりっ子とかマジやめて」
出ました。女子がこの世で一番嫌悪する存在『ぶりっ子』。それに認定されてしまった秋田ちゃん。
「……は? 別に持て囃されてないし、喧嘩の仲裁に入っただけでぶりっ子? 何でそういうことになる?」
言うまでもなく秋田ちゃんも女子。自分がぶりっ子なんて言われて腹が立たないわけがない。
「ほら、さっきまで標準語だったのに急に訛り出てくる感じ、完全に猫被ってたんじゃん」
「ってかさっき何か言ってたよね? 男子がどうとかって。それって男ばっか意識してる証拠だから」
出ました。『男ばっか意識してんじゃねぇよ』発言。しかしこれはおかしい。
なぜなら女子は『モテかわスリムで恋愛体質な愛されガール』みたいな男を意識するにもほどがあるような雑誌の煽り文句をありがたがるくせに、いざ男を露骨に意識している女を見ると極度の嫌悪感を抱く。矛盾している。
しかし、ここでもやはり彼女らが「気に入らない」と思えば、それがたとえ矛盾していても関係などないのだ。「嫌いなもんは嫌い」なのだ。
「ほんとあたしそういう子マジ無理」
「ね。肥溜めに落としたくなる。男にばっか媚売って恥ずかしくないの?」
さっきまで喧嘩していた静岡ちゃんと山梨ちゃんが急に同盟関係になっていた。
――女の移り気の早さ、それは気付いた時にはもう済んでいる。
そんな風に、一方的な猛攻撃を喰らった秋田ちゃんはというと……、
「はっ……自分が男に構ってもらえないからって僻まないでくれる? モテる女とぶりっ子を一緒くたにするのはブスのすることだからね?」
秋田の女は強かった。
人が人ならここで泣いてしまってもおかしくない状況で、彼女は『ブス』という女子同士では滅多なことがないと使われない暴言を口にしたのだ。
「なっ……誰がブスだって!?」
「やっぱ猫被ってたこの女!」
その攻撃には静岡ちゃんも山梨ちゃんも思わず声を荒げてしまう。
「あら? 別に二人がブスだなんて一言も言ってないけど? もしかして図星だった?」
「ふんっ! ってかあたし前からずっっっと言いたかったんだけど、秋田ちゃんってどんだけ自分のこと可愛いと思ってんの? そういうのほんとキツいからやめたほうがいいよ?」
出ました。『私前からずっと言いたかったんだけど』。女子が喧嘩の際必ず持ち出す常套句である。これは彼氏との喧嘩にもよく使うのでリア充のみんなは気をつけよう。
「自分のこと可愛いと思って開き直ってる女がこの世で一番厄介よねー。何様って感じ」
日本人は男女問わず基本的には謙虚を美徳とするため、ナルシスト発言は否定されがちだ。『自分に自信がある』ということはそこまで悪いことではないという考え方もあるが、あまり受け入れられない。
「はい? っていうか二人はさっきまで喧嘩してなかった? なに仲良しごっこしてるの? 私なぜかよく女子にやっかまれるし、こういう性格だから友達とかあんまいないけど、あんたら見てるとそんな友達なら要らねーって思うね」
秋田ちゃんはおそらく、女子同士の馴れ合いに嫌気が差しているタイプ。それでも空気を読んで体裁だけは保てるようでもあったようだったが、ここにきてそんなのはやめたのだろう。
そんな彼女は一見男らしくて好感が持てるかもしれないが、『女に嫌われている女』というのもそれはそれで難がある。
彼女のようなタイプは女の厭らしさを人一倍熟知している分、腹黒さもMAX。有体に言えば『性格ブス』なので男のみんなも気をつけよう。
「んだとぉ!? そんなんだから休日にアニメなんて観てるんだろ! どおりで詳しいわけだよ」
「なによ! いけない!? あんたらと違って誰にも迷惑かけてないんだからいいでしょ!」
三人はキーキーと姦しく罵倒し合い始めたのに、青森ちゃんと高知ちゃんはぷるぷると震えながら身を引いてしまう。
だが、その異常に気付いた周りの女子たちが数人、止めに入ってきた。
まず三人に声をかけたのは北海道ちゃんと沖縄ちゃん。
「ちょっといいかげんにしなよ! みんな怖がってるよ!」
「そうだよ! 見苦しいよ!」
すると秋田ちゃんが二人に言い放つ。
「うるさい! ロシアと中国には関係ないでしょ!」
「「……は?」」
秋田ちゃんの言葉に北海道ちゃんと沖縄ちゃんは青筋を立てる。
日本の最北端にある北海道はロシアと、日本の最南端にある沖縄は中国と、時折ディスられる宿命にある。なにより両方とも本州と陸続きでないことがその確固たる要因。
「ど……道産子ナメんなっ! ちょっと秋田ちゃんかっこいいと思ってたのに性格悪っ!」
「ほんとだよ! 酷いよ! 沖縄のことそんな風に思ってたの!? みんなよく遊びにくるくせに許せない!」
秋田ちゃんの唯我独尊ぶりにより、場は更に揉める。
「北海道ちゃんと沖縄ちゃん何やってんの!? 参加してどうするの! もうみんなやめてよ!」
そこで、北海道ちゃんと沖縄ちゃんの後ろで止めに入ろうと待機していた鳥取ちゃんが二人を宥めようとするが、
「「「「「島根にはスタバがないんだから黙ってて!」」」」」
全員からわけのわからない演繹法で罵倒されてしまう。というか、
「し……島根じゃないから! 私は鳥取だから! 砂丘があるほうだから! うぅ……酷い……」
鳥取と島根は日本で最も田舎とされる県であるとともに、岐阜と滋賀レベルにごっちゃにされる泣きっ面に蜂な県。
そしてスタバ、つまりはスターバックスコーヒー――――それは日本全国の女子が優雅に時を過ごせる安息のオアシスであり、『イケてる女子』を最大限演出できる最高のプレイス。
なので、それが一店舗もない鳥取は全国の女子たちに『女子力のなさの象徴』と捉えられてしまう。余談だが鳥取県知事が「うちにはスタバがないけど、スナバ(砂丘)はあるよ」という格言を残しているのはあまりにも有名。
そんな鳥取と一緒くたにされて島根ちゃんも登場。
「ちょっと待って! 島根にはスタバあるから! 鳥取なんかと一緒にしないで!」
するとどうやらアニメに詳しいっぽい秋田ちゃんは言う。
「島根にはパソコンないんでしょ!? 同じようなもんじゃない!」
ひと昔前に上映されたとあるアニメ映画にて「島根にパソコンなんてあるわけないじゃん」という名台詞があったのだが、彼女はそれを引っ張ってきたのだろう。
「な……何それ!? あるし! 全然あるし! うち普通にスマホだし!」
「う……うえぇぇえぇぇえぇぇん! 酷いよぉ~! 別にスタバなくたって困らないも~ん……!」
ついに泣き出す者が出る始末。
さぁもうこれは男子の時とは比べものにならないくらい収集がつかない。
キーキーと甲高い声による言葉の応酬が鳴り止むことを知らない。
……すると、締め切られていた大広間の襖がバシャンと大きな音を立てて開いた。
「うるせぇぞ女子ども!」
「二階の俺たちの部屋まで声響いてんだよバカ!」
「いいかげんにしねぇと先生にチクんぞ!」
「こっちはな、昨日の件で十時には寝るって決めてんだよ!」
「つか……誰やお前ら!? すっぴんブッサイクやなー! つか女子って部活の時も化粧してんの? アホちゃう?」
そこには十数人の男子が立っていた。そして皆口々に文句を垂れる。
その光景に一瞬争いをやめた女子たちだったが、
「い……いやぁぁあぁぁあぁぁ!」
「なに女子の寝室に入ってきてんのぉー! ありえないっ! デリカシーなさすぎ!」
「そうよ! 絶対覗いてたでしょ! この変態!」
「うわ、きんも! ちょっとこっち見ないで! 妊娠する!」
「運動部の女子はみんな部活の時も化粧してるし! それ普通だから! すっぴん風メイクに騙されてんじゃねーよ!」
そう言い放って手元にあった枕を男子連中に投げつける。
そこはさすがの枕投部。めちゃくちゃ的中率が高い。
「痛っ! うるせぇー! お前らの寝巻き姿なんて見飽きてんだよ! 今更覗くか!」
「自意識過剰なんだよバーカ! うぐっ……!」
「大していい体してるわけでもうわっ!」
「くっそ……枕投げしてる女にろくな女はいねぇな!」
「おいみんなはよ逃げ! 覚えてろよアマども! ブスブスブース!」
深夜のテンションで小学生みたいなノリになっている男子は退散した。
「はぁ……はぁ……はぁ……マジありえない。ほんと男子キモい」
「ね。あーもー超疲れた。最悪」
「もう一回お風呂入りたーい」
そんな愚痴をこぼしながら、女子たちは自分の投げた枕を片付ける。
「ってかあいつらいつから見てたんだろう?」
「別に見られててもいいでしょ。どうせガキだし」
「え、あ、うん……」
まさかの秋田ちゃんに返事をされ、一瞬戸惑った静岡ちゃんだったが、
「あのさ、えっと……さっきは、ごめん」
素直に謝った。そしてそれを聞いた秋田ちゃんも思わず戸惑う。
「……え? あ……い、いいよ。うちもすごい酷いこと言っちゃったし……」
一呼吸おいて冷静になったのか、女子たちはもう争うようなことはしなかった。
「ってかさ……これ全部男子のせいじゃない!?」
山梨ちゃんが言い出した。
あの喧嘩は全く持って男子のせいではないはずなのだが、周りはその意見に激しく賛同する。
「それっ! だってあいつらがガキだからって話からこうなったんだもんね!」
「ほんと迷惑! いいかげん大人になってほしい」
「無理でしょ。今の見た? 小学生だったよ」
「ね。マジお前ら精神年齢上がるまで進級してくんなよって感じ」
男子という共通の敵の登場により、女子はまた団結力を取り戻す。
男子の悪口に始まり、男子の悪口に終わる――――彼女らにとって男子の悪口とは、ただただ不満を言い合うものではなく、一種のコミュニケーションの手段なのかもしれない。
「はぁー……高校生になったら風早くんみたいな人がいるって思ってたのになー。なのに何で実際はあんな動物みたいのしかいないの?」
「ねー。アオハの洸みたいなイケメンどっかにいない?」
「いたらあたしが貰ってる。でもストロボの蓮のがタイプ」
「うち晃。古いけど」
「天ない良いよねー。今からでもドラマ化すれば花男級になると思う」
そして恋の話は彼女らを、更に強く結束させてくれる。
でもこれもまた、些細なことで崩れるのだろう。女子の友情はハムの薄さに例えられるくらいだ。もしかしたら次はこんな都合よく仲直りできないかもしれない。
そんな女子の世界を、醜いと思う人は多い。特に男子は強くそう思う。
しかもなぜか女子たちはこの仲良しごっこを決して辞めない。あえて辞めないのか、ただ辞められないだけなのか、それはわからない。
本当に、女子の世界は怖い。とても怖い。怖すぎる。
けれど、そういう世界があったって、いいのではないだろうか。
だって、怖いものってのはなぜか不思議と、見てみたくなるものでもあるのだから――――。
了
前作で登場させられなかったけどネタは残ってた県で女子版でも書こうかと思っていたら、何か最終的に都道府県ほぼ関係なくなっちゃいました。
いつのまにかメインテーマが『ガールズトークとはいかに』みたいな感じに……。
まぁ、女性の方からしたら「いやガールズトークも女子同士の雰囲気もこんな酷くないから」と思われるかもしれませんが、そこはフィクションということでご了承ください。
女子の会話って男は耳を塞ぎたくなるような話をしていると思うのですが、それはそれで聞いてみたくもなる不思議な空間だと感じます。
まさに〝怖いもの見たさ〟というものなのでしょうか。聞いたら絶対後悔するのを分かっているのについ聞いてしまう感じとか怪談話にそっくり。
つまりガールズトークとはホラーです。ガールズトークを聞いた後は夜中に一人でトイレに行けなくなったり、お風呂で頭洗ってると背後に気配を感じるようになること請け合い。この小説もジャンルはコメディじゃなくてホラーにするべきだった。笑
ともあれ、楽しんでもらえたら幸いです。