第十七話 友人
「はい、蓮司さん。剥けましたよ」
そう言って差し出された小皿をベッドから起き上がって受け取ると、その上には綺麗に皮が剥かれたリンゴが等分に切り分けられて並べられている。
リンゴの皮を剥いてくれた阿弥を見ると、どうだと言わんばかりの笑顔がなんとも微笑ましい。以前の不器用さを知っているだけに、その感情はひとしおだ。まあ、旅の間の手料理で、料理の腕の上達具合は知っていたつもりだが。こうやって看病されるというのも、中々に新鮮だ。
「ありがとうな」
「どういたしまして」
そして、その声も平時よりも僅かに上擦っており、ベッドの脇に座る少女が上機嫌である事を教えてくれる。
そんなに怪我人の相手が楽しいかね。そう内心で独り言ちて、リンゴを手に取ろうとすると、右の二の腕に鋭利な刃物で切られたかのような痛みを感じ、ベッドの上に皿を置いて左手でリンゴを取る。
グリフィンを討伐して三日、いまだに右腕の痛みは引かない。それは身体の節々も同じで、トイレに行くのにも助けてもらう有様だ。
自分が虚弱体質だとは思わない。ただ、空から落ちて木の枝に叩き付けられたのだ。これの状態が当たり前だと思う。これで魔力があれば回復の奇跡やら肉体の新陳代謝を高めたりやらして回復を早める事が出来るのだろうが。
魔力が無い。そして、傍に弥生ちゃんが居ない。そうなると、俺は傷が癒えるまで何も出来なくなってしまう。……こういう所が、足手纏いうというか、弱いと思ってしまう一因でもあるのだろう。
「うん。美味い」
そんな考えなど表情に出さず、リンゴを一口齧って感想を口にする。
『……果物は店売りの物なのだから、味など変わらないだろうに』
すると、枕元に置かれたメダルがぼそりと呟いた。
「芯が残っていないからな」
「蓮司さん?」
その笑顔には目に見える変化は無いのだが、その声は先ほどの上機嫌な時よりも1オクターブほど下がったように感じられた。残ったリンゴを口へ放り込むようにして一気に食べて咀嚼する事で阿弥への返事をはぐらかしながら、視線をテーブルでチェスを指しているフェイロナとソルネアへ向ける。
そのソルネアの後ろにはフランシェスカ嬢が控えていて、今はソルネアが駒を動かす度に色々と教えているようだ。フランシェスカを取られてしまったムルルは、眠たそうに目を擦りながら窓の桟に腰を下ろしてメルディオレの街並みを見下ろしている。コイツの事だから落ちないだろうから見ていて不安は無いが、椅子に座ってくれると安心ではある。……何度言っても、退屈だからと言うのだが。
なんとも平和な光景である。そんな連中が居る部屋の中に、俺のような傷だらけで包帯まみれの男が居なければ。これで顔まで包帯を巻いていたら、完全にミイラ男である。
……この世界にミイラ男という魔物は存在しないが。
「おい、ムルル。リンゴは食うか?」
「うん」
小皿をムルルの方へ差し出すと、残ったリンゴのうち一番大きく切り分けられた物を取って、一口で一気に食べてしまった。
ちゃっかりした奴だ、と思いながら頬を膨らませて食べるムルルへ半眼を向ける。
「行儀が悪いぞ」
「大丈夫。レンジしか見ていない」
『そういう問題でも無いと思うのだが』
「……エルメンヒルデとアヤも見ていた」
やはり眠そうなのんびりとした声音でそう言うと、視線を再度窓の外へ向けるムルル。尻尾がゆっくりと大きく揺れているのは、リンゴを食べた嬉しさからか、それとも大口を開けたところを見られた恥ずかしさからか。
どちらにしても、先ほどの言い方だと俺に見られるより二人に見られる方が恥ずかしいように取れてしまうのだが。……女の子として何か間違っているように思えてしまうのだが、俺は間違っていないはずだ。
「阿弥も食べたらどうだ?」
「はい。では、一つ」
そういう阿弥は、自分で切り分けたリンゴを一つ指で摘まむとその三分の一程を口を小さく開けて食べた。俺が見ている事に気付くと顔を慌てて背けるが、これが女の子の自然な反応だろうと思う。
そうやって、どれくらいの時間を過ごしただろうか。フェイロナとソルネアの勝負が終わったのか、チェスの駒を片付け始めるとムルルも活動し始める。
ここ数日は、ずっとこうだ。
朝からこの部屋でチェスを指して、阿弥かフランシェスカ嬢が俺の相手をしてくれる。チェスが一段落すると、今度はギルドへ顔を出して夕方まで仕事をする。
まるで、この商業都市に居を構えている冒険者のような行動だ。
「では、蓮司さん。私達は少し出てきますけど……」
「ああ、行ってこい。無茶をして、怪我をしないようにな」
「レンジほど、無茶もしないさ」
「違いない」
フェイロナの言葉に肩を竦めると、右腕に鋭い痛みを感じてしまう。何とも情けない事である。
そんな僅かな所作にある違和感に気付いたのか、フェイロナが呆れたように溜息を吐いた。痛いと分かっていても、日頃の癖のような動作はやってしまうものなのだ。
「エルメンヒルデ様、ソルネアさん。レンジ様をよろしくお願いします?」
「分かっています。フランシェスカ」
「……そこまで信用が無いと、悲しくなってくるな」
『レンジだからな』
「そうまで心配してもらえて、俺は幸せ者だな」
リンゴを手に取り、齧りながら言うと皆に笑われた。今更ギルドの仕事程度で緊張するとは思わないが、ほどよく肩の力が抜けているようだ。
そうやってみんなを見送ると、途端に部屋の中は静かになってしまう。寝たきりの俺は話題のような物を持たないし、それはエルメンヒルデも同様だ。ソルネアは自分から喋る性格ではない。
すると、開けた窓から入り込んだ風がカーテンを揺らす様子を楽しむくらいしかやる事が無い。つまり、退屈なわけだ。
「怪我は、大丈夫ですか?」
「ああ、問題無い。後十日すれば、いつも通り動けるだろうよ」
昨日と同じような事を言って、ソルネアを安心させる。俺がベッドの住人になってから、毎日聞いてくることだ。
実際は、十日もあればある程度回復するとは思うが、今までのように動けるかというと疑問が残る。こうやって何もしないという事は筋肉が弱くなるという事だし、弱くなった筋肉を鍛え直す時間も必要になるだろう。
傷の方もだ。傷薬のような物はあれど、治療には神官連中が仕える回復の奇跡で事足りる。そうなると、医療技術は発達しない。俺達の世界における外科手術のように肉体を切って傷を確かめるより、手を患部に当てて魔力を送り込んだ方が痛みもないし治りも早い。ただそうなると、俺のように魔力が無い人間は奇跡の恩恵を受けられず、こうやってベッドの上で傷が治るのを待つだけしかできない。
俺にとって回復の奇跡とは、僅かばかりの痛み止め程度の効果しかないのだ。これが弥生ちゃんなら、少し時間はかかるが治してもらえるのだが。流石に怪我をしたからと魔術都市から商業都市まで来てもらうのもどうかと思う。阿弥はそれでも来てくれると言ってくれたが、おそらく来てもらう間にある程度回復するだろう……と思う。
というか、移動だけで半月は掛かってしまうのだ。移動手段が馬や馬車なのだから、仕方がないと言えばそれまでだが。車が欲しいね。それか電車か。まあ、排気ガスやらで自然が穢されるので、大反対されるだろうが。勿論、俺も大反対するだろうけど。
「すまないな」
「なにがでしょうか?」
「チェスだよ。しばらく、指せそうにない」
俺がそう言うと、相変わらずの無表情だが、少し不思議そうな瞳でこちらを見返してくる。
右腕はまともに動かせず、左腕も酷い打撲で持ち上げる事すら困難だ。身体の方も同様に、打撲やら内臓へのダメージやらで、ここ数日はまともに食事もとれない有様だった。
食事は具が無くなるまで煮込まれたシチューばかり。飽きるというよりも、食べた気がしない。先ほど阿弥が用意してくれたリンゴのような果物が、今の俺に食べられる数少ない固形物なのである。
……怪我なんてするモノじゃないな。これからは、もっと自分を大切にしようと強く思う。まあ、今回のように空から落ちるだなんて予想もしていなかったが。
「気にしていません」
しばらくの間を置いて、ソルネアが返事をする。やはり平坦な声ではあるが、返事をするまでに少し間があったのは、ソルネア本人も気付いていない何かしらの感情があるからかもしれない。
「こうして生きているのなら、傷が癒えてから指せばいいだけです」
「そりゃあ、そうだ」
そしてまた肩を竦めようとして、鋭い痛みに呻いてしまう。
「レンジ。貴方が生きている。……それでいい」
『だ、そうだが?』
「死に掛けたがね」
空から落ちた時、ムルルが俺を拾ってくれなかったらどうなっていた事か。
まあ、間違いなくこうやって喋っていることは出来なかっただろう。それは喋れないほどの大怪我を負うという事か、それとももう二度と喋れなくなったのか。どちらにしても、今更ながら恐ろしい事をしたものだ。
これだから、魔物討伐は怖くて恐ろしい。できれば、そういう危険の無い日常の中で、のんびりと生きていきたいものだ。
「ですが、死にませんでした」
「運が良かっただけさ」
それに、と。
「約束しただろう? 俺は、約束だけは守る主義なんでね」
『約束だけか?』
「約束だけさ。それ以外にまで手を伸ばすと、きっと約束まで守れなくなる」
くあ、と欠伸をするのとエルメンヒルデが溜息を吐くのは同時。これだけの大怪我でも関係が変わらない俺達は、きっと最高の相棒なのだろうと自画自賛してみる。口には出さないが。
口に出そうものなら、相棒から大目玉を食らうのは間違いないという確信がある。
「なるほど」
「ん?」
そうやってエルメンヒルデと言葉遊びをしていると、ソルネアがこちらをじぃっと見ていた。何やら得心しているように見えなくもない。
「どうした?」
「いえ。約束があれば、レンジは死なないのですか?」
「……いきなり不吉だな」
まあ、ソルネアに回りくどい言い方を望むのも酷なのだろうが。直球過ぎて俺でも返事に困ってしまう。
そんな俺の反応に、エルメンヒルデがわざとらしくクスクスと笑っているのが気になるが。
「でしたら。約束を」
『何の話だ?』
「死なないと。そう約束を、レンジ」
静かな声。感情の起伏が感じられない平坦な声。だというのに耳に残る美しい声音。
聞き慣れた声のはずなのに、その言葉はいつも以上に耳に――頭の奥に届いた気がする。
「約束するまでもないだろ。俺は、死ぬつもりは無いよ」
軽く答え、リンゴを一齧り。程良い酸味を美味しく感じながら、残った半分も一気に口へ含む。
シャクシャクと音を立てて咀嚼しながら、ソルネアとの約束から気を逸らす。ズルいやり方だと自分でも思う。何も知らない、記憶すら無いソルネアへする態度ではないだろう。
そんな俺の行動をどう思っているのか、やはり感情の浮かばない無表情で、ソルネアはじぃっと俺を見ている。
「どうした。いきなりそんな事を言い出して」
「そうでしょうか?」
『まあ、確かにいきなりだな』
会話に何の脈絡も無い。いつもの事だと言えばそれまでだが、あまり驚かない俺も随分とソルネアとの会話になれたものだと思う。
その事に気付いているのかいないのか。取り敢えず、気にしていないソルネアはこちらを見返してくるだけである。
「約束しなくても、ちゃんとお前をアーベンエルム大陸まで連れて行くさ」
「それは心配していません」
「……そうなのか?」
「貴方の強さは知っています」
『ふむ』
そう断言されても困るのだが。取り敢えず、グリフィンを相手にしただけで死に掛けているという事を直視してほしい。
あと、どうしてそこでエルメンヒルデが嬉しそうな声を出すのか理解できない。お前こそ、俺がグリフィンを相手にして死に掛けた事を一番近くで見ていただろうに。
もう、ツッコミを入れる気力も無いが。
「そういえば。お前は初めて会った時から、俺は負けないとか、勝つとか言っていたな」
「はい」
「どうしてそこまで断言できる? 言っちゃ悪いが、俺はそこまで強くないだろ」
自分で言うのも情けないが、並以上の冒険者にも勝てるとは思わない。魔物だって、複数のゴブリンに囲まれただけでも死の危険を感じるほどだ。
そんな俺を、どうしてか始めた会った頃――王都に居た頃も、ソルネアは強いだのなんだのと持ち上げていた。
その事を思い出し、不思議に思いながら聞き返してみる。記憶が戻ったという訳でもないだろうが、何か思う所があるのかもしれない。
「分かりません」
『……あれだけ断言して、またそれか』
「ただ。私は貴方達の力を知っている」
アストラエラはソルネアが以前討伐した魔神の眷属の生まれ変わりだと言っていた。
その記憶が残っているのだろうか。……俺に殺された記憶が。
だとしたら、あまりいいイメージは無いのでは、と思うが。誰だって、自分を殺した相手に良い印象など抱かないだろう。そうなると、ソルネアの俺に対する印象や感情はどこから来ているのか。
そう考えていると、部屋のドアがノックされた。
「ん?」
そして、こちらの返事を待たずにドアが開かれる。
現れたのは、暑苦しい笑顔のドワーフ、ダグラムと白髪褐色肌の青年、江野宮雄一郎だ。
「……せめて、こっちが返事をするまで待てよ」
ノックの意味が無いと思うのは俺だけだろうか。そんな俺の視線に雄一郎は引き攣った笑顔を浮かべ、ダグラムは悪びれもせずガハハと笑う。
まったく。
『二人揃って、どうした?』
「見舞いだよ。怪我をした友人のな」
「そりゃあ、ありがたい。退屈で死にそうだったんだ」
「グリフィンと一緒に空から落ちて死ななかった癖に。情けないぞ、レンジ」
そう言って、両手に抱えるように持っていた皮袋をテーブルの上へ放ると、そのまま椅子へ腰を下ろすダグラム。相変わらず神経が図太いヤツである。まあ、ドワーフの殆どはこんな感じなのだが。
そのダグラムへ続くように部屋へ入ってきた雄一郎は、一言断ってから椅子へ座る。
「それは?」
「果物だ。ユウが言うには、見舞いには果物なのだろう?」
それにしては、とテーブルの上へ置かれた皮袋へ視線を向ける。いくら小柄とはいえドワーフが両手で抱えるほどの量なのだが、この暑苦しい友人は一体どれだけの果物を俺に食わせる気なのだろうか。
中身を考えるだけで、胸焼けをしそうだ。
「ありがとう。後でゆっくり食べるよ」
「怪我をした時は、沢山食って沢山寝るに限るからな」
相変わらずの熱血理論である。まあ、あながち間違いでもないのだろうが。
「そうなのですか?」
「おう。沢山食べさせてやってくれよ、お嬢ちゃん」
「お前は俺を太らせる気か……」
「太ったら動けばいいだろうが。大体お前は細すぎる。もっと筋肉を付けろ、なんだその腕は」
「……筋肉が付きにくい体質なんだよ」
俺と自分の腕の太さを頭の中で比べているであろうダグラムへ聞こえないように呟き、溜息を一つ。
俺だって筋肉が欲しいよ。その方が体は頑丈になるし、力も強くなる。俺は打たれ弱くて、体力も無い。何度、その事を嘆いた事か。
それを知っているであろうダグラムだからこその見舞いの品なのかもしれない。そう思うと、胸の奥が温かくなった。
しかし、ソルネアに変な事を教えないでほしいのだが。こいつ、聞いた事は片っ端から試しそうな気がするし。
「それで、山田さん。怪我の調子はどうですか?」
「見ての通りだよ」
『しばらくは動けそうにない。まったく、グリフィン如きに……嘆かわしい』
「とまあ、そんな調子だ」
俺の代わりにエルメンヒルデが応えると、雄一郎が苦笑した。それは、やけに理想が高い相棒に対する苦笑だろう。
グリフィン如き。確かに、英雄としての立場からするとその通りだろうと思う。イムネジア大陸では珍しいがエルフレイム大陸には普通に生息しているし、アーベンエルム大陸に至っては下級と言っても差し支えない実力の魔獣。
確かに、グリフィン程度にここまで苦戦していては、アーベンエルム大陸を踏破するなど夢のまた夢。いや、夢にも見れない幻想だろう。
「討伐する時、声を掛けてくれたら良かったのに」
「お前に何かあったら、セラウィさんに怒られそうだからな」
「また、変な事を気にして……」
「ばあか。気にしてなんかないさ」
そう軽く口にして、阿弥が切り分けてくれたリンゴの最後の一切れを口に含んで一気に咀嚼する。
「お前が居なくても、余裕で勝つつもりだったんだよ。たかがグリフィンだ。魔神と一対一で戦う事に比べたら、雑魚も良い所だ」
『ほう』
「ほうほう。大きく出たな、レンジ」
「余裕余裕。グリフィンだぞ、グリフィン。エルフレイム大陸に渡ったら、毎日のように相手をしなけりゃならないような魔獣だ。今回はちょっとばかし苦労したが、あれだけ長生きしたグリフィンが他に居るとも思えないしな。次はもう余裕だよ」
そう嘯く。雄一郎とダグラムは俺の実力を知っている。そんな俺がグリフィンと戦えばどうなるのかという事も気付いている。
それでも何も言ってこないのは、俺の言葉が虚勢でしかないにもかかわらず自信を持って口にしているからだろう。
自信など無い。戦うのは怖いし、こうやって怪我をして痛い目に遭うのも嫌だ。それでも、だ。
「……だから、心配しなくていい。気にせず、お前はセラウィさんと幸せになれ」
その一言に、言いたい事は全部乗せた。戦う事が嫌いだった。戦う力を望んだのに、戦う事が嫌いで、怖がりで、泣き虫だった。
それでも好きな人のために頑張って、その人を亡くして、それでも必死に前に進んだその姿を知っている。その背中を押してやる事は出来なかったけど、隣に立って戦う事は出来ていたと思う。
幸せになってほしいじゃないか。あの泣き虫で人見知りの激しかった子供が独り立ちしたのだから、邪魔をしたくないじゃないか。
雄一郎がポカンとした表情で俺を見る。その表情が面白くて声に出さないようにして笑うが、身体中の痛みに全身が引き攣った。それでも面白かったので、無理をしてでも笑ってやる。
俺がその一言にどんな感情を乗せたのか察したのだろう、ダグラムは皮の剥かれていないリンゴを豪快に齧りながら満面の笑顔で笑っている。勿論、豪快な声でだ。
……ちなみに、そのリンゴはダグラム達が買ってきた俺へのお見舞いの品なのではないだろうか。
まあ、気にしないようにしよう。うん。
『当たり前だ。私達が揃えば、何にだって勝てるのだから』
エルメンヒルデの軽口も、いつもより力強く聞こえる。きっと、俺の意図を汲んでくれているのだ。
そんな俺達の言葉を聞いたダグラムと雄一郎は一瞬だけぼう、とした表情になり、続けて肩を震わせながら笑う。
それでいい。笑ってくれ。それが一番嬉しい。怪我をしても、怖くても……。
「結婚式には呼んでくれよ?」
「気が早いですよっ!」
目標があれば頑張れる。目指すものがあるなら、前へ進める。
俺はそういう人間だ。誰かの為なら戦える。何かの為なら歩いて行ける。そして――目標も、目指すものも無いなら腐ってしまう。そういう人間なのだと思う。
「楽しそうですね」
そんな俺を見て、ソルネアが呟いた。
いつもは無表情とも言える顔が僅かに綻んでいるように見えるのは、きっと俺の気の所為なのだと思うが。




