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第二話 英雄と魔術師の町2

 鬱蒼(うっそう)と生い茂る森を一歩出ると、まるで世界が変わったかのように青空が視界に広がる。

 太陽が眩しくて、手で(まぶた)を隠し、目を細める。その俺の仕草が可笑しかったのか、一緒に依頼をこなした美青年が頬を緩める。

 たったそれだけなのに、その笑顔にも太陽と同じような眩しさを感じてしまう。これが美青年(イケメン)か、と内心で溜息を吐いてしまうのは(ひが)みだろうか。

 それでも同性だというのに、綺麗とすら思ってしまう。


「森の案内、助かった。また何かあったら、よろしく頼む」

「何、こちらも森を大切にする人間が居る事が判って良かった」


 流れるような金糸の髪に翡翠の宝石が嵌め込まれた簡素な(サークレット)

 風が僅かに吹く度にその金糸が風に攫われて、まるで黄金が視界一杯に広がったかのように錯覚してしまう。

 金髪碧眼。整った容姿に高い身長。全体的に翠で統一された服装に、森に紛れる為の深い古木色の外套(マント)

 そして何より目立つのは、人間には無い尖った耳。

 エルフ。精霊の民と呼ばれる、森の守り手。人間嫌いで有名なエルフが、俺の前で微笑んでいた。

 男なのに、少し胸が高鳴りそうな素敵な笑顔である。俺は普通に女の子の方が好きだが。


「森を大切に、のなんたるかは判らんがね。俺なりに、森を傷付けたくないだけだ」

「それで十分だ。人間やドワーフどもは、必要以上に森を切り開くのだが、貴方は少し違うようだ」

「さて、どうかね。俺もただの人間と変わらんと思うがな」


 そう肩を竦める。

 人間嫌いのエルフ。それが世間一般の意見だろう。俺もそう思う。事実、依頼を受けた最初の頃は殆ど会話らしい会話は無かった。

 エルフが何故人間を嫌うのか、というのには諸説があるが、俺は必要以上に森を切り開くからだと思う。

 森を傷付けなくても広大な草原は何処にでもある。イムネジア大陸の人口なら、住む場所に困る事は無い。

 だと言うのに、人間は森を切り開き、自分達の領地を広げる。

 動物は住処を追われ、生態系は崩れ、その怨嗟(えんさ)は魔物を生む。澄んだ森を、歪んだ領域へと変えてしまう。狂った森は、魔物の住処となってしまう。魔の住処は更なる魔物を呼び、弱い魔物は強い魔物の餌となる。そうしてさらに強力で強大な魔物が産まれてしまう。

 それがエルフの言い分だ。人間やドワーフが、魔物を生み出す根幹(こんかん)となっている、と。

 人間の言い分としては、木は家を建てる材料になるし、火を起こす燃料になるし、家具などの日用品に使える便利な素材だ。

 製鉄技術は高いが、それを生かす火は木から起こされる。科学燃料などこの異世界にはありはしない。

 木とは人間の生活には無くてはならないモノなのだ。

 それが人間の言い分。

 どちらも正論と言えるだろう。だからこそ、今まで人間とエルフはある一定の距離以上はお互いに不可侵としてきた。

 その溝は、俺にはどうしようもないし、どうこうしようとも思わない。人間とエルフ。種族間の関係の修復は王族の仕事だ。


「だがまぁ、個人として仲良くしてもらえるなら助かる」

「それこそどうだろうな。私も、人間はあまり好かんのでな」

「それでいいさ」


 人付き合いにはコツがある。

 嫌われている相手に心を許してもらうにはどうすればいいか。正解は無いのかもしれないが、全部が間違いとも言えない。

 俺の場合は、山田蓮司という個人に興味を持ってもらう事だと思っている。

 人間とエルフ。お互いがお互いを悪く言うのは、きっと互いの事を何も知らないからだ。

 実際、俺はこのエルフの事を(ほとん)ど知らない。書物で読み、他者から又聞きした程度の知識だ。

 エルフは森の民と呼ばれ、自然を大切にする。

 それは書物に書かれていた事で、事実とは異なるのかもしれない。だが森の民と呼ばれるほどだ、森に人間以上の興味と愛情を持っているのだとは判る。

 例えば森の歩き方。何が正しいのかは判らないが、とにかく緑や木の根っこを踏まないように気を付けた。

 なるだけ剥き出しの地面や雑草を踏むようにした。

 例えば魔物(ゴブリン)の倒し方。自然を血で汚さないように、鉄のナイフではなく徒手空拳、しかも暴れられないように不意打ちから首を極めて落した。

 死体は時間が経てば大地に還るし、森の獣の餌になる。だがゴブリンのような魔物が装備している鉄製の武具は違う。

 そう言うのはなるだけ回収した。まぁ、コレは町に戻ったら売るつもりだが。貴重な収入源である。

 エルメンヒルデから『追剥ぎ』だのなんだの言われたが、金の為だ。

 そこまで行くと、エルフの方も俺に興味を持ってきた。何をしているのか、と。

 まぁエルフから見ると、俺の行動は奇行に写ったようだが。……誰が見ても奇行だっただろうが。エルメンヒルデが何度溜息を吐いた事か。

 そこで興味を持たれ、俺の行動理由を説明し、エルフの価値観に興味を持っていると説明した。

 こちらが興味を抱いている事を告げると、相手もこちらに大なり小なりの興味を持つものだ。


「お前のように森を大事にしてくれる人間がもっと増えてくれると嬉しいのだが」

「俺もだ。自然は大切にしたい」


 そして、相手が大切に想っている物を悪く言わない事。

 エルフなら自然であり、ドワーフなら大地であり、鍛冶である。

 誰だって、自分が大切にしているものを悪く言われれば気分が良くない。その辺りをキチンと守れば、それなりの好意は持ってもらえるものだ。

 人付き合いの始まりなんて、そんなものだ。

 こちらから歩み寄る事。こちらから話しかける事。こちらから手を伸ばす事。当たり前の事だ。


「ではな、ニンゲン。縁があったなら、また仕事を共にしよう」

「ああ。その時はまたよろしく頼む」


 そう言うと、深い森の奥へと帰っていくエルフの美青年。

 彼の目的は森に住みついたゴブリンの討伐。

 俺の依頼は、森の奥にある錬金術用の素材の採取。

 ゴブリン討伐と錬金術素材の採取。二つの依頼を同時にこなして、今日の稼ぎは上々だ。

 気分も良くなる。エルフが完全に視界から消えたのを確認して、息を一つ吐いた。


『気を使うくらいなら、不干渉を決め込めばよかろうに』

「それこそ疲れるだろ。会話が無い道中なんて地獄だ」

『レンジには私が居るだろう?』

「人前でお前と話してたら、ただの痛い奴だ」

『…………むぅ』


 そう言うと、何も言わなくなってしまう。


「お前と喋るのは楽しいんだがな。流石に白い目で見られちゃ敵わん」

『私の声を全員に聞こえるようにすることも――』

「やだよ。目立ちたくないし、面倒臭い」

『それが本音か……』


 背負った袋には依頼された霊草と、ゴブリン達の死体から回収した鉄製の武具。

 ポケットの中には討伐証明となる魔物の牙がいくつかある。

 さて、いくらぐらいの稼ぎになるだろうか? 鉄の武具はそれなりの重さだが、そう考えるとこれから楽しみだ。






「やっぱ都会だと、稼ぎが良いな」

『……なんでだろうな。泣けてくるんだが』


 まだゴブリンからの追剥ぎの事を気にしているようだ。エルメンヒルデの声を聞こえないフリをしながらギルドに備え付けの椅子に座り、依頼が書かれているメモ帳を捲る。

 本日の報酬は合計で銅貨35枚。田舎ギルドの仕事では考えられない額である。都会は良いな、本当に。

 まぁ、魔物討伐なんてすれば、一日金貨一枚とか稼げるんだが。疲れるからしないけど。

 そう考えると、本当に冒険者というのは儲けが美味い仕事である。命の危険がすぐ身近にあるのに、冒険者という職業が無くならないのも頷ける。


「この調子で、しばらくここで稼ぎたいな」

『私は、出来ればもっと魔物を斬りたい』


 物騒すぎるぞ、俺の相棒。ポケットの上からエルメンヒルデを軽く叩き、メモ帳をもう一枚めくる。

 探しているのは報酬の良い素材探し。

 魔術都市というだけあって魔術の実験に使う素材採取が目立つが、そういうのは総じて危険度が高い。薬草とかだと簡単なんだがなぁ、と一つ溜息を吐く。

 魔術実験に使う素材は、魔力を多く含んだ素材が使われる。しかも、ただ多いだけではなく、純度やらなにやらも大事らしい。その辺りはあまり詳しくない。

 そもそも、錬金術や現代の科学やら、実験というのは苦手なのだ。机に向かってフラスコ片手に難しい事を考えるよりも、身体を動かす方が良い。だが、脳筋ではないと思う。思いたい。

 ちなみに、俺が先ほど採取してきた素材が霊草と呼ばれるものである。

 素材一つでも、そこらの(くさむら)に生えている傷薬にしか使えないような薬草ではなく、煎じて飲めば魔力の回復が出来るような霊草が錬金術の素材には求められる。

 そういうものは、霊験あらたかというか、霊場――所謂(いわゆる)パワースポットに群生している。

 確かに稼ぎは良いが、そういう場所の魔物は強い。そんな薬草を食べているからか、それともパワースポットというだけあって何かしらの効果があるのか。

 タフで力が強い。偶に大きい個体まで居る事がある。ただのゴブリンだってゲーム用語を使うならレベルが違ってくる。

 報酬が高いのも当然の事だ。だから俺は、報酬が高くて、それなりに安全な依頼を探すのだ。


「どれを受けるかなぁ」

『選り好みをしないなら、どんな仕事でも問題無いだろうに』


 迷っていると、頭にエルメンヒルデの声が響く。

 そんなわけあるか、と心中で反論する。それなりに戦える自信はあるが、結局それなりだ。危険な仕事は命の危機が付きまとう。残念ながら、俺はその危機を乗り越えられるほど強くない。

 どうにも俺の周りの連中は、俺も勇者達と同じように戦えると思っているから困る。

 魔神討伐の旅で何度死に掛けた事か。思い出すだけでもうこりごりだ、と思う。

 危険な魔物討伐みたいなのは勇者(主人公)のやる事だ。そして残念ながら、俺は主人公ではない。だからどれだけエルメンヒルデに催促されようが、肩を竦めてやる事しかできない。


「お、これなんかいいな」


 見つけたのは先ほどと同じ、森の奥から霊草を採取してくるという依頼。

 報酬も悪くない。またエルフに頼んで森を案内してもらおうか、と考える。


『楽したがりめ』

「危険なのは怖いんでね」

『ふん』


 拗ねてしまったエルメンヒルデを取出し、指でメダルの(ふち)を撫でる。

 俺としては、お前にも武器として以外の生き方も見つけてほしいのだが。そう苦笑するが、相棒には伝わらなかったようで拗ねて返事もしてこない。

 折角意志を持っているのに武器としてしか生きられないなんて。そう思うのは、変な事だろうか?

 ……エルメンヒルデにそんな事を言えば怒られるのだが。

 でもやっぱり、俺はエルメンヒルデを武器としてではなく相棒として見たいのだ。


「安全に稼ぐのが一番だと思うがねぇ」


 魔術都市の近くには魔力の森と呼ばれる古い森がある。俺が先ほど、エルフの美青年と一緒に行った場所だ。

 木々が生い茂り、その名の通り魔力が溢れる場所。魔術用の素材は沢山採れるが、その分魔物の脅威度も高い。

 永く生きた植物が生命を得た木の魔物(トレント)やマンドラゴラが有名というか一般的か。

 マンドラゴラ――俺達の世界ではマンドレイクとも言われる薬草の一種。

 こちらの世界だと薬草のような葉っぱが頭にあり、ファンタジー世界よろしく足が生えた人参のようなもので、引っこ抜くと走って逃げる。

 悲鳴を聞くと死ぬと言われているが、そんな事は無い。ただ五月蠅くて魔物を呼び寄せるが。

 初めて抜く時は結構勇気を必要としたのを覚えている。ガイドのエルフ青年に笑われる始末だ。だが恥ずかしさは無い。最初なんてみんな同じようなものだと思ってる。


「マンドラゴラ、アルラウネ……面倒な素材採取しかないな」

『――魔術都市だからな。錬金術の材料にでもするんじゃないのか?』


 ブスッとした声だが、ようやく話し掛けてきてくれたので、もう一度メダルの(ふち)を撫でてやる。返事は無い。どうやらまだご機嫌斜めのようだ。


「もう少し安全な仕事は無いもんかね」


 傷薬や病気に効くような薬草の採取もあるが、これはどこも安い。旅の途中の片手間にも集められるので、戦争でも起きない限り困る事が無いのだ。

 しかし、マンドラゴラの葉に種、根っこ。他にも魔術や錬金術に使う材料は採取できる場所も限られるし、実験なんて戦時じゃなくても行われる。それこそ、平時だからこそ必要とされる実験もあるだろう。

 ……やはりこんなに大きな都市だと、依頼の危険度も総じて高い。

 どうするかなぁ、と。エルメンヒルデ》を、指で弾く。出たのは裏。その事実にはぁ、と溜息を吐いてしまう。


「今日は止めとくか」

『仕事をしないかっ』

「一人だと危ないしなぁ」

『冒険者の仕事に危険じゃない仕事など無いだろうに』


 ごもっとも、と肩を竦める。

 だが一人だと危ないというのは事実だ。複数の魔物相手なら後れを取るし、なにより俺には森の土地勘が無い。エルフやレンジャーでも雇わなければ、道に迷った時に帰って来れる自信が無い。

 一応地理は頭に入っているが、森で遭難して人生終了というのは出来れば勘弁してほしい。

 そう思いながら、メモ帳を捲る。


「お」

『ん?』


 薬草採集。報酬もそこそこ良い。

 内容は、依頼主と一緒に魔力の森の入口まで行って薬草を集める、というものだ。

 素材を集めるのが面倒だからギルドに依頼するのに、一緒に行くだなんて物好きだなぁ、と。

 それくらいなら別に良いか、と依頼主を確認する。


「…………」

『どうした? いきなり黙って』


 依頼主。アヤ・フヨウ。

 思いっきり知ってる名前だった。メモ帳をそっと閉じる。


「……依頼主、阿弥だった」

『…………ぷっ』


 笑うなよ、コンチクショウ。

 どうしてか、阿弥には俺がこの町に居るって気付かれてるんだよな。多分、フランシェスカ嬢が話したんだろうけど。

 黙っているようにとも言っていないので、同じ『神殺し』として俺の事を話題にでも出したのだろう。

 その事を別に悪いとは思わないし、こうやって依頼という形で俺に接触してくるという事は、そう悪くも思われていないのかもしれない。


「しっかしあいつも、変な所は抜けてるなぁ」


 依頼なんてして、気付かれなかったらどうするつもりなんだろうか。

 名指しで指名でもすればいいだろうに。それはそれで、俺が困るけど。目立ちたくないし。


『本当に、よくレンジに似ているな』

「……俺はそこまで抜けてないだろ」


 多分、と口の中で呟く。

 エルメンヒルデから溜息を吐かれたが、聞こえなかったフリをする。

 阿弥。芙蓉阿弥。

 一緒に魔神討伐の旅をした、神殺しの一人。

 大魔導師とか大層な名前で呼ばれている穴掘り系魔導師第一号。第二号はフランシェスカ嬢……だと思う。

 落とし穴は便利なので、ぜひ普及させてほしい。


「結構高い報酬額を付けてるな。相場の倍だぞ」

『それだけ、お前と一緒に仕事がしたいんだろ』


 どうしてか、エルメンヒルデから呆れられた。

 俺が悪いんだろうか? 何かした覚えも、言った覚えもないのだが。

 釈然としないままメモ帳を破って、ポケットへ捻じ込む。

 依頼内容は薬草採取。報酬は銅貨十枚。薬草採取の相場としては、倍近い報酬額である。

 その事に、溜息を吐いてしまう。


「あいつ、相変わらず金の相場とか知らないんだろうな……」


 高い物は高いまま、値切るという事もしないのだ。商人からしたらいいカモだろう。

 普通の薬草採取なら、報酬は銅貨五枚程度だ。依頼を出すなら、せめて銅貨七枚程度にしておいた方が良い。

 俺の目に届く前に依頼を他人に取られるぞ。

 まぁ、これで俺目的の依頼じゃなかったら赤っ恥どころの話ではないのだが。


『金の相場など、レンジも知らんだろうが』

「そんな事は無い」

精霊銀(ミスリル)の剣を二束三文で売った男の言葉ではなぁ……』

「金に困ってたんだ。アレはアレで良いんだよ。うん」

『……はぁ』


 大体、精霊銀(ミスリル)の剣なんて俺には必要無いし。宝の持ち腐れという言葉すら勿体無いレベルなのは事実だ。

 俺の剣の腕なんて、一般兵士より少し上程度だろう。もしかしたらもう少し上か、もう少し下かもしれないが。


「それより阿弥の依頼だ。阿弥の」

『そうだな。阿弥の依頼だな。阿弥の』


 すっごい呆れた声だった。聞き慣れてはいるが、少し胸が痛い。


「どうするかなぁ」

『受けないのか?』

「いんや、受ける」


 学院が終わった時間とかギルドに顔を出してるみたいで、こうやって俺が受けそうな依頼をいくつか用意しているのだ。可愛いじゃないか。これで俺目当てじゃなかったら死ねるが。恥ずかしくて。

 ただ、思うのだ。


「けど。明日になったら、もっと報酬額は上がるんだろうか?」

『……穴に落されるどころか、燃やされるか雷を落とされても文句は言えんぞ』


 そこまでされるのか、俺。

 本気でエルメンヒルデの声が心配しているようで、少し背筋が冷えた気がした。

 確かに阿弥は沸点が低い。いつも宗一に怒っていたというか、宗一を叩いていた。

 幼馴染みのスキンシップと言えばそれまでだが、そこに魔術が加われば話は別である。本気で穴に落されるどころか、雷を落とす事も出来るのだ。

 男連中全員で風呂を覗きに行った時は、落とされた。燃やされなかっただけでも御の字である。俺だけは、宇多野さんから特別に怒られたが。

 年長というのは大変なのだ。でも思う。女湯があったら覗かないといけないって。

 殺伐とした異世界生活なんだから、少しくらいハメを外してもいいと思う。心の洗濯とか、そんな感じで。


『また変な事を考えているな』

「……お前はエスパーか」


 一つ、溜息を吐く。


「ま、取り敢えず阿弥の依頼は保留だな」


 どこまで報酬額が上がるか見てみたいのだ。まぁ、報酬を貰うつもりは無いが。

 子供から小遣いを貰う大人なんて格好悪いだろ。

 だから、ただの興味で阿弥の依頼を保留にする。取り敢えず、他の冒険者が受けないようにメモ帳だけは回収しておくが。


『阿弥なら案外、金貨くらいまでなら出しそうだがな』

「そこまで出されたら、宇多野さんに知られた時にまた説教だな」

『説教で済めばいいがな。その時になったら、私は誰かに預けておいてくれ』

「……一蓮托生だ、相棒」


 そう言い、ギルドを出る。

 さて、と伸びを一つ。小声だったが、エルメンヒルデに言葉を返しすぎて、周囲の視線が痛いのだ。ギルド内の人数は少なかったが、まったく居なかったわけではない。

 やってしまった、と落ち込んでしまう。


「もう少し稼いだら、さっさと王都へ行くか」

『その前に、ちゃんと阿弥達に会うんだぞ?』

「判ってるよ」


 相変わらず心配性な相棒を指で弾く。

 出たのは表。うん。


「大丈夫、会えるさ」


 まぁ、一年振りに会うので多少気まずいが。

 何を話せばいいのか、とか。どういう態度で接すればいいのか、とか。どんな会い方が良いだろうか、とか。

 そういう不安から、先延ばしにしたとも言えるのかもしれない。



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