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次の日、ウィラードとセレナが家に来た。セレナはデートの時に買ったワンピースを着ていた。
「セレナ様、また来たんですか?」
「はい。ウラド様にお会いしたくて。」
「ふふふ…そうなんですか。」
「ええ。」
二人がバトルして火花が散っている。とりあえず、二人とも放置しておこう。
「ウィラード、今日はどうしたんだ?」
「実は明後日に僕の妹の誕生日があるんだ。そこで王城でパーティーが開かれるんだけど、招待しようと思ってね。」
「セレナの誕生日か?」
「いや、次女の誕生日なんだ。」
「次女なんていたのか?」
「うん。三女もいるよ。」
「王族は女ばかりだな。」
「次の代はそうだね。それでどうかな?」
「人が多いのは苦手なんだが…」
「一応、来て、挨拶回りをしたら自由にして良いよ。」
「本人の兄がそんなことを言っても良いのか?」
「まぁ…僕も嫌だからね。」
ウィラードはパーティーが嫌いのようだ。あんな人混みのような場所が好きなやつなんてあんまりいないと思うが。それにもし、自分より上の立場の人には礼儀を尽くさないとダメだし、下の奴らには話しかけられ続けて、ライバルや政敵には腹の探り合いをしなければならない。今回は王女の誕生日だからいいが、これが自分の誕生日だと自分が主役の為、退出すらも出来ない。俺は誕生日は家族に祝ってもらってたからそういうことがなかったし、他のパーティーは全て、途中からサボってたから参加をあまり、していないのだ。
今回は王女の誕生日ということで、ブレイクス家も来るから出来れば、行きたくないのだ。
「なら、いつも通りサボるか。」
「いつも通りってどういうこと?」
「今までパーティーには行ったが参加をしたことが無い。」
「「「えつ?」」」
「周りの人たちは火属性だからシャドウウォークで逃げられるからな。」
「そういう問題じゃないよ…」
「どういう意味だ?」
「よく、参加をしないで入れたね。」
「まぁな。」
「なら、今回もそれで良いんじゃない?」
「義母さんしだいだけどな。これからはブレイクス家の人間ではなく、ニュクシオン家の人間だからな。」
「そう。」
「可能な限り、サボるけどな。」
「なら、私もサボります。」
「ルナはちゃんと、参加しろよ。」
「兄様が参加をするなら私も参加をします。」
「私はウラド様に出て欲しいです。」
「俺は八家のうちの半分を知らないからな。めんどくさいな。」
火、土、闇、光の人間は知ってるが、それ以外は面識がまるでないのだ。
「私が付いて説明をしますから大丈夫です。それにリウス兄様が次期当主に決まったので、今回の矛先はリウス兄様に向くと思います。」
「そうなら良いな。養子である俺に矛先が向いたら最悪の気分だ。」
「それでも多少は矛先が向くとは思いますけどね。」
「やっぱり、サボろう。」
「ダメですよ。」
「とりあえず、明後日はよろしくね。」
「ああ…わかった。」
「わかりました。」
「では、お茶でも飲みながら、話しましょうか。」
セレナが提案した。明らかに私欲が混ざっている。
「いや、その前にウラドと模擬戦をする。」
ウィラードが言ってきた。前回の負けから訓練をして来たようだ。
「まずは模擬戦をするか。」
そう言って訓練場に向かった。
「今回は勝たせてもらうよ。」
「俺は負けないぞ。」
「では、はじめ!!!」
審判の開始の合図で試合が始まった。
「メネシス、第一形態変化」
「イリア、第一形態変化」
ウラドの手には二つの手袋が、ウィラードの手には鎧と槍が出てきた。
「今回は初めから使うんだね。」
「作戦がバレてるなら、初めから前回でいかないとやられるからな。」
「光を収束しろ、ホーリーチャージ」
『ヤバくない?』
(ああ…)
ホーリーチャージは次の攻撃をチャージした分だけ、攻撃力を上げる。次の技で大きな魔法を当てられたら終わりということだ。おそらく、ウィラードは大技を使って確実に当て、大ダメージを与えるつもりらしい。
「闇の炎よ、敵を燃やし尽くせ…ダークフレア」
ダークフレアがウィラードに向かうが、鎧で防げるので避ける気配すらない。ウィラードは魔力強化で接近して来た。牽制をするが、全く意味をなしていない。こっちは魔力強化をして近寄られないようにしないと一撃でやられる。すると、ウィラードは無詠唱でホーリーチェインを発動した。他の属性なら、すぐに解除出来るが、光属性は解除に時間がかかる。
「くっ」
「終わりだ。ディバインバスター」
『ウラド、やるしかないわよ。』
(ああ…)
「メネシス、第二形態変化」
すると、体中から闇が溢れ出してきた。魔力強化で力づくで、ホーリーチェインを壊した。ディバインバスターを回避した。
「なっ⁉︎」
ウィラードも驚いたようでびっくりしている。まず、ホーリーチェインは壊せないはずで、動けたとしてもディバインバスターは避けられないタイミングだったはずだからだ。
「危なかったな…」
「それはなんだい?」
「これはメネシスの第二形態変化だ。」
「もう、第二形態変化が出来るのかい⁉︎」
「まぁな…話してる余裕はないから行くぞ。」
一瞬で、ウィラードの前に移動すると、手に魔力強化をして殴った。ウィラードは反応が出来ず、壁まで吹っ飛ばされた。
「まだだ、影よ、敵を貫け…シャドウランス」
第二形態変化の前の時のシャドウランスの二倍の大きさで二倍の速さをしていた。
メネシスの第二形態変化はメネシスが吸血鬼なので、俺の体もそれに似たような感じになるのだ。能力としては闇属性の魔法の効果が二倍になるが、光属性の攻撃でのダメージを食らうと大ダメージになる。もし負傷した場合は魔力を使えば、自然に回復することができる。身体能力を限界まで、上げる。あとは、血を吸えば、魔力と体力が回復する。
これがメネシスの第二形態変化の能力だ。第二形態変化は精霊と絆が深まれば、やることは可能だ。しかし、そこまでは果てしない時間が必要だが、俺は一人の時はずっと一緒にいるのがメネシスだったので、早かっただけだ。
「光よ、敵を貫け…ホーリーランス」
シャドウランスとホーリーランスが激突するとホーリーランスが砕け散った。それ程までにメネシス第二形態変化の効果はデカイのだ。
「ぐはっ」
「カオスソード」
手にカオスソードを出現させて、鎧ごと、斬った。
「ぐっ」
「そこまで!!!」
するとヒーラーがウィラードの近くに行って治療した。今回は第二形態変化が使えなかったら、完璧に負けていた。
(もし、ウィラードが第二形態変化を使えるようになったら、もう勝てないだろうな…)
『そうね。』
(今回は助かった。)
『どういたしまして。』
「やっぱり、ウラドは強いね。」
「今回は本当にヤバかった。ウィラードが第二形態変化を使えるようになったら、俺に勝ち目はほとんど無くなるだろう。」
「そうかな?」
「ああ…」
二人で話しているとルナとセレナが走って近づいてきた。
「兄様、お疲れ様です。」
「ウラド様、カッコ良かったです。」
キッ
ルナが隣にいるセレナを睨んでいる。セレナはすぐに思ったことを言う癖がある。まぁ…可愛いから許せるんだけどな。
「じゃあ、みんなで話でもするか。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
外は夕方だ。
「本当に憂鬱だ…」
誕生日のパーティーがやって来たのだ。ルナには俺に合う服をかなり着させられるし、義母さんは俺に礼儀を教えてくるし、ウィラードには参加者の名前と特徴を教えられて、セレナにはダンスを教わったのだ。精神的にも肉体的にも疲れた。まだ、本番があるというのに、練習で疲れてしまった。
「リウス兄様、しっかりしてください。」
リウスさんは次期当主になったため、結婚相手を探さなければならなくなった。もともと、恋愛などに全く興味が無いのでやる気が全くなく、覇気も感じられない。
「リウス、もし今日、ちゃんと結婚相手を探せたら、うちにある家宝の魔道具を研究に使っていいわよ。」
「母上、本当ですか⁉︎」
「ええ。その辺に置いておいても意味がないですし、良いですよ。」
「今日のパーティーは頑張ります。」
その瞬間、オーラが出始めた。人間はこんなに変われるのかという程、変化した。なんだかんだで、義母さんの子供なだけあって、カリスマ性は持ってるようだ。一応、研究室の部下には頼られているらしいからな。
「ウラドは気楽にやりなさい。」
「はい。」
「同世代の子がたくさんいるから結婚相手を探してもいいわよ。」
「それはダメです。」
ルナが義母さんに向かって反対した。ルナは普段、反論をしないが、この時は反論をした。
「はいはい。ごめんなさい。」
義母さんは笑っていた。弄りがいがあるということだ。絶対にわざと、やってる。
「馬車が来たので、お乗りください。」
王城から馬車が来た。各家に王城から馬車が来るのだ。王城はここから15分程で到着する。
(めんどくさいな…)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから十五分くらい経ち、王城を歩いていると、
「ルナ、ウラドはどこに行ったの?」
「えっ?」
「あら、あなたも知らないの?」
「はい。」
「ウラドならさっき、知らない女性に話しかけられてましたよ。おそらく、女性が結婚相手を探しているのでしょう。」
「なっ⁉︎」
「なら、しょうがないわね。先に行きますか。」
「ええ。」
「私は戻ります。」
「ダメよ。今から挨拶回りなんだから。」
「それだったらウラド兄様も…」
「ウラドはまだ、パーティーに慣れてないから挨拶回りには行かせないわ。イライラして次から来なくなりそうだから。」
「それはありえそうですね。」
お母様とリウス兄様は勝手に決めつけて行ってしまう。それに着いて行くしか、なかった。挨拶回りに出かけ、終わると大体、同い年くらいの子が集まっています。
「ルナさん、お久しぶりです。」
今、話しかけて来たのは八家のメビウス家の次女のリュウカだ。年齢は同じだ。この子は雰囲気はふわふわしていて、すごく優しいのだ。怒るところを見たことがない。髪と瞳の色は水色だ。この子は絶対にウラド兄様に近づけてはいけない。もし、兄様がこういう尽くすタイプが好みなら勝てる気がしない。
「お久しぶりです。」
「ニュクシオン家に一人、養子に入ったと聞いたんですが、本当なんですか?」
「はい。本当ですよ。」
「ご挨拶をしたいのですが…今はどちらに?」
「すみません。城に入った途端に女性に話しかけられて、別れてしまいまして、それから合流出来てないのです。」
「それは、残念ですね。またの機会にします。」
「はい。それより、アイリスさんはどこにいるんですか?」
辺りを見回すと、八家の中でミュートス家の長女の姿が見えていないのです。他の八家の子供達はいるのですが…
私の一つ上の良い人です。ミュートス家は長男が学校を卒業し、結婚をして次期当主に決定しました。長女のアイリスさんは青い髪がとても綺麗で、八家の子供が揉めるとすぐに仲介に入り、まとめ役なのでいない時は大変です。ですから、すぐに気づきました。
「先程、お会いしましたよ。何やら、急いで外に向かっていたようですが。」
「そうですか。」
「ルナ、いいかしら?」
「ディアナさん、ミリーさん、お久しぶりです。」
ドイルさんの姉のディアナさんとウラド兄様の妹のミリーが話しかけて来た。
「ウラドはどこにいるの?」
「今はどちらにいるか、わかりません。ハグれてしまいまして…」
「え〜…せっかく、会えると思ったのに…」
「すみません。」
(ミリーさんは意外にお兄ちゃんっ子だったみたいですね。)
「本当にウラド兄様のことが好きなんですね?」
「なっ⁉︎違うわよ!」
「はいはい。」
「本当にわかってるの⁉︎」
「わかってます。」
「私もすごく、残念ね…」
「ディアナさんは兄様に招待状をもらいましたよね?」
「ええ…あれは嬉しかったわ。」
「そうですか。」
「ただ、ドイルが負けなかったら、もう少し良いことが出来たのにね…」
「こちらにも譲れないものがあったので…すみません。」
「ルナのせいじゃないわよ。うちの愚弟の所為だから。」
「は、はぁ…」
ディアナさんは異様に弟のドイルに対して当たりが強い。けれど、兄様に対しては甘々らしい。
「皆さん、ウラドさんに会ったことがあるんですね?」
「まぁ…元々はブレイクス家から養子に行ったからね…」
「そうなんですか⁉︎」
「私の双子の兄だし…」
「それは…けれど、パーティーなどでは一度も見たことがないですね。」
「全部、サボってたからね。」
「どうせ、今も何処かでサボってるでしょ。」
クシュン
「風邪か?」
『誰か、噂をしてるんじゃない?』
「ありえるな。」
『それにしても、さっきの女、生意気ね。』
「ああ。いきなり、結婚してあげるから私を指名しなさいって言われるとは思わなかった。」
『本当にね。』
城に入った途端に話しかけて来た女は確か、ニュクシオン家のライバルのドレッド家だ。ドレッド家はニュクシオン家の次に闇属性の家としては有名だ。だが、ニュクシオン家が落ちぶれないため、ドレッド家が八家に入ったことは一度もない。ドレッド家は確かに強いが、ニュクシオン家と比べると遥かに劣る。ライバルというのは一方的にドレッド家が思ってるらしい。
それで、パーティーに行くのが萎えたウラドは噴水の近くに良いところがあったから横になってるのだ。ここの噴水は自分的にかなり、気に入ったのだ。左右対称でかなり、綺麗だ。
「一人で来ましたから、出て来なさい!!!」
途端に噴水の反対側から声がした。
(メネシス、周りに隠れているのは六人か?)
『うん、どいつもそれなりの腕がたつわね。』
(まぁ…俺たちの敵じゃないだろ。)
『当たり前よ。光属性の魔術師以外なら私たちは最強よ。』
(ああ…一旦、様子を見るか?)
『ええ…そうしましょう。』
そのまま寝てるふりをして、気配を消した。
「初めまして、アイリス・ミュートスさん。」
「初めまして。私に何か用ですか?こんな脅迫文を寄越してどうするつもりですか?」
「中にある内容を見ましたか?」
「はい。私の妹を人質に取ったというのは本当ですか?」
「さあ?素直に答えると思ったんですか?」
「くっ」
「まぁ…では、ご対面です。」
すると青い髪をした小さい子供がいた。
「ミナモッ⁉︎」
「ほらね、本当でしょう?」
「あなた達の要求はなんですか⁉︎」
「私たちはあなた達、ミュートス家の八家からの降格が狙いです。」
(そういうことか…八家は名誉だからな。それが欲しくて何処かの有名な家が動いたんだろ。)
『けど、そこで一人で来ちゃうのは間違いね。』
(俺たちがいるから一人じゃないけどな。)
「それで、私にどうしろと?」
「あなたが捕まれば、妹を解放します。」
「人質の数は変わらないですよ?」
「それでも、今はあなたに利用価値があるのです。」
「そう…力づくで返してもらいます。ウォーターカッター」
グラシアがウォーターカッターを発動させた。不意打ちでミナモを捕まえているやつに当たった。
「ファイアーボール」
「ウォーターバリア、ウォーターシュート」
ウォーターバリアを発動させて、ファイアーボールを防ぎ、ウォーターシュートで複数の敵を攻撃した。そこで隙が出来たところでミナモを救出していた。
「ミナモ、大丈夫ですか?」
その瞬間、ミナモがアイリスを刺した。
「えっ?ミ…ナ…モ?」
「ふぅ、上手く行きましたか。」
初めに攻撃された奴がなんのダメージがなかったかのように立ち上がった。するとミナモの輪郭が崩れ、別の人物になった。
(幻覚か⁉︎)
「回収して、早く撤退しますよ。任務完了です。」
まず、敵は全員、ヤられたふりをして、それからアイリスがミナモを救ったところをミナモの形をした奴がアイリスを確実に攻撃をする。見事にそれがハマったということだ。
『ウラド!』
「メネシス、第一形態変化」
「誰だ⁉︎」
「お前達は足止めをしておけ。俺はこいつを本部に連れて帰る。」
そう言うと、一人の奴が雷を纏って、逃げて行った。
「闇の業火よ、敵を灰塵にしろ…ダークネスヘルファイア」
ダークネスヘルファイアはダークフレアの上位派生技だ。
「「ファイアーウォール」」
「「「「なっ⁉︎」」」」
二人が同時に作ったファイアーウォールを通過し、二人の敵に精神攻撃を与えて、気絶させた。おそらく、放置をしてれば、明日の朝まで目が覚めないだろう。
「シャドウウォーク」
全員がダークネスヘルファイアに注目してるうちに、影になり、一人の敵の後ろに回った。そこで第一形態変化の糸で敵に精神攻撃を与えて気絶させた。あとは敵が一人だけだ。
「くっ…ウインドバースト」
「ダークウインドバースト」
ドゴゴゴゴゴッ
風を大量敵に叩きつける技だ。敵の風を俺の黒風が一瞬で押し返して、敵を弾き飛ばした。それが噴水に直撃して壊れた。直すのにいくら、かかるか不明だが、かなりの額だろう。だが、正当防衛だから問題はないだろ。
「メネシス、第二形態変化」
吸血鬼の姿になると、アイリスが流した血の匂いを嗅いで追跡を始めた。その前に倒れている奴の首に噛みついた。少しでも魔力を回復させてから追跡をするつもりだ。敵がどれだけいるのか、不明のため、少しでも回復させた方が良い。血の不足で死にかけてるが、放置をした。
『血は美味しいわね。』
(味はリンクしてるんだっけ?)
『ええ…最高よ。毎日は欲しいくらいよ。』
(それは無理だろ。)
追跡を開始した。