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セレナとデートをする日がやって来た。俺は王都をちゃんと歩いたことがないので、全く、道案内を出来ない。そこで、暇な時に一人で色々と歩いた。そこでデートに行くならこういうところがオススメという本を買い、全てを回った。かなり、大変だった。
「お待たせしました。」
セレナは白色のワンピースを着ていた。所々に青いリボンと白いフリルが付けてあって、上品な服に見えた。
「凄く似合っていて可愛いよ。」
「ありがとうございます。」
(こういう風に褒めると相手が喜ぶと書いてあった。)
『完全に本だよりね。』
(相手が喜んでいるなら結果オーライだろ。)
「時間がもったいないし、行こうか。」
そう言ってさりげなく、手を繋ぐ。ここも重要らしい。本曰く…
「はい!」
手を繋いで行こうとしたら、セレナが腕を絡ませて来た。少し動揺したが、本人が楽しそうなのでそのままでいた。
「これから、どこに行きますか?」
「どこか、行きたい場所はあるか?」
「そうですね。まずは昼ご飯からにしましょうか。」
「なら、良い店を知ってるから、俺が案内をするよ。」
今から行くところは本には載っていないところだ。表にはなく少し入ったところにある店だ。たまたま、見つけ、入ってみると美味しかったのだ。そこは、常連がたくさんいる店なのだ。知る人ぞ知る店なのだ。
「こんなところに店なんか、あるんですか?」
「ほら、ここにあるだろ?」
「本当ですね…大丈夫なんですか?」
「ここは常連客しか来ない店なんだ。だからそこまで混んでないが凄く美味いんだぞ。」
「そうなんですか…」
まだ、セレナは疑ってるようだ。だが、俺が王都の有名店で食べた中で一番、美味かったんだ。中に入ると、カウンターとテーブルがあり、人はほとんどいない。そこで二人用のテーブルに座るとランチメニューを二つ頼んだ。
「中の雰囲気は良いですね…」
「煉瓦造りだから店自体が明るいな。」
「ここのメニューはなんなんですか?」
「店長のオススメしかないんだ。店長が良いと思う物がメニューになるから、毎日変わるんだ。」
すると、前菜が出てきた。セレナが食べると
「あの、これ凄く美味しいんですけど…」
「だから、言っただろ。」
「はい。王宮の料理よりも美味しいです。」
「満足そうで良かったよ。」
「はい!」
それから三十分ほどして食べ終わった。
「次はどこに行きますか?」
「今日は何時までいられるんだ?」
「夕飯の時間までに帰えるように言われました。」
「そこまで、時間があるわけじゃないな。時間の限り、遊び尽くすぞ。」
「はい!」
「あの服屋に入るぞ。」
「はい!」
「いらっしゃいませ。」
「セレナはどういう服が見たい?」
「ウラド様が選らんでくださいませんか?」
「わかった。」
(メネシス、助けてくれ。)
『しょうがないわね…とりあえず、ワンピースから見ましょうか。』
(わかった。)
「ワンピースはどこにあるんだ?」
「こちらにございます。」
店員が案内をしてくれた。そこには大量のワンピースがあった。
「これ、全部がワンピースなのか?」
「はい。」
(量が多過ぎだろ…)
『これは予想外だわ…でも、これを一つ買えば、十分ね。』
(当たり前だ。選んでるだけで日が暮れるぞ。)
『急ぎましょう。』
それから良いのを見つければ、セレナに試着してもらい、服をまた、探すというのを繰り返していた。すると、一つ見た瞬間に気に入った物があった。淡い水色のワンピースだ。特に何も付いてないが、上品に見える。自分的にはこれが好きだ。
『あなたって、本当にシンプルなデザインが好きよね。』
(まぁな。)
「セレナ、これを着てくれないか?」
「は、はい!」
着替えて出てくると、いつもは可愛らしい雰囲気だが、今は大人の中に可愛らしい雰囲気がある感じだ。清楚な感じが良い。
「よし、それを買うぞ。」
「えっ?値段を見なくて良いんですか?」
「構わない。」
「ありがとうございます!」
レジに着いて値段を見たら、少し後悔をしたのは言うまでもない。まぁ…セレナが喜んでいたから良かったが。
そこから一回も休まずに、遊び尽くした。たまに、デザートを食べたりしたがほとんど、休まなかった。
城の前まで送ると
「時間が早く感じます。」
「そうだな。」
「また、デートしましょうね?」
「気が向いたらな。」
「はい!今日は楽しかったです!」
そう言って、セレナは城に入って行った。
「おい、お前ら出てこいよ。」
すると物陰からウィラードとルナが出てきた。
「いつから気付いてたの?」
「初めからだ。」
この二人は初めからずっと尾行をしていたのだ。すぐに気づいたが、放置をしていた。だが、最後まで着いて来たので、お説教タイムだ。
「気になってしまい、隠れて見てました。申し訳ありません!」
ルナは涙目になってるが、ここで許したら、また、やりそうな感じなので説教は続けることにした。
「二人とも家に帰るぞ。そこでお仕置きだ。」
二人を連れて、家に戻ると、リウスさんにお願いして、薬などの手伝いをさせた。次の日になると、二人は灰のように燃え尽きていた。余程、過酷だったのだろう。まぁ…自業自得だが。
それから一週間程、平和の時を過ごしていると、突然、訪問者が現れた。
「ウラド、ここにいるのか⁉︎」
「なんだ、お前か…」
「突然、ブレイクス家からニュクシオン家に養子になったと聞いて飛んで来たぞ!」
「そうか…」
こいつは八家のガイアス家の長男ドイルだ。ブレイクス家はガイアス家と仲が良いので、知り合いになる機会が多いのだ。髪の色は茶色で、顔も良いんだが、とにかくチャラい。こいつはリウスさんとは違う残念なイケメンだ。
「寂しいと思って、会いに来てやったぜ。」
「寂しくないから、帰って良いぞ。」
「親友に対して酷くないか⁉︎」
「親友かどうかも微妙だけどな。」
「おい!」
「それで、何の用だ?」
「俺と勝負しろ!」
「またか…」
こいつとミリーとはよく、勝負をしてボコボコにしてやった。今まで数えられないほど、倒してやった。
「俺の目標はお前を倒すことだからな。」
「俺の前にルナとやってくれないか?」
「ルナって誰だ?」
「俺の新しい妹だ。」
「なるほど…」
「ルナ、もしドイルに勝ったらこの間のことを許してやる。」
「本当ですか⁉︎」
「ああ。」
「なら、やります。」
「俺が勝ったら何をくれるの?」
「ディアナさんのお願いを聞いてあげる。」
「本当か⁉︎」
ディアナさんはドイルの姉だ。昔からお世話になっている。一つ年上で、かなり良い人だ。ドイルはディアナさんに逆らえないからもし、俺にディアナさんのお願いを聞いてもらえるとドイルはディアナさんに何かをしてもらえるのだ。
「まぁ…できる範囲でな。」
「十分だぜ。」
かなりやる気になってくれたので、俺としては構わないが…
『自分に矛先が向かうのが嫌だっただけなのにね。』
(うるさい…)
「ルナとか言ったな。さっさと勝負をするぞ。」
「初対面の相手をいきなり、呼び捨てなんて、無礼ね。礼儀知らずには躾が必要ね。」
「俺のことはドイルで良い。」
「わかったわ。早く、終わらせてあげるから、行きましょう。」
「それはこっちのセリフだぜ。」
二人はかなり、やる気を出して訓練場に向かった。
「一応、見に行くか…」
二人の後をついて行った。
「俺が審判につく。では、はじめ。」
「ノア、第一形態変化!」
ドイルの手元には大きなハンマーが出てきた。
「クリーパー、第一形態変化」
ルナの手には鎌が出ている。
「土よ、敵を貫け、アースランス」
「闇よ、敵を貫け、シャドウランス」
すると、初めは拮抗していたが、ルナのシャドウランスがドイルのアースランスを破壊した。だが、ドイルはその程度のことで諦めはしない。すぐに切り替えて、ルナに近づく。そして、地面に向かって、ハンマーを叩きつけた。するとかなりの振動が伝わり、ルナは立ってるのがやっとになった。ルナへ土の槍が襲った。これはアースランスを誤魔化しているだけの技だが、有効だ。敵は土を叩けば、槍が出ると勘違いをする。
「ダークフィールド」
ルナは詠唱破棄で発動して、時間を稼ぐと、回避をして持ちこたえた。
「シャドウウォーク」
自らの体を影にして移動する技だ。影になってる間は攻撃を受けることもなく、攻撃をすることも出来ない。影になり、ドイルの後ろに回って、鎌を振り下ろした。ドイルはガードをしようとしたが、ルナはドイルを狙っていなかった。ドイルの影を斬ったのだ。すると、ドイルも斬られた。
「ガハッ」
敵の影を斬るとその場所を敵の生身にも影響させることができる技だ。名前はシャドウカット。これは闇の魔法師なら誰でも出来るが、ここまで、効率良く発動できるのはルナだけだ。他の魔法師と比べて魔力の消費量が全然違うのだ。
「くそっ」
そう呟くと、思いっきりハンマーを振った。ルナはそれを鎌でガードした。
「ゴーレムバーストパンチ!!!」
本来、この技は殴った時に発動するのが基本だが、ドイルはハンマーから発動させる。それは自分に最も合った形がハンマーだからだ。
鎌でガードしていたハンマーならゴーレムの腕が出て来てパンチを放って来た。しかも、どんどん出て来て、壁まで伸びてきた。そして、ルナごど壁に激突した。
ドゴゴゴゴッン
直撃していたら、かなりのダメージを食らっただろう。だが、ルナはドイルの後ろに回っていた。ゴーレムの腕が伸びた瞬間、シャドウウォークを無詠唱で発動して、激突した方に注目を集めさせている間に後ろに回り込んだようだ。土埃が晴れた時、ドイルはルナを探し、後ろにいることを確認したが、すでにルナは鎌を振りかぶっているので反応が出来ない。
「カオススラッシュ」
ただ、斬るだけだが、その一振りに最上級魔法の魔力を籠めることで爆発的な威力を発揮する。
「ダークフィールド」
ウラドはドイルを守るため、ダークフィールドを発動した。しかし、すぐに破壊された。ドイルが避けるだけの時間を稼げれば、よかったのだ。
「ウラド、助かったぜ…」
流石に死ぬ一歩手前だったので、満身創痍のようだ。
「試合はルナの勝ちで終わりとする。」
「ルナ、後で、説教な。」
「うっ、ゴメンなさい…」
ルナもオーバーキルということを理解しているようだ。あのまま、ドイルに直撃していたら、間違いなく、重症だった。
「だが、強くなったな。」
「えっ?」
「前は変なプライドの所為か、実力が発揮出来ていなかったが、今回は良かったな。」
「ウラド兄様…」
「最後のはやり過ぎだがな。」
「はい!」
完全にルナはご機嫌になった。ウラドがルナのことを褒めたのは初めてかもしれない。
「ドイル、怪我は大丈夫か?」
「ああ、ヒーラーに治してもらったから問題ない。」
「そうか、なら、部屋に戻るぞ。」
「はい!」
ルナはウラドの腕に絡ませて来た。明らかにセレナとのデートが影響をしている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ルナは強いな…」
ドイルが悔しがっていた。部屋に戻ると、話をしていた。
「毎日、兄様に見てもらってますから。」
「なるほどな。」
「私は決して、慢心をしないと決めたのです。たとえ、どんな時であろうと…」
おそらく、ゴーレムの腕が伸びた時のことを言っているが、明らかにセレナとの試合のことを思い出していたのだろう。
「くそっ…姉貴になんて言われるか…」
賭けに負けたことにより、ディアナさんに何を言われるのか、考えたくもないようだ。
「まぁ…頑張れよ。」
「ウラド、頼むよ。姉貴の分までお願いを聞いてやってくれないか?」
「嫌だ。」
「そこをなんとか…」
「お前が負けたのが悪いだろ。」
「それはそうだが、ここからは俺の命が関わることなんだ。だから、一回だけで良いからさ…頼むよ。」
「お前は俺に何を出来るんだよ。」
「・・・・・」
「じゃあ、話は終わり。」
「ちょ、ちょっとだけ、待ってくれ!」
「なんだ?」
「この家に招待するだけで良いからさ…」
「それで?」
「楽しく、会話をしてください。お願いします。」
「まぁ…それくらいなら良いぞ。」
「本当か⁉︎」
「ああ…」
「よし、ならこれから女の人がたくさんいる楽しいところにつ「ギンッ」・・・」
「兄様に何を余計なことを教えようとしてるんですか?」
「い、いえ、なんでもありません…」
ルナは一瞬でシャドウデスサイズを発動させて、ドイルの首に当てた。今の魔法の発動は完璧だった。試合の時もその調子でやれと言いたくなるくらいだ。
(教えるとかの前にすでに行ったことがあるんだけどな。)
『あれは事故じゃない?』
セレナとのデートでたまたま、路地裏に良い店があったので、それから次々と入って行ったのだ。すると、そういう店やカジノやら何やら、たくさん、入ってしまったのだ。そこで誘われてしまって、少しだけ、いたところもあるのだ。
「じゃあ、貸しを一つでどうだ⁉︎」
まだ、首に鎌を当てられてる。
「今回はしょうがないな。それで勘弁をしてやる。その代わり、その貸しを無かったことにしたら、ディアナさんに何らかの罰を与えるからな。」
「お前が姉貴に罰を与えられるのか?」
「例えば、一年間連絡無しとか。」
「それは勘弁してくれ!俺が殺される!!!」
「なら、しっかりと守るんだな。」
「はい!守ります!!!」
「じゃあ、これ。」
「これ、なんだ?」
「前からお前とディアナさんを誘おうと思ってたから書いていたんだが、お前から渡してくれ。」
「そうか、助かるぜ。」
「じゃあ、姉貴と相談して連絡する。」
「ああ。」
ドイルは自分の家に帰って行った。