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ニュクシオン家の門の前に着くとブレイクス家よりデカイ門があった。
(本当にデカイな…屋敷もウチよりデカイぞ。)
『本当ね。こっちの方が王都の中心にあるのにね。』
(ああ…)
八家は全てが王都にある為、どこも近いのだ。
「君、こんなところに何か用か?」
(この人、強いな…)
『ええ…』
門番が出てきた。かなりの使い手だということがすぐにわかった。メネシスも感じ取ったようだ。
「はい。これを渡せと言われました。」
母様から着いたら渡せと言われていた手紙を渡した。門番がその手紙を開けて、読んでいると、
「少し、待ってくれ。当主に連絡をするから。」
「わかりました。」
それから五分程したら
「案内をするから着いて来てくれ。」
「はい。」
「君はクレア様に似ているな。」
「母様を知ってるんですか?」
「ああ…今、ここで働いている者で知らない人はほとんどいないよ。」
「そうなんですか?」
「なんたって、火の魔法師だったからね。それなりに浮いていたよ。それでも周りにいた奴らはクレア様が努力してるのを見て認めていたけどね。それに相手が誰であっても優しいからね。使用人でも、従業員でも…」
「そうですか。」
昔の母様のことを初めて知ったかもしれない。普段は全く、話さないのだ。それから、話しながら歩くこと五分、立派な部屋の前に来た。
コンコン
「奥様、連れてまいりました。」
「入りなさい。」
「ほら、行ってこい。」
「はい。失礼します。」
部屋に入ると、母様に似た顔の女性がいた。髪と瞳の色は違うがすごく、似ている。
「初めまして、私はミレイよ。あなたがウラドね。」
「はい。」
「クレアに似ているわね。」
「そうですか…」
「ええ。それより座って。話が長くなるかもしれないから。」
「はい。」
『ウラド!!!』
すると、無詠唱で魔法を放って来た。俺の影から槍が出てきた。シャドウランスをだ。シャドウランスは自分の影からか、自分の影が繋がっている影ならどこからも出せる上級魔法だ。今回はミレイの影がソファの影と繋がり、ソファの影が俺の影と繋がっていた為、俺の影から槍が出てきた。
(魔力強化!!!)
無属性の魔力強化で身体能力を上げて、回避した。
「なんのつもりですか?」
警戒をしながら質問をした。
「ふふっ…ごめんなさい。あなたを試したかったの。」
「はぁ…」
「満点ね。攻撃を食らっても反応が出来れば良いと思ったけど、まさか、完璧に避けられるとは思ってなかったわ。」
「そうですか。」
「さて、話し合いをしましょうか。」
警戒を緩めずに、ソファに座った。
「そんなに警戒しなくても良いのに…」
少し残念そうに言ってきた。だが、流石に無理だ。いきなり、攻撃して来たのだから。
「無理ですよ。」
「そう…私には二人の子供がいるの。一人があなたの三つ上の男の子とあなたと同い年の女の子がいるの。」
「はぁ…」
なんの話か、全くわからなかった。
「実は長男のリウスがかなり、残念な子でね。次期当主なのに拒否をして来たのよ。」
「えっ⁉︎」
「研究が大好きでね。研究をもっとしたいから、当主にはなりたくないと言って来たの。それでね、長女のルナにしようと思ったけど、性格に少し難ありで。本当は良い子なんだけどね…」
「どういうことですか?」
良い子なのに性格に少し難ありとは意味がわからない。
「魔法師としての腕のがかなり良いの。それで同世代の闇の魔法師なら全く、寄せ付けないのよ。それで、有頂天になってるの。それでね、お願いがあるのよ。」
(すごく、嫌な予感がする。)
「リウスはもう、諦めたから、ルナを倒してくれない?私が倒しても年齢の差があって、いまいち効かないのよね。だから同い年のウラドにお願いしたいの。ダメ?」
「まぁ…良いですけど。」
「本当に⁉︎ありがとう!!!」
(人が断れないような言い方は母様に似てるな。やっぱり、従姉妹か…)
「そういえば、ルナって俺の再従兄弟ですか?」
「そういえば、そうね。じゃあ、今から行きましょう。」
「今からですか?」
「今からよ?」
「はい。」
「そういえば、一応、あなたにも継承権があるからね。」
「そうですか…」
「興味がなさそうね。」
「俺に回ってくることはなさそうですから。」
「わからないと思うけどね。」
それからいろんなことを話しながら移動した。すると、前の方に訓練場が見えた。
「奥様、こんなところにどうしたんですか⁉︎」
訓練場にいた人達がみんな、こっちを見た。やはり、当主が訓練場に顔を出すのは珍しいようだ。
「紹介したい子がいてね。」
「はぁ…」
「この子はウラド。ウチの養子になったわ。一応、血は繋がってるわよ。この子の母親はクレアなの。」
その瞬間、訓練場がざわめき出した。やはり、母親は有名らしい。
「この子がクレア様の息子ですか?」
「ええ。」
「でも、クレア様はブレイクス家に嫁入りしましたよね?」
「だから、養子にしたんでしょ。」
「はぁ…」
「この子、闇属性だから心配はいらないわよ。ルナ、ウラドと試合をしなさい。実力を見たいから。」
「わかりました。」
たくさんの人の中から一人の女の子が出てきた。髪と瞳の色は黄昏色で、ニュクシオン家の象徴ともいえる色だ。ニュクシオン家は代々、黄昏色の髪をしていることが多い。そして、可愛らしい顔で目もパッチリとしていて、将来は間違いなく、美人になるだろう。
「本気でやって良いから。」
ミレイがこっそりと話しかけて来た。
「わかりました。」
それから、全員が端に行き、審判が一人の状態になった。闇の魔法師とは初めての対決だ。
「はじめ!!!」
「影よ、私に力を…シャドウデスサイズ」
ルナが影の中から黒いデスサイズを出して、突進して来た。
「メネシス、第一形態変化」
精霊と契約することで出来ることが四つある。まずはその精霊の属性を使うことができる。二つ目は第一形態変化といって、別名ファーストシフト。これは精霊が持ち主にあった武器などに具現化する能力だ。三つ目が第二形態変化、別名セカンドシフト。これは精霊の特徴的な部分を契約者に具現化することだ。精霊によって、それぞれ変わる。四つ目は精霊と共に戦うことだ。共に戦う時は精霊が消費する魔力も契約者が払うことになるので、長時間使うことはできない。
第一形態変化で俺は両手に手袋を出した。
「闇の炎よ、敵を燃やし尽くせ…ダークフレア」
紫炎がルナに向かって動く。それをルナは容易に避けるが、躱した瞬間に追尾した。
『なっ⁉︎』
周りには闇の魔法師ばかりなので、このようなダークフレアは初めて見たのだろう。ルナはなんとか、躱し、それから何度も襲いかかる紫炎を躱している。そのせいで、俺には全く、近づけない。
「くっ」
それから少しすると躱しきれなくなって来た。シャドウデスサイズを解除し、回避に重点をおいた。
「クリーパー、第一形態変化」
漆黒の鎌が出てきた。シャドウデスサイズとは威力がバカみたいに違う。それで紫炎を斬ろうとした。
(俺たちの魔法はそんなに甘くないぞ!)
すると、ルナは鎌で紫炎を斬ったつもりが全く斬った感触がなかった。それは紫炎を斬ることができなかったのだ。
これがメネシスの固有魔法だ。メネシスは闇以外に固有魔法を持っている。その固有魔法は精神干渉系魔法だ。俺が放った魔法は全てが精神干渉系魔法に変えることが可能だ。精神干渉系魔法は実際に物体として実在しないようにする為、相手に当てても、傷をつけることは出来ないが、精神に直接攻撃ができる。いかなる防御をしようとも、攻撃を通せるのだ。この説明を受けると最強に思えるが、弱点がある。それは光属性なら下級魔法でも防御可能なのだ。簡単に言えば、光属性と戦った場合、適当に防御をされるだけでアウトということだ。だが、それ以外の属性が相手だった場合、効果を最大限発揮するのだ。
「えっ⁉︎」
一発で気絶する程、魔力を込めてないので、気絶はしていないが、息は少しきれている。
「行くぞ。シャドウランス」
「影よ、敵を穿て…シャドウランス」
「なんでですか⁉︎」
自分の影から大量の槍が飛び出した。ルナは詠唱破棄をしないで、ちゃんと詠唱をして魔法を使用した。ところが、ウラドのシャドウランスにルナのシャドウランスが破壊されてルナはシャドウランスを多少、食らってる。精神的にだが…
そこで、ルナは多少、食らっても接近戦に持ち込む為に突進して来た。俺は迎撃を選択した。俺の手袋はただの手袋ではない。ウラドが手を振ると大量の糸が出た。
「えっ⁉︎」
ルナはビックリしていたが、鎌で弾いた。その点は流石だった。だが、糸の所為で近づけなくなってしまった。糸は鋼糸と同じなので、鎌でも斬れない。大量の糸が襲ってくるのを鎌で防いでいるが、固有属性が纏った糸を大量に食らって倒れてしまった。
この糸は闇と固有属性を纏えるので、実態のある糸と実態のない糸に自由に変えることが可能なのだ。それがこの第一形態変化の強みだ。光属性には効かないが…
『・・・』
周りの観客はルナが負けたことを理解していなかった。ルナは闇の魔法師として、当主を超えると言われる程の腕を持っていたのだ。それがあっさりと負けるとは思っても見なかったようだ。
「流石ね。ここまで強いとは思わなかったけど…」
「いえ…」
誰よりも早く回復したミレイが話しかけて来た。
「ルナは大丈夫なのよね?」
「はい。気絶してるだけです。寝れば回復します。」
「そう。ありがとね。」
今のお礼には様々な意味が含まれていた気がする。
「いえ。大丈夫です。」
「じゃあ、ルナを医務室に連れてってあげてね。ウラドはこれから話があるから来てね。」
「わかりました。」
また、同じ部屋に戻ると、
「助かったわ。あんなに圧倒的に強いとは思わなかったわ。あれは固有属性かしら?」
「はい。」
「ブレイクス家のおかげでニュクシオン家はすごい魔法師を手に入れれたわ。」
「そうですね。」
そんなことを話していると、扉が突然、開いた。そこには先程、気絶したルナがいた。
「あなた、動いて大丈夫なの?」
義母さんが心配をしている。義母さんと呼んでいる理由は義母さんにそう、呼んで欲しいと頼まれたのだ。なんか、自分の子供はしっかりしているが、他人行儀みたいになってしまって悲しいみたいだ。
「だ、大丈夫です。」
多分、気力でなんとかしてるっぽいな。
「ここに座って良いぞ。」
自分の隣を叩きながら、言った。
「はい!」
すると、ルナはビックリする程、早く、隣に座った。これには義母さんもビックリしたようで口が開いたままだ。
「お母様、ウラド兄様は次期当主にする為に養子に取ったんですか?」
「い、いえ。違うわ。今のところ、ルナが次期当主の予定よ。」
「私は降ります。次期当主はウラド兄様に譲ります。」
「「はっ?」」
「ですから、次期当主はウラド兄様に譲ります。」
「それはわかるけど、どうして?」
「私よりも魔法師として、遥かに優れていて、さらに血縁関係も問題がありません。なら、私よりも相応しいです。それに、再従兄弟は結婚が出来ます。ウラド兄様が次期当主になって私と結婚をすれば、全ての問題が解決します。」
「けど…」
流石に義母さんが戸惑ってる。自分の子供二人に断れるとは思ってなかったらしい。さらに、勝手に色々と言われて混乱している。
「ということで、失礼します。私は訓練場に行ってまいります。」
そう言い残して、出て行った。
「「・・・・・」」
義母さんはルナの変わりように戸惑い、俺は突然の出来事に戸惑っていた。
「義母さん、これは良かったんですか?」
「わからないわ…」
余程、頭が痛いようで頭を抱えている。
そんな感じでニュクシオン家での一日は終わった。